第五話 勇者は鳥籠の中に
どうも、ぽてとです!
今回の第五話は遂に!!って思いを込めて執筆致しました!
恐らく今までの中で最も激アツな展開を迎えると思います!
面白いと思った方は是非ご感想お待ちしておりますね〜!
それでは激アツすぎる第五話、どうぞ〜!!
拳。
それには色々な種類の拳が存在する。
ただ握るだけの拳、惰性に握る拳、人を傷付ける拳、怒りに満ち溢れた拳、闇を打ち砕く拳、そして、何かを護る拳。
様々な拳の中で、青年エイトから一直進に放たれた〝その拳〟は上記のうちのどれに当てはまるかなど、わざわざ説明するまでもない。
光の矢の如く、目にも止まらぬ速さで〝拳〟は闇の顔面に突き刺さる。
そしてグチャリ、と。
何かを砕く音と共に、闇は勢いを殺す事も無いまま、数メートル先へ背中から地に落ちた。
そんな闇を目の前に、青年は継げる。
「テメェが罪のない人達の命を自己都合で奪おうってなら······まずはテメェの野望を打ち砕くーーーーー!」
青年エイトの『叫び』がギルドの地下全体に響き渡った。
そして、それは目の前に横たわる〝闇〟に対しても。
まだ砂埃が舞うギルドの地下は、相変わらず静かなままだった。
人一人いる気配すら感じさせない。
それを例えるのなら、まるで世界に彼一人しか存在していないような静けさ。
彼にとって、静まり返るギルドはいつも見てる日常と異なり、未知なる恐怖を感じさせた。
それは〝非日常〟。
自分の知らぬ世界。
否。
知りたくなかった世界。
知らなくても良かった世界。
コインがあったとして、此処、今エイトが居る場所が〝コインの表側〟だとするならば。
正しく、この男は〝コインの裏側〟だ。
そんな非日常が目の前にいる。
そんなモノを目の前にし、エイトは悟る。
もう自分の居た〝日常〟には戻る事は出来なくなる、と。
今。
この瞬間、この闇と出会ってしまった時点で、後戻りは許されないのだ。
何も知らなかったあの頃。
何も知らずに、無知のまま、ただ只管に鍛錬を積み、パーティーとの絆を深め合っていたあの頃。
そんな〝あの頃〟にはもう戻れない。
その事実がエイトの胸に絡み付き、締め付ける。
そして。
そんなエイトに反応するように、〝非日常〟はムクリと上半身を起き上がらせた。
「俺の野望を砕くだ? 笑わせるな。出来損ないの独善者が。」
当然といえば当然であった。
いくら奇襲を仕掛けたとて、相手はあの〝王者の三角形〟を葬り去った者。
勇者最低ランクE、加えてロクに強化もされていないその拳たった一つで、闇の根源ともなる相手を無力化出来るはずなどなかった。
そんな都合のいい、優しい世界ではない。
それは彼自身も分かっていたつもりであったが、僅かに見えた希望は瞬く間に消え去った。
カムイの顔の右半分は大きく腫れ、唇を切ったのか口の右端から血を流しているのが分かる。
だがエイトの意識はそこには向いてなどいなかった。
彼の表情。
先程までとは大きく異なる歪んだ表情だ。
それは死神、目を合わせただけで相手を殺してしまいそうな瞳。
こうも大きく人の表情は豹変するのか、とエイトは内から震えた。
まるで別人のソレは舐めるようにエイトを見つめる。
(怖ぇ······! 足も全く動かねぇ······殺される······!)
