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勇者殺しの青年の、お話。  作者: ぽてと
第一章 闇の胎動
4/11

第四話 勇者は勇者を殺す

どうも、ぽてとです!

この度は更新が少し遅くなってしまい大変申し訳ございません。

しかし、今回はより面白い展開になっていると思っています!

最後まで目が離せない展開の第四話、どうぞ!


「なんだと······?」



青年エイトの前に立ち塞がるのは一人の男。

それは人の形をしていたが、どこか自分達とは違う〝異質〟を放っていた。

その理由は分からない。

だが、このギルド全体から人が避難するような状況下でヘラヘラ笑っているのは人としてどうかと思う。

三日月を描くように微笑み、様々な色の絵の具をぶっかけたような表情。

それだけでも一目瞭然で常人ではないと悟る。

加えて、先程のこの男の発言はどこか引っ掛かるモノがあった。


『来るな、立ち去れ』


この呪文を唱えた、と男は告げた。

これは〝人払い〟の呪文の事を指すが、故にこのギルドに人が残っている筈など有り得ない、人が居る事がおかしいという意味を持って告げたのだ。

そんな事を告げられ、エイトにある一つの疑問を浮び上がらせた。

果たして······この男は何者なのだ、と。

ギルド関係者でもないようだし、勇者のカテゴリーに当て嵌るのかどうかも怪しい。

未知なる男の存在にエイトは思う。


〝自分は状況下において、最も危険な人物に遭遇してしまったのではないかーーー〟


だが、そんなものを目の前にしてもエイトは男に噛み付いていく。


「この発生源が〝お前〟だと······?」

「うん。この臭いだろ? そりゃあんだけ人が死ねば臭くもなるさ。」

「死んっ······テメェ······今なんて言ったッ?」

「めんどくせーな。向こうで人が死んでるって言ったんだよ。」

「なっ······に······っ」


動揺が隠せず、思わず後ずさる。

エイトはこの男の発している言葉の意味を噛み砕き、理解するのには少し時間が掛かった。

勇者という職に就いてからそれなりには人の死には慣れてきたつもりだが、それはあくまで未開拓領域(フロンティア)での話だ。

こちら側の世界で殺人により人が死ぬだなんて今まで聞いた事などない。

だが、男は当たり前のようにその事実を肯定していく。


〝勇者〟が〝勇者〟を殺した、とでも言わんばかりに。


まるで時が止まったみたいだった。

エイトの中で血の気が引いていくのが分かる。

今まで夢でも見ていたのだろか······?

いきなり現実を叩きつけられ、それは青年の心を抉る。

それでも時は待ってくれない。

止まってなどいないのだ。

絞り出すような声で、エイトは問う。


「お前は······誰だ······?」


「俺か? 俺は〝カムイ〟。この事件(テロ)の首謀者だよ。」


事件(テロ)

