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勇者殺しの青年の、お話。  作者: ぽてと
第一章 闇の胎動
6/11

第六話 勇者は闇を纏う

どうも、ぽてとです!

大変お待たせしました······!今回も衝撃が続くお話となっております!


事実上、頂上決戦の行く末をどうぞご覧下さい·······!



「〝カムイ〟君、見ーーーーーーつけた。」






「おやおや······此奴(こいつ)はかなり厄介なのが出てきたな。生きてたんだ、〝カーネル〟ーーーーー。」






最強と最凶。




決して交わる事のない、対極に位置する二人。




二人が再び向かい合う時、それが何を意味するのか。




わざわざ説明するまでもない。




カーネル。

エイトはこの名を知っている。

今戦場と化している此処、ギルド・ヘネシス支部のポリス部隊の副隊長の事だ。

〝ポリス〟というのはギルドの中に所属する部署の一つで、主に地域の治安維持がメインの任務となっている部隊だ。

しかし、ここ最近ヘネシスの街自体に犯罪などが起きず平和であった背景も踏まえ、その仕事量も激減したとメディアに報道されていたのをこの前見た気がする。

転送装置(ゲート)の出入りを見張る〝門番〟も仕事の一つに回された、なんて噂もあった。



だが、それはあくまでポリス全体の噂であって、副隊長(このおとこ)の噂は全く内容が異なる。



勇者最高ランクS。

通称、デルタ。

カーネルという男はそこに値する人物なのではないか、と地元民の間で囁かれているのだ。


過去にギルドに除名された勇者達が集い、ギルドに対し大きな反乱を起こしたという事件があったらしい。

らしい、と曖昧な表現なのはエイトがこの世に生を受ける前の話だからだ。

かなり昔の話で、何故かギルドの歴史書にもその原因や経緯などは記されていない。

つまり、実際に遭遇した地元民の間で語り継がれている事件なのだ。


ギルドに除名された理由はそれぞれ違ったが、各々が憎きギルドを撃つ為に、とてつもない規模の反乱だったという。

数にして何百人。

そこに今のポリス副隊長たるカーネルがたった一人でふらりと現れ、瞬く間に反乱分子を鎮圧したらしい。


当時の人は語る。

あれは眩く輝く光の太刀。

全ての闇をも飲み込む、眩い光の太刀の一振で敵は無になったと。


そこから、カーネルに敵と見なされた対象は容赦なく粛清されると囁かれるようになった。

真顔で、感情ひとつなく、敵を鮮やかに無力化させる。

そんな逸話から人々は彼をこう呼んだ。



『地獄副長』、と。



如何にして、そのような彼が戦場へは行かず、治安を守るポリス部隊に所属しているのか。

普通の勇者であるエイトが知る訳もないが、何か特別な理由でもあるのだろう。


(この人が······カーネル······!)


