階下の声
ベッドに沈んで眠っていると、周囲への感覚が鋭敏になる。
特に聴覚は研ぎ澄まされる。
アリサの意識は、1階から聞こえてくる楽しげな声に耳を傾ける。
フラスコがクラーレに渡したのは交信紙片だろう。
今でも思い出す。
静かな森の中、泥の中、一面砂ばかりの砂漠、焼け落ちた町の中……
散開して敵を待ち迎えるその間、フラスコはぼそぼそとチームの皆に語りかけていた。
緊張感を保つため、眠気を飛ばすため……色々と理由はあったろうが、アリサはその言葉に救われきた。
フラスコはお喋りな方ではなかった。
彼なりにチーム内の和を保とうとしたのだろう。
彼を知らぬ部隊内の者は内弁慶だと笑ったが、その言葉への反発かチーム内の結束は高められたと言えよう。
そして今、そのフラスコの声はクラーレが独占している。
クラーレにとってはただのお喋りの延長かもしれないが、声だけ聞こえるアリサにとってはたまったもんじゃない。
時折クラーレの笑い声が聞こえる。快活で優しさに溢れた声だ。
私には無いもの
フラスコ様はいったいどんな顔であの人と話しているの?
ついつい長話をしてしまった。
相手がフラスコとはいえ、よっぽど暇だったのかな。
交信紙片をポケットにしまったクラーレは、2階からアリサが降りてきたのに気付く。
「どしたのお腹空いた?」
「何の話をしてらしたんですか……」
「あぁ、アリサちゃん可愛いって話」
「は、はぁ!?」
「ほら可愛い」
「何を言ってるんですかもう……!」
膨れながらソファーに座ったアリサを後ろから抱きしめるアリサ。
「放っておけないんだよね……多分フラスコも同じだと思う」
優しく頭を撫でるクラーレの手に導かれるように、アリサは頭をクラーレに預けていく。
「フラスコ様は、私のことを女として見てはくれないのでしょうか?」
「どうかな、あいつだって男だしね」
アリサを抱く力が強くなる。
「クラーレさん……?」
「ね、アリサちゃん。男はちゃんと選びなよ?じゃないと地獄見るから」
「クラーレさんは苦労を?」
「えぇ、青春もクソも無くなっちゃった。だからちゃんと観察しなきゃね」
「じゃあ、クラーレさんから見てフラスコ様は?」
アリサが振り向き、クラーレを不安げに見る。
こういう顔を向けられるとつい意地悪してみたくなる。
悪い癖だとクラーレは思ったが癖には逆らえない。
「好き」
アリサの表情が
「一緒にいて苦じゃないの」
凍る。
「それに放っておいたらのたれ死んじゃいそうだし」
「何て……ね」
……からかうつもりだったのに、妙に照れちゃった。