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母性の目覚め

「傷が癒えたならその手足はどうした。まさか野盗か」


無き手足に目をやったアリサは切なく呟く。


「途中までは何ともなかったのですが、副作用でしょうか。それとも体が拒んだのか……ポロポロと」


腫物を扱うように、左腕があった場所に手を伸ばすフラスコ。


「痛みは」


「ありません。むしろ酷使せざるを得ない右腕と左足の方が痛いくらい」


「そうか……」


痛みが無いのは結構だ。だが楽観してはいられない。

もしあの黒雲が心まで侵していたら?痛みを遮断して黒雲を受け入れさせ、乗っ取ろうというのならば。

アリサ一人とは限らない。

この町、国、大陸……どれほどこの黒雲を押し付けられた者たちがいるのか見当もつかない。


フラスコが守れるのはきっとアリサだけだ。

もし他に黒雲を飼った者が牙を剥けば、フラスコは容赦なく切り捨てる。

罪なき町人だろうと王族だろうと。




「ただいまー、とりあえず爽やかっぽいの選んできたけど」


「ありがと。包丁包丁っと」


「あ、ネズミに追っ払うのに使って捨てちゃった」


「……」


まさか鍛えた剣術が果物剥きに使われるとは思わなんだ。



「はいあーん」


「あの!自分で食べられますので!」


どうやらアリサはクラーレの母性本能に火を付けてしまったらしい。

確かに初見は取っ付きにくいと定評のあるアリサだが、心を開いた相手にはよく甘える。

チーム内のポジションもクールなマスコットだったかもしれない。


クラーレとやら、中々見る目があるな。


「そういやアリサ。お前の報酬って何だったんだ?」


「さぁ、皆さんと同じ家だとは思いますが……」


と、クラーレを見る。


「まさか女で口封じってわけには行かないでしょうけど」


「残念。手は出されてないから機能してないも同じだけどね」


「ぜっっったい!絶対に手を出しちゃダメですよ!!賄賂と同じなんですから!」


賄賂か。

確かにそうだ。

住処と餌と女を与えときゃ満足だろうってか。

この国には住処もなく日々の食事にも困り、一度も女を知らぬまま死んでいく者たちも大勢いる。

彼らからすれば贅沢この上ないことだろう。


だが、彼らには悪いが俺は体を張った。

矢と魔法の暴風を耐え、血と臓物の雨を浴びて居場所を得たのだ。


魔王は未だ健在。だが一度魔王軍の壊滅を喧伝した以上、一生遊んで暮らせる報酬も出さず、

魔王を討った者たちは一騎当千の強者ばかりのため暗殺もできない。


情けない国に生まれたと嘆きたいが、腐っても故郷だ。

それに、目に見えぬ国家のために土地を捨てる義理は無い。



「ね、大丈夫?」


クラーレに肩を揺さぶられ、思考の海から顔を出す。


「あんたまで変になんないでよ」


「大丈夫だよただの考え事」


「そう?……そだ、アリサちゃんも来たことだし、料理でもやってみようかな……」


何を思い立ったのか、どうやらクラーレ嬢はアリサに触発されて何かに目覚めたようだ。

あれ?そういえばメイドって触れ込みじゃ……


メイド?家政婦?


今のクラーレは、フラスコにとってなんとも名状しがたい存在へと変貌していた。



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