そんなカーネルを名だけは知っていたが、間近で見るのは初めてであった。

エイトはてっきりカーネルは筋肉ムキムキでゴリゴリの大男である勝手に想像していたのだが、勇者界最強の一人と謳われる彼は意外と小柄であると感じる。

身長は173センチ程度、175センチあるエイトより身長は低い。

さほど貫禄もなく、ポリスの象徴である青と白のマントを羽織い、中は何かの防具を付けているのが見える。

ここまでだと一般の普通の勇者とあまり変わりない。

果たしてこの人が本当にカーネルなのだろうか、と疑問を持つが、カムイの表情が少し強ばっている所を見ると本当なのだろう。


だが、そんな事実を目の前に、エイトは口角を上げ微笑んだ。

それはまるでこれは嬉しい誤算だ、と言わんばかりだ。

何を隠そう、今この場に置いて絶対に必要な存在が現れたからである。

それはまるで英雄(ヒーロー)の如く。

絶望の中に降り立った最後の希望。

それがカーネル。



「どうやら一般勇者が紛れ込んでいるようだね······君は早く戦場(ここ)から去れ。死にたくなければ、ね。」



エイトに背を向け、振り返る事もなく淡々とカーネルは告げた。

この場において彼の想像していた英雄(ヒーロー)像とは少し異なったが、そのくらいこの場が非常事態と彼は捉えたのだろう。

その表情は見れなかったが、彼の背中は語っている。

〝得体の知れない闇〟を目の前に、お荷物を抱えて戦う余裕などない、と。

説明するまでもなく、そのお荷物とはエイトの事を示していた。

彼の表情は見えない。

だが彼の全身から張り巡らされた、とてつもない殺気は感じる事は出来る。

その殺気はまるでエイト自身をも飲み込んでしまう程、強く、そして刺々しかった。

そして、それらは優しくエイトの耳元で語り掛けた。



〝邪魔だ〟と。



「ふはははは! ソレは一般勇者なんかじゃないよ。」



そんなエイトを庇うかのようにカムイは大声で笑いながら告げた。

首を傾げ、意味を理解出来ないカーネル。

この発言に思わずエイトは困惑するが、カムイは足元に転がる瓦礫を足で退かしながら。



「其奴は〝俺の獲物〟さーーーーー」



三日月を描くような笑みを浮かべるカムイ。

それはもう人間の表情ではない。

まるで〝魔物〟のソレ。

今日未開拓領域(フロンティア)にて戦ったばかりの魔物を思い出させるようなソレ。

そんなカムイを目の前に、彼に与えられた選択肢はただ一つ。

〝邪魔〟にならぬ様、戦場(ここ)から姿を消す事だった。

だが、彼の足は思うように動かない。

最強と最凶という矛盾の行く末を見てみたいというのもあるが、それ以上にカムイの突き刺さる視線で彼の足は竦み上がっていたのだ。

まるで足に釘を刺されたような。

このままでは確実に殺される。

しかし、彼の足は動かない。

優柔不断にもその場に留まり続けているエイトを横目で確認し、軽く舌打ちするカーネル。

「いいから早く失せろッ! 死にたいのか!?」




刹那、残酷にも二人の再戦の(ゴング)が鳴り響いた。




痛恨の一撃。

目にも止まらぬ強烈な速さでカムイの右脚がカーネルの左耳に向け、一直線に振り翳される。

それはまるで半月を描くように大振りな蹴り。

その蹴りは大振りだった為、エイトの目にも捉える事が出来た。

だが。

カムイの脚の勢いのみだけで、床に散らばる瓦礫は宙に舞い上がり、その振動で奥の壁にも大きな亀裂が生じた。

果たして、こんな力を持つ事が人間に許されるのか。

そんな事を思う余裕すらもない。

空気は裂け、大地は揺れる。

そんな衝撃一つでエイトは体勢を大きく崩し、入口の壁に肩から激突した。


一方のカーネルは表情を何一つ変えることもなく、左腕一つを己の後頭部付近に構えただけであった。

彼にとってそれが盾だと言わんばかりだが、カムイの蹴りは左腕一本で防ぎ切れるような代物ではない事はエイトでも分かる。

何かを言う暇すらもない。

時は一秒にも満たない。

勇者ランクE如きが、口を出せる次元では到底なかった。


瞬間、バチィ! という轟音と共に、カーネルの左腕にカムイの右足蹴りが直撃した。


まず衝撃波。

二つの巨大な力が衝突を起こした事により発生した衝撃波がギルド地下全体を襲う。

それはまるで津波のようなものだ。

一度呑まれたら二度と這い上がって来れないと悟る衝撃。

