第九話 勇者は違和感を伏せる
大変大変お待たせしました。
かなり久々に更新となります。
大変申し訳ございません。
今回はエイトの修業編です!
また伏線もチラホラと見えるので考察してみて下さい笑笑
それではどうぞ!!
その部屋には扉がなかった。
加えて窓や部屋の明かりもない。
どうやってその部屋の中に入るのかは分からないが、特殊な方法でもあるのだろう。
その部屋で光るのは、瞬く星のように輝くコンピューターの輝きだけだった。
そんな中でも会話を交わす人間が二人。
「問一。同士よ、敵の正体は掴めたのか?」
「いや、分からないままですねー。」
「ほう。貴様の力を持ってしても、その正体が分からぬままとは。なんと興味深い。」
「僕もこんな事は始めてですからねー。僕の〝眼〟から逃れる方法なんて、この僕でさえも知りませんよ。」
「問二。では大して気にするような相手ではないではないか?」
「いや、そうとは限りませんよー。」
敬語を使う男はその見えない表情で、空笑いをする。
「もしかすると、向こうにも必殺技があるかもしれません。」
ほう、と男は興味深そうな表情を浮かべる。
二人の言う〝敵〟が何を意味するのかは、二人にしか分からない。
「『血』、『力』、『左』に関しては此方側は既に把握及び獲得済みですからねー。他を見つけるしかなさそうです。何にしろ〝僕ら〟でなければ僕の力は及ばないですし、特に気にする必要も無いでしょう。」
「問三。今回の件については成功と見るか?」
「本来の目的が達成されている事については評価すべきでしょう。ですが、カムイともあろう者があれだけの損傷を負っていた事を踏まえると、敵もまだまだ侮れませんねー。」
「確かに。だが、興味深い情報があるぞ。」
男は口角を上げながら流暢に話し始める。
「カムイからの報告によれば、敵の一人は暗黒呪文をも無効化してきた、とかーーーー。」
暫くの沈黙が流れる。
もう一人の男は返答に困っている様だ。
「外したか、偶然でしょう。」
「否。戦闘の際に放った全ての呪文が打ち消されたそうだ。」
「暗黒呪文を否定されれば、我らに何が残るというのですー? あれは僕らの魂の結晶とも呼べる代物、そう簡単に打ち破れる訳がないですよ。」
「敵を侮るな、とほざいたのは貴様だぞ。」
「······そうでしたね。」
「敵が我らを否定する者であるならば、早めに手を打つ必要があるな。」
「そうですねー。正直驚きでしたが、既に次の手は打ってあります。」
「ほう、それは楽しみだな·····オルガ。」
「はい。〝あっち側〟が堕ちるのは······もう時間の問題でしょう。その時に遂に完成するのです。」
「僕らの世界が。」
二人は闇の中で笑い合う。
それはまるで闇の胎動の如く。
それはまるで蠢いてるような。
そんな二人だった。
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ギルド・ヘネシス支部襲撃事件から一週間の時が経った。
世間ではマスコミがギルドの行っていた警備体制を袋叩きにし、勇者だけではなく一般人までもが被害にあったかもしれないという意見が多く挙がった。
加えてポリスの存在意義の疑問と何故機能しなかったのか、そのような討論でメディアは盛り上がっている。
無論、その現場に居合わせた一人の青年、エイトはそれらをつまらなそうな表情で見つめていた。
「ギルドはなんで敵の正体を公表しないんだ······? 明らかに警備体制がどうのこうのとか言う話じゃないだろ。」
エイトは敵の正体を知っている。
戦ったこともある。
故に分かる、この違和感。
何故カーネルは黙ったままでいるのだろう。
敵は未知な呪文を用い、人を攫い、人を大勢殺した。
言うまでもなく、エイトが今こう生きているのは奇跡に近い。
それほどまでの脅威が目の前まで迫っているというのに、その解決に一切の焦点をあてないメディアとギルド。
こうなったのは誰の責任だ、誰が辞めればいいんだ、などの責任の押し付け合いが現状である。