先程の威勢は何処へいったのか、と自分で苦笑する。
全く別人と化したカムイを目の前にエイトは動く事さえ出来ない。
そんな彼を嘲笑うかのようにソレは口を開く。
「君は独善者だな。」
「なにーーー?」
「それはまるで子供のよう······〝目先の事象〟に気を取られ、ただ只管にその解決に当たる······無知というのは恐ろしいな、本当に」
カムイはエイトを見つめながらスラスラと単調に告げた。
そして、とてもつまらなそうに。
「故にとても独善的だ。俺の野望をぶっ壊す事が本当に最適解になるとでも? 笑わせるな、何も知らぬ者が。」
エイトはそれに対し言い返す事が出来ない。
理由はただ一つ。
彼が言うように、自分が本当に無知だから。
恐らく、この言いぶりからするとこの男は〝真相とも言える何か〟を知っているのだろう。
少なからず、この場においてエイトよりはこの世界の「何か」を把握しているのは間違いない。
だからこその発言。
一体全体、この男は何を知っているのか。
エイトは眉を潜めるが、誰も答えは教えてくれない。
「傀儡政権の成れの果て。汚職に塗れ、意志を持つ者など誰一人としていない世界。あやつり人形の如く、手足を動かされ、流されるままに行動し、勝手に死んでいく。」
「お前は一体······何が言いたいんだ······?」
「君はこの世界に〝先〟があると本当に思うのか?」
「ーーーーーは?」
呆れた表情でカムイは告げた。
お前はこんなことも分からないのか、と言わんばかりに。
「俺も君みたいに何も知らずにいたかったよ。だが······無知とは〝不自由〟なものだ。まるで君らが滑稽に見える。」
「ならその〝真実〟とやらを話せよ······ッ! テメェは上から高みの見物か? 何も話さない癖に一丁前に人に説教垂れてんじゃねーぞッ!」
「馬鹿が。質問すれば返ってくるのが当たり前か?」
カムイは服に付いた汚れを払い落としながら立ち上がる。
「君はまるで子供の様だな。甘ったれるな、俺は君の母親でも先生でも何でもない。」
カムイは何処を見る訳でもなく。
「知りたければ······自らの力で〝真相〟に辿り着いてみせろ。最も······今ここで俺に傷をつけて生きて帰ればの話、だがな。」
途方もない〝闇〟を目の前にエイトは溢れ出る殺気を感じ、後ずさる。
だが、彼は逃げる事を選ばない。
先程自分がこの男の前に立ち塞がった事に後悔など何一つしていないからだ。
見るまでもなく、今すぐにでも逃げなければ男はエイトを嬲り殺しにするだろう。
だが、今この場で逃げたとして、どうなる?とエイトは自らを奮い立たせた。
相手は無差別殺人の主犯者だ。
彼の守りたい者達が危険に晒されるくらいなら、ここでエイトが時間を稼ぎ仲間が安全でいる確率を上げた方が良い。
例え、自らが絶命する事になったとしても。
彼は全くそれでも構わなかった。
命を捨ててでも仲間を護る。
ずっと前に己に誓った約束を守れるのならそれで構わない、と。
再び青年エイトは拳を握った。
勝てる訳もない勝負に再び挑む。
「勇敢と無謀は違うよ。君のような馬鹿を見ると虫酸が走る。」
カムイは軽く舌打ちをすると掌を前に翳した。
そしてエイトの動き全てを目で追う。
呼吸、身体の動き、瞬き、それら全てのものを確実に捉えているのだ。
今度は外さない、そう言わんばかりに。
油断や隙など一欠片もない。
その理由はただ一つ。
カムイの中である事が脳裏に過ぎったからだ。
(先程······俺は攻撃呪文を外している······。油断していたからというのもあっただろうが、俺の攻撃は不発に終わったーーー。)
脳裏に過ぎるあの一瞬。
この一撃で決着が付くと確信していた為、カムイは自分の呪文がどうなったのかすら見ていなかった。
だが。
(普通に考えて、あの至近距離で外すか······? 否、外す訳が無い······しかもこの〝俺〟が······)
思わずカムイは目を細める。
まるでそれは何かを思い出すように。