エイトはただの紙切れのように吹き飛び、再び壁に激突する事となる。

勢い余って壁に衝突した為か、彼と壁の接触部分に大きな亀裂が生じていた。

こんな状況を目の前に彼はますます強く思う。

戦場(ここ)は自分の場所では無い、と。



「ふうん。それでーーーーー?」



「ありゃ、一撃で沈めるハズだったのにねぇ······」



カーネルは不敵に笑いながら、カムイを見つめた。

ギシギシと不気味に鳴り響く左腕を見ることもせずに、ただカムイを見つめている。

これだけの威力を誇るカムイの一撃を左腕一つで受け止めたカーネル。

まるでこんなモンで俺を仕留められるとでも? とカムイに誇示しているようにも見えた。

そんな彼を目の前に、カムイは軽く溜息を吐くと後ろへ飛び再び距離を取った。

二人の距離は数メートル。

エイトにとっては何歩か踏み込まければならない距離だが、この二人にとってはこの距離も既に己の攻撃範囲(テリトリー)なのだろう。

凄まじい殺気が飛び交う中で、エイトはただただ確信する。

この(カーネル)は本当にS(デルタ)であると。


そして、彼は恐れた。

自分がどういう敵と戦っていたのか、と。

奇跡的にどうにか反撃の一撃を喰らわす事は出来たものの、その後戦い続けていたら自分はどうなっていただろうか。

恐らくボロ雑巾の如く嬲り殺され、身も心も粉々になっていただろう。

自分はただ威勢がいいだけの〝噛ませ犬〟であった事を深く実感する。



「君が生きてる内に問おう。君は何をしに此処(ギルド)へ来た?」


「ふん、何奴(どいつ)此奴(こいつ)も似たり寄ったりの質問で反吐が出るね。カーネル······いつかこうなる事は分かっていただろう? 」


「こっちは平和な日々をいつまでも堪能していたいものでね、君みたいなのが来られると迷惑なんだよ。」


「偽りの平和、ねえ······。都合のいい様に用意された世界でせいぜい楽しんでるといいさ。」


「偽りかどうかを決めるのは君じゃない。〝俺〟だ······」


「残念だけど、既に賽は投げられた。もう誰にも止められやしないさ。」


「いいや、止めるよ。そんなモノ認められないからね。その第一矢として、まず君を仕留める。それが俺の仕事だッ!」


「そう簡単にこの世界の闇が打ち消せるものか。まぁ今〝上の階〟で起きてる事実を()の当たりにしても同じ事が言えるかどうか、だけどね」


「なにーーーーー?」


「〝目的〟も果たした事だ。そろそろ俺はお暇させてもらおう!」


「待てッ!」



瞬間。

カムイは右手を天井へと掲げると何かの呪文を叫んだ。

余りにも当然の出来事であった為に呪文の名までは聞き取ることが出来なかったが、それよりもその呪文によって発生した出来事に意識を奪われる。

僅か一秒にも満たない間に再び轟音がエイトの耳を劈いた。

カムイの頭上にある天井が大きく裂け、吹き飛んだのだ。

それと共に、カムイはエイトの視界から消えた。

天井に空く大きな穴を見る限り、カムイは上の階へと移動したのだろう。

一時的とはいえ、命は救われた。

その状況に安堵するエイト。

だがそんな彼に冷たい眼差しでカーネルは告げた。


「此処も時期に崩れ落ちるかもしれない。君も早く逃げないと本当に死ぬよ。」

「はい······えっとカーネルさん、助けて頂いてありがとうございました······」

「礼なんかを言うにはまだ早い。奴はまだ生きているーーーー」


カーネルはエイトを軽く(あしら)うと天井に空く穴に向け走り出した。

理由は一つ。

(カムイ)はまだ生きているからだ。

今回の事件の首謀者がまだ生きている限り、彼の仕事は終わらない。

エイトはただただマントが揺れるカーネルの後ろ姿を眺める事しか出来なかった。

そんなのも束の間、カーネルは上の階へと通じる穴へ飛び上がる。

なんの補助呪文もなしであの飛躍力を持っているとはどういう常識外れだ、と今更驚く事も無い。

エイトは再び自分の成すべき事を再確認する。


「サムだ······! サムを探さなければ······!」


自分の仲間。

自分の護るべきモノ。

自分の大切な人達。

それらを失いたくない想いがエイトの身体を動す。

先程まであんなに竦み上がっていた足は簡単に動いた。

エイトはカムイが立ち塞がっていた先へと進もうとするが、ある事が脳裏に蘇る。


(待てよ······さっきのカムイの発言······)