だからとて、ただの一般勇者であるエイトに何かを変える力などない。
そんな違和感だ。
「よし。これから後日行われる〝パーティー対抗戦〟に備えてフォーメーションを組み直すぞ。」
考え事をしているエイトの耳を劈くように、サムが大きな声を張り上げた。
そうだ、とエイトは何故自分が招集されたのかを思い出す。
サムから昨日の夜に連絡が届いており、明日ギルド・ヘネシス支部管轄の地下トレーニングルームに来るようにと指示されていたのだ。
地下トレーニングルームとはギルドがフォメーションを組んだりと実戦を備えた模擬戦を行う用の巨大な地下施設である。
加えてパーティー対抗戦についてだが、これは年に一度行われる名の通りの対抗戦のことで、パーティー同士が真正面から武術や呪文等を駆使しぶつかり合うというものだ。
パーティーとしての結束力や個々の強さを求められるのは勿論、パーティーとして知名度を上げるチャンスでもある大イベントである。
「まず、エイトの呪文封じの効果がどこまでで適用するのかを調べる。」
「ごめん、なんかすげー怖いんだけど·····」
「エイト、任せて! 優しくしてあげるから!」
「ウインクしたって全然可愛くないし、お前絶対手加減しないだろ。」
「うん!」
いつも通りの二人のやり取りを眺めながら、ナナは呆れた表情で口を開く。
「今のところだけど、エイトの武術も穴になりやすいんじゃない? いくら最強の盾になれるかもしれないって言っても、素が弱いんじゃ本末転倒でしょ。」
「ナナさん、的確過ぎて心も痛まないですはい。」
「そうだな。武術はナナに教わってくれ。この中で最も武術に優れてるのはナナに間違いない。」
「分かった·····!」
改めてだがナナの強さを実感する時が来るのか、とエイトは気を締め直す。
生半可な気持ちで彼女と対面すれば自分は一撃で沈められるだろう。
(そうだ·····カムイとの戦闘を思い出せ! 俺は何も出来なかっただろ·····! 相手は女の子でも関係ない·····、全力で行くぞーーー!)
だが。
そんな気持ちを嘲笑うかのように。
ナナは微笑み、ウインクをしながらエイトに告げた。
「いいよ、カモン! エイト! 私は右腕しか使わないから貴方の全力をぶつけておいで。」
彼女は強い。
それはエイトも知っている。
だがここまで舐められるものだろうか、と彼は眉を潜めた。
確かに勇者レベルはその者の強さの指標を示すものだが、エイトも体術を心得ていない訳では無い。
実戦はそんな積んでいないものの、一般レベルには戦う事は出来る。
確かに二人の間に相当な実力差は存在するが、以前交戦したカムイやカーネル程のものであろうか、と彼は思う。
あの異次元レベルであるなら彼は蟻同然だが、彼女がそこまで強いという確証はない。
今ここで初めて分かるナナの強さ。
試す意味では持ってこいの機会であろう。
「言ったな······そこまで言うなら本気で行くぞ!」
「おいで。」
早速だが二人の模擬戦闘が始まる。
サムとカンナは部屋の端に寄り、二人の行く末を見守った。
そんな様子を横目で確認し、いざ改めてエイトは両腕を構える。
一方のナナは特に何かをする訳ではなく、構える様子もない。
やはり舐められているのか、と考えた矢先。
「右ストレート」
唐突に彼女は言葉を放つ。
それと同時にエイトは動きを止めた。
彼は両腕を構えただけで何も動作はしていない。
ただのハッタリだ、と彼は自らを納得させる。
自分が本当に右ストレートを放とうとした事は胸の中に留めて。
瞬間、エイトはナナへ一直線に駆け出す。
二人の距離は僅か数歩で埋まる。
相手は女の子ではあるが容赦は出来ない。
否、自分が容赦など出来る立場などではない。
そんな事を考えていると二人の距離は埋まり、射程距離に突入する。
彼は体勢を低め右拳を握った······と同時にナナが無防備過ぎる事に気付く。
一部の例外を除いてだが、ここまでの間合いに入り込まれれば大抵の勇者であろうと攻撃を喰らう事になる。