(先程の打撃といい、一連の動きを見れば肉弾戦における武術は心得ているものの、まるで動きはど素人ーーー。雑魚に毛が生えたくらいだった。それらを考慮すれば彼の勇者ランクは底辺······〝E〟であるのは確実だ······。)
なのに、何故。
そんな思いがカムイの腸を煮え繰り返させていく。
世界で三人しか存在しない勇者ランクSと互角以上の戦いぶりを見せ、尚且つ勝利した男、カムイの前に勇者最低ランクのエイトが何故存在し続ける事が出来るのか。
それは屈辱。
歴戦の死線を潜り抜け、誰よりも『大義』の意義を理解している彼だからこそ、感じる最大の屈辱。
ここで殺すしかない、そう言わんばかりにカムイは己の最大限の呪文でエイトを葬り去る事を決意する。
それはSをも敗北に追いやった呪文の一つ。
そう、アレだ。
「暗黒呪文・〝死こそ最高の美〟ッ!」
彼曰く。
それは〝死の呪文〟らしい。
その呪文に触れただけで対象は絶命するとかなんとか。
かつて数多の先人達がそんなモノがあれば魔物駆除は楽なのに、とその有効性を認めながらも、あまりに非人道的な効果に人としての良心が使用を躊躇わせた筈であったその呪文を彼は一切の迷いを見せる事無く、己の武器として使用した。
それを彼に問い詰めたとて、彼は眉一つさえ動かす事も無い。
これが俺の戦い方だ、とそう言わんばかりに。
カムイの掌に発された黒いオーラのようなモノから飛び出す〝漆黒の手〟。
黒一色の太い手は標的であるエイトの首へと一直線に進んでいく。
その呪文は言葉を発してなどいないが、こう言っているようにも聞こえた。
〝必ず殺す〟と。
速さにして音速を超える。
当然、常人の目に見えるはずなど無い。
それは〝落ちこぼれ〟の彼も同様。
加え、呪文名を叫ばれたところでエイトはその呪文の存在を知らない。
故に、防衛策を練れる訳もない。
またロクに強化もされていないその足腰と反射神経で音速を超える速さを持つソレを回避する事も出来ない。
これらを簡単にまとめると、つまり、彼は死んだ。
ーーーそれは彼が普通の落ちこぼれだったら、の話だが。
カムイはただ只管に唖然とした。
こんなもの信じられるか、とまるでそう言わんばかりに。
思わず、後ずさる。
彼が後ずさる経験など、かつての人生であっただろうか。
先程の〝違和感〟が〝確信〟へと変わった瞬間。
カムイの瞳に映った光景は、彼の常識を遥かに超えていた。
否、これは常識とかそんなものの騒ぎではない。
言葉にする事さえも不可能。
Sであるカーネルと出会った事なんか笑い飛ばせるくらいの〝予想外〟。
そんなモノを目の当たりしてしまった。
どうすればいいかだなんて分からない。
エイトがこの呪文に対し、そう思ったのと同様。
生まれて初めての光景にカムイは大きく動揺した。
そこで初めて彼は言葉を洩らす。
「君············一体何をしたんだ············?」
簡単に説明するならば、カムイの掌から飛び出した〝漆黒の手〟はエイトの首を捉えた瞬間、瞬く間に四方八方へと〝弾け飛んだ〟のである。
まるで呪文そのものが彼の存在を避けるかのように。
まるで呪文そのものが彼の存在を拒絶するかのように。
今度こそ、と目を光らせたカムイがそれらの出来事を見逃す訳もない。
ただただ唖然とし、沈黙がこの場を支配する。
〝漆黒の手〟が弾け飛んだ後、ゆっくりと消滅していくのを眺めながらカムイは再びエイトに視線を戻す。
彼は特に何もしてなどいない。
ただその場に突っ立っているだけ。
何か特殊な盾を張っている様にも見えない。
考えれば考える程に混乱していく。
一体この男は何者なのだ、と。
それはかつての立場が逆転していくかのようであった。
この得体の知れない力を目の前にし、冷や汗が止まらない。
(落ち着け······状況を整理するんだ······これは呪文自体に失敗などない······。忘れるな、かつても同様の呪文で何百人も葬ってきたじゃないか······。)
それはまるで自分自身に言い聞かせるように。