先程のカムイの発言は〝上の階〟で何かが起きている、という事を強く臭わせていた。

加えて、カムイの逃走。

それらを考慮すると〝上の階〟で何かが起きている、という事を意味しているのではないか、とエイトは思考を巡らせる。

嫌な予感がする。

夥しく静かなこの廊下で、たった一人佇むエイト。

ただ仲間を探しに来たら、危うく殺されかかった。

そしてその仲間をも既に殺されているかもしれない。

そんな事実が彼の胸を締め付けていく。

だが。




瞬間、彼の足は動き出した。




彼にとって迷う事など何一つない。




それはたった一つの〝誓い〟を護る為。




そんな誓いを胸に、再び彼は〝戦場〟へと走り出すーーー。




**********************************




「御苦労。君はもう戻れ。」




「ーーーーー承知。」




そんな問答が繰り広げられた。

静まり返るギルド一階に佇む二人の影。

カムイと一人の男。

この二人は面識があるようで、まるで上司と部下のような関係を漂わせていた。

片方はカムイの許可を得ると一礼した後、ギルドの奥へと姿を消した。

カムイはそんな男の背後を視界に入れる事無く、床中に散乱した机や椅子を足で退かしながら言葉を発した。


「やあ、気分はどう?」


それは独り言ではない。

カムイの真下に横たわる男に向け放たれた一言だ。

男はかなり重度の怪我を負っていた。

まず頭だが、何処か壁にぶつけたのか血を流し、それは顔面にも滴っている。

そして、装備。

頑丈そう装備は大破し、真っ二つに避けている。

加えて、中に着ているインナーが姿を覗かせているのが分かる。

そして、男の首後ろにある薄汚れた青と白のマント。

カムイは楽しそうに男を右足で踏み付けた。

うがぁ、という唸り声と共に、男は擦り切れそうな声をカムイに向け振り絞る。


「お前······等······こんな事をして······ただで済むと思うなよ······」

「ふははは! 死に損ないは皆同じ台詞を吐く。」

「カーネル············早く······」

「ほう。さっきの馬鹿もそうだが、ここの連中は死を目前にすると希望(カーネル)を求めるらしいな。やはり少し無茶をしてでも殺しておくべきだったか······なぁ、カーネルよ」