そんな事は勇者ランクEのエイトでさえも知っている事実だ。
いきなりの踏み込みに戸惑っているのかという思考も過ぎったが、すぐに勘違いだと気付く。
これは単なる罠。
敵を誘い込む為の隙見せである、と。
気付くも時遅し。
反撃の一撃を喰らうとエイトは歯を食いしばったが、いつまで経っても反撃は来なかった。
ふと視界を上げるとナナは再び先程の間合いにいた。
情けないが、今の隙だらけの一撃を見れば彼女の右腕だけでも十分無力化できた筈だ。
それにも関わらず、ナナは不敵に笑いながら先程の間合いを保ち、何かをしてくる気配はなかった。
「どうしたの? エイト。」
「何故反撃しなかった······?」
「してもいいけど、終わっちゃうわよ?」
「なるほど、俺は反撃すらして貰えねぇって訳か。」
つまり。
対等に戦うという事さえ甚だしかったのだ。
エイトは右腕しか使わないナナに舐められていると感じたが、実はそれ以前の話。
手を出すまでもなかった、ただそれだけの話。
改めて己の無力さを痛感し、彼は唇を噛み締めた。
「エイト。一応言っとくが、これでもナナは肉弾戦及び格闘においては勇者界でも最強クラスだ。」
「そうそう、だから落ち込んじゃダメだよ! 普通はトレーニングすらつけてもらえないんだから!」
「分かってるよ! でも俺31連敗目だぞ。」
「逆に31回目で勝てると思っちゃダーメ!」
「そうだけど······。」
違う。
そうじゃない。
彼は感じることをうまく言葉に出来ない。
先日の魔物との激闘、カムイとの戦闘を踏まえた上で自分が強くなれるというビジョンが見えないのだ。
ナナに勝利出来ると思っていた訳では無い。
せめて彼女に前より強くなったと思われたいのだ。
今のままでは到底何回勝負を挑んだとしても手も出されず終わるままだ。
それなのにパーティー対抗線だとか、未開拓領域だとか、そんなもので活躍できる訳がない。
ましてやパーティーの助けになる事すらも。
それが一番の願いである筈なのに、それすらも叶わない。
「どうしてその······ナナには俺の攻撃が当たらないんだ?」
咄嗟の一言がでる。
それを受け、ナナは目を丸くした。
「わお、成長したね! エイト!」
「え?」
「今までは勝てない原因を自分が弱いから、で片付けてたでしょ。一応自分なりに修行に励んでたみたいだけど。」
「30回以上も同じような感じだったらそりゃ嫌にもなるさ······」
「うんうん、まぁそうだよね。私もそうだったよ。」
ナナは腕組みをし、首を縦に何度も振った。
彼女にも自分と同じような過去があるのだろう、と興味を持つが今は口に出さない。
「私はね、戦闘の際はエイトを〝視ている〟からだよ。」
「えーと、つまりどういうこと?」
「エイトの視線、呼吸、筋肉の動き、足の動かし方、膝の沈み方、挙げるとキリがないけどね······全部視てるよ。だからエイトの攻撃は全部読めるし、手に取るように予測できるの。さっきの模擬練習の時なんて百手先くらいまで読めたかな?」
思わず彼は唖然とする。
戦闘を始める前から既にエイトはナナの手のひらの上だったのだ。
これがプロだよ、と言わんばかりにナナは再びウインクをした。
思わず身震いする。
だがこれはチャンスでもある。
こんなに強い格闘家がパーティーにいるのだ。
自分もそれを見習うことが出来るし、何よりパーティーとして非常に頼もしい。
「そうか。ありがとう、ナナ。」
「どういたしまして。」
「俺頑張るよ······。ナナやサムには到底及ばないけど、少しずつ強くなるから······!」
「いや、カンナちゃんの事忘れてる?」
「俺は魔力なんてないし、呪文は無関係だからな!」
「ふーん、まぁ頑張ってね~!」
「······でどうする? まだやる?」
彼は目を閉じる。
瞳の裏には彼の護りたい人達の笑顔が映る。
つまり。
今目の前にいる人達だ。
「当たり前だーーー!」
護りたい故、強くなりたいと願うーーーーー。