(だが、何故この男には効かなかった······? 待てよ······思い出せ。コイツはそもそも〝来るな、立ち去れ〟を唱えているこの場にも悠々と足を踏み入れていた······仮にだが、先程の〝弾けよ〟に対しても同様の力が発動していたとするならばーーーーー)
刹那、カムイの表情は焦燥一色に染まった。
それは冷や汗をかくとかのレベルではない。
最早、恐怖。
自身の最大必殺であったこの呪文を防御ひとつ無しで完全に封じられたのだ。
この暗黒呪文と呼ばれるものでさえ。
そんな〝力〟が怖い。
狩る側が狩られる側に陥った瞬間であった。
無言を貫いた青年エイトの口が開く。
「テメェ······〝そんな程度〟でこの俺を止められるとでも思ったのかーーーー?」
「ふ······ふははははッ! 暗黒呪文をも凌駕するのか······! 〝その力〟はァ!」
乾いた笑い声をあげるカムイは狂気に満ち溢れていた。
自分は〝真相の全て〟を知っていたつもりだったが、それはとんだ勘違いであったらしい。
まだ自分には知らない事がある。
それが嬉しいのか、悲しいのか、辛いのか、燃えるのかは彼にしか分からない。
狂気に満ちたギルドの地下。
お互いがお互いの正体を知らない戦闘。
互いが貫く〝信念〟のみが真実となる。
そんな中で再びエイトは拳を構えた。
この男を倒すのは今しかない、と標的をジッと見つめる。
そして再び、火蓋は切って落とされた。
瞬間であった。
カムイは咄嗟に笑う事を止め、防御体勢に入った。
その長い両腕を頭の周囲に構え、まるで何かに備えている。
思わずエイトは困惑した。
何故なら二人の間はまだ十分すぎる程距離があったからだ。
拳などあと大きく七歩程踏み込まなれけば互いが届かない距離間が存在する。
慎重になっているだけか、と強引に納得するエイトであったが、当の本人はそうではなかったようだ。
まるでエイトの事など視界にも入れていないような様子で周囲を警戒している。
随分と舐められたもんだ、と思うが次の瞬間、それは疑問から確信へと変わった。
刹那、カムイの真横にあった扉が目にも止まらぬ速さで吹き飛んだ。
とてつもない轟音が耳を劈く。
そんな中、考えるより身体が早く動き、咄嗟にエイトは顔面を両腕で覆う。
そして、その両腕の隙間から何が起こったのかを確認した。
まず真っ二つになった扉は目の前の壁に激突したが、尚勢いは衰える事無く、瞬く間に壁を破壊したのが見える。
余りにも扉の勢いが速かった為、壁にも相当な圧力が加えられ、壁も耐えられなかったのだろう。
轟音は勿論、久しく忘れかけていた地響きを加えてギルドの地下が再び大きく揺れた。
砂埃が再び舞い上がる。
しっかり足を踏ん張っていた為か、体勢が崩れる事はなかったが、壁の破片であろう石ころがエイトの服にパラパラと当たるのが分かる。
だがそんな事には構っていられない。
一気に状況が変わった故、再びカムイの姿を見失ってしまったからだ。
両腕でうまく視界を確保しながら周囲を見渡す。
その中でエイトは扉が壁に激突した部分に視線を移した。
壁の向こう側、つまり、隣の部屋がチラリと垣間見えたからだ。
そこでエイトは衝撃的なモノを目にすることになる。
(誰かいるーーーーーッ!)
ゆらりと動く人の影が一つ。
その影はとても小柄なもので、カムイのものではなかった。
大体エイトと同じくらいであろうか。
身長173ぐらいの影で、180以上はあるであろうカムイのものではないのは明らかだ。
では誰だ、とその正体の存在によく目を凝らす。
カムイ、エイトを除く、〝第三の影〟の正体。
その〝第三の影〟は口を開く。
何故か、この轟音の中でもそれはハッキリと聞こえた。
「〝カムイ〟君、見ーーーーーーつけた。」
「おやおや······此奴はかなり厄介なのが出てきたな。生きてたんだ、〝カーネル〟ーーーーー。」
最強と最凶。
決して交わる事のない、対極に位置する二人。
二人が再び向かい合う時、それが何を意味するのか。
わざわざ説明するまでもない。
最強と最凶、いざ再戦ーーーーー!