カムイは何かの存在に気付いたように背後を振り返った。

乾いた空気。

静まり返るギルド。

そしてナイフの如く、突き刺すような殺気。

カムイの背後に存在する者。

呆れた表情を浮かべるカムイにそれは言葉を放った。






「グレイから足を退けろ、カムイ」






つまり、カーネルが其処にいた。

まるで希望の象徴と言わんばかりにグレイとカムイの目の前に現れる。

今度は先程と同様。

光り輝く太刀(ソード)を片手に持って。


「言ったろ? 〝賽は投げられた〟と。もう用は済んだんだよ。」


瞬間。

カムイが発言を言い終わると同時に、カーネルは右手に構える光の太刀を大きく薙ぎ払った。

同時に空気は裂けるどころか、空間まで歪んだような感覚をグレイは感じる。

何が起きたのかが理解出来ない。

勇者最高ランクS(デルタ)である彼の攻撃は通常の勇者の常識を遥かに超える。


例え、グレイが世界に5人しかいない勇者ランク〝A〟であったとしても、だ。


そして、その「光り輝く何か」により、カムイは紙切れの如く無造作に吹き飛んだ。

それに抗うことも無く、巨大な地響きと轟音と共に彼は壁に背中から激突する。

壁には大きな亀裂が走り、周囲の机と椅子はその衝撃波でバラバラに砕け散った。

ただ中央にいたグレイのみが無事、という状況。

一体どういう神業を成せばこのような状況になるのか。

それはカーネルのみしか知らない。



「聞こえなかったか? 俺はグレイからその汚ねェ足を退かせと言ったんだ。ぶち抜かれてぇのか、オマエは?」



豹変。

先程にカムイが見せた豹変と同様の豹変。

その瞳は語る。

〝お前を必ず殺す〟と。


胸に攻撃を受けたのか、胸を手で抑えながら(うな)垂れるカムイ。

その手の隙間から血が溢れ出しているのが分かる。

それでも尚、彼は微笑み続けていた。

まるで〝笑顔〟が俺の殺しの作法だと言わんばかりに。

カムイは立ち上がる事もせず、微笑みながら淡々と告げた。



「お友達をこんな目に合わせた俺達が憎いか······? 笑わせるな。こんなのまだ序の口さ。」



カムイはゆっくりと己の右手を顔元に上げた。

それが何を意味するかは分からない。

お互いがお互いの素性を知らない同士。

敵がどんな手を打ってくるかなど分かる筈もない。

そして彼は告げる。

パチン!と右手の指を鳴らす音と共に。






「残念、時間切(ゲームオーバー)れ。」






刹那、グレイの身体が闇の炎で包まれた。




「うわあああァァ! なんだよ······これッ!」


グレイは叫び声をあげ、のたうち回るもその炎が消える様子はない。

そんな様子を目の前に、咄嗟にカーネルが駆け付け、グレイの身体に手を触れた。


(······ッ!? 熱くない······? これは炎じゃないーーーー!)


「そいつは暗黒呪文だ。もうどうする事も出来ない。」

「カムイ、何をするつもりだッ! 此奴(グレイ)は関係ないだろうがッ! 俺と戦えッ!」

「馬鹿が。元々お前に用は無いんだよ。せいぜい英雄(ヒーロー)ごっこでもして楽しんでろ」

「カムイ······お前······!」

「俺は『大義』を果たすだけだ。」


今すぐにでも此奴を殺してやりたいとカーネルは奥歯を食いしばるが、今この状況でそれは第一優先ではない。

このグレイにまとわりつく闇の炎を何とかしなければならない。

カーネルが触れた感触からすれば、それは炎ではなかった。

実際グレイも のたうち回ってはいるが、それは苦しい、及び痛いからではなさそうだ。

では何が彼を蝕んでいるのか。

カーネルは疑問に思っていると。



「意識が······意識が何処へ飛ぶ······」



グレイは掠れるような声で告げた。

ここに来てやっとカーネルは気付く。

この炎は精神を蝕んでいるのだ、と。


「グレイ! しっかりしろ! この炎は俺が消してやる······! もう少しだからな!」


とは言ったものの、カーネルはこの呪文の正体など分からない。

効果が分かったとて、原因が分からなければ何も解決しないままだ。

恐らく時間などほぼ残されていない。

久々に感じる焦燥がカーネルの背に大きく襲い掛かった。

どうにかしなければ、と彼は周囲を見渡すが、そこである事に気付く。



グレイの太腿から先が消えていたのだ。



まるでそれは亡霊かの様だった。

傍から見れば、グレイは足がない人間。

その太腿はうっすら消え掛かっており、その消失は徐々に進行していた。

このまま行けば身体の全てが消えてしまうだろう。

消えるのは意識だけではなかった。

この黒い炎はその者の存在そのものを消してしまうだと気付く。


(俺は······俺は······何もする事が出来ない······!)


勇者最高ランクSの(カーネル)がそんな事を思う。

これが何を意味するのか。

それはただの〝闇〟。

それも恐ろしいほど深く、どうしようもないぐらいの。

カーネルはグレイから手を放した。

もう手の付けようがない、彼はそう言わんばかりに。

そんなカーネルの様子に気付き、既に上半身のみとなっているグレイは苦笑しながら告げた。


「カーネル······俺はどうなるんだろうな······死ぬのか?」


「分からない······」


「頼む······俺をまた見つけてくれ······頼む······それだけが俺の望みだ······」


「すまない······俺がもっと強ければ······!こんな奴なんか一撃で殺せるぐらいの力があれば······!」


彼は勇者の中で最も強い。

その事実は変わらない。

皆周知の事実だ。

だが、そんな彼にも不可能があった。

ただそれだけの話。

泣く事さえ、卑怯。

ただの言い訳だった。


そんなカーネルを見つめ、グレイは頷くかの様に微笑むのであった。


そして残るは頭部位のみとなったグレイは死を誘ったかの如く、優しい口調で告げた。






「カーネル······お前が世界を救ったら······また会おうぜ······」






そして、彼は闇の炎に呑み込まれるように。






そして、光の如く。






ゆっくりと、消えていった。





護るべき仲間は闇の中へーーーーー。

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