そんな事を言われてもエイトの中で頭の整理が追いつかない。

理由は至ってシンプル。

かつて彼が生きてきた中で、そんな事件は一度も起こらなかったからだ。

勇者が勇者を殺すだなんて話は聞いた事も見た事も無い。

とてつもなく信じ難い非現実が青年に襲い掛かる。

無論、その非現実が先程に史上最強の勇者を倒した事はエイトは知らない。


「君、ランクは?」

「······は?」

「〝勇者ランク〟だよ。君も此処に居るって事は勇者だろう? 〝こっち側〟の世界ではそういうものがあるって聞いてね。是非知りたいのだが。」


「ランクは関係ねえだろッ!」


微笑みながら興味津々な表情で問うカムイに対し、唾を飛ばす勢いでエイトは叫ぶ。

この瞬間、この叫びによって彼の中の恐怖が嘘のように溶けていった。

今目の前に居る〝悪〟を認めてはならない。

例え、どんな理由があろうと。

例え、彼が〝勇者最低ランクE〟であろうと。

彼にとって、そんな小さい事情はどうでも良かった。

罪もない人が無残にもこの男によって殺された、この事実だけでいい。

その事実だけで青年は拳を握る理由になったのだ。

考えるよりも先にエイトの身体が動く。

そして、その拳を握り締め、ボクシングのように毅然と構える。

これは彼の全身全霊の意思表示だった。

〝お前を倒す〟。

まるでそう言わんばかりに。



「ふうん。〝虚勢〟か。」



そんなエイトの姿を見てカムイはフッと笑みを零す。

小さい子供が無邪気に遊んでいるのを遠くから見てる保護者のような。

そんな微笑みだった。

そして、彼はどこを見る訳でもなく。




一秒の空白。




瞬間、エイトの全身から力が消し飛んだ。

何が起こったのか自分でも分からない。

揺らぐ視界の中で分かったのはただ一つ。

彼は自らが入った入口にあるドアに背中から激突したという事だ。

重力に逆らうことなく、壊れた玩具のように彼は床に転がる。

途端意識が朦朧とし、二本の腕は不規則に震えた。

加えて、一瞬でも力を抜けば、腹から胃袋の中身が逆流しそうな感覚が彼を襲う。

言葉さえ発する事すら許されない。

そして、ここに来て初めて〝痛い〟という感覚が全身を駆け巡った。

まず背中。

鉄製のドアに目にも止まらぬ速さで背中を強打した痛みだ。

続いて腹。

抉られたような痛みだった。まるで内蔵を外から掴まれて引っ張られているような感覚。

先程の吐き気はここから来てるのかもしれない。

経験もした事のない痛みでエイトは気を失いそうになる。


「結局こんなものか。ダメだよ、虚勢なんか張っちゃ。」


唸り、くの字に蹲るエイトは返答する事も出来ないがカムイの声だけはハッキリと聞こえた。

そんなエイトを前にカムイは続ける。


「さっき〝君を生かしておけない〟って言ったけど、それは忘れてくれたまえ。さっ、早くおかえり。君は〝殺すのにも値しない〟から。」


完全に舐められている。

仕留められる敵を目の前にして、殺される事すら許される。

そんな屈辱があるだろうか。

エイトは歯を食いしばり、背中と腹の痛みが少しずつ和らぐのを確認すると、顔だけをカムイに向ける。


「て······テメェは······何者だ······?」

「いきなり核心につく質問だね、まあ君みたいな末端の勇者に正体を明かしたところで〝上〟は眉一つ動かさないだろうが。」

「なんで人を······殺した······っ」

「理由はない。意味のない。理論もない。原因もない。因果もない。価値もない。〝それ〟以外本当に何も無い。」

カムイはどこを見るわけでもなく。





「『大義』の為だ。その過程の必要条件として〝殺した〟。それ以上でも、それ以下でもないーーーーー。」





思わず、エイトは痛みを忘れ立ち上がった。

この男の発言を認める訳にはいかない、まるでそう言わんばかりに。

この男の指す〝大義〟が何を意味するものなのかは分からない。

だが、そんなモノの為に人の命が易々と奪われていい訳が無い。

命に勝る〝大義〟などある訳が無い。

認めない。

否。

認められない。

その思いだけで青年エイトは立ち上がった。

そのボロボロの拳で何も出来る訳が無いなんて事は分かっている。

今ここで逃げなければ、自分は死ぬかもしれないなんて事は分かっている。

だが、そんな事を目の前にしても青年は逃げることは選ばない。

それは青年の脳裏に〝ある事〟が過ぎったからだ。

その為だったら死んでもいい、彼はそう過去に誓っていた。


「お前を此処で逃がす訳にはいかないーーー」

「折角拾った命を無駄にするのかい?」

「うるせえ······知ってるか······? このギルド・ヘネシス支部にはな······最強の勇者がいるんだよ······」

「へえ。それは興味深い!」

「その人は余りにも強いと有名で······ここら周辺では······伝説の〝王者の三角形(デルタ)〟の一角を担ってるんじゃねーかって言われてんだ······その上をいく勇者なんていねぇ······!」


エイトは意識が飛ぶのを堪えながらも、振り絞る声で告げた。

最後の希望(デルタ)に縋る姿は余りにも痛々しかったが、それでもこの場限りは祈る事しか出来なかった。

気持ちだけではこの男に勝つことなど出来ない。

ここで最強の勇者であるS(デルタ)が来れば、当然戦況は変わるだろう。

それが今思いつく限りの最大限の考えであった。

俺はその為の時間稼ぎだ、まるでそう言わんばかりに。

だが、残酷にもカムイは嘲笑うように、青年の儚い希望を打ち砕く。




「ああーーーーー。知ってるよ、〝カーネル〟だろ?」




「なっ······!」

その男から発せられた言葉を耳にし、思わず唖然とする。

何故この男が最強の勇者の名を知っているのか。

その理由をエイトが知る筈もない。

既に彼らは交戦済みで、カムイが勝利した事など知る筈もない。


「その男ならさっき俺が屠ったよ。さすが勇者界最強と謳われるだけあって少し骨が折れたけど······まぁ楽勝だったかな〜」


エイトの知る常識が覆されていく。

希望が打ち砕かれていく。

もう為す術など、どこにも残っていない。

更にカムイは笑いながら続けた。


「ちなみに誤解してるようだけど、俺は〝勇者〟なんかじゃないよ?」

「じゃあ······お前はなんだってんだ! 」






「〝魔物〟ーーーーー。いや〝墮勇者〟か?」






男はピシャリと告げた。

それは毅然と、凛とした口調で。

魔物。

エイトは先程に対峙した未開拓領域(フロンティア)に生息する未確認生物の事だ。

だがその容姿は人間とは程遠く、人間の特徴など一つもない、所謂〝化け物〟。

それは勇者最低ランクEのエイトでも分かる。

それが一般的で、例外など聞いたこともない。

加えて〝墮勇者〟など彼の知るワードリストにはない。

所謂、〝堕ちた勇者〟なのだろうが、それが何を意味するのかさえ知らない。

つまり、この男の発言内容の一割も理解できない。

だが、この男が言っている事が仮に真実なのだとしたらーーーー。



ここに来て初めて、青年エイトは自分が〝無知〟なのだと知る。



そして『闇』。

こんな一言で片付けて良いものだろうかとも思うが、逆にそれ以外の言葉が見つからなかった。

自分の知らないところで、何かの闇の存在を感じる。

こういった未知なるモノの恐怖が彼の思考と全身の動きを停止させた。

一体全体、自分の知らないところで何が起こったのか。

青年エイトが今この場で知るはずもない。

だが、そんな極限の状態の中で、エイトは再び〝ある事〟を脳裏によぎらせる。



(もしかして······サムもコイツにーーーー。)



その可能性は十分過ぎる程にあった。

今エイトの目の前にしている男は大量殺人鬼な訳で。

当然サムもこの男に出くわしている可能性がある訳で。

そんな一連の思考が、青年エイトに言葉に出来ぬ怒りを増幅させた。

目の前にいるカムイに『大義』があるのなら、エイトにとってパーティーの存在は(まさ)しく『大義』に当てはまる。

仲間を護る、それが彼の大義なのだ。

それはたった一つの約束。

こんなランクEの〝落ちこぼれ〟を救ってくれたパーティーとの約束。

それを守る事が彼にとっての〝大義〟なのだと。



再び、青年は拳を構えた。



だが、明らかにその握る拳は先程より弱まっていた。

そのボロボロの拳で一体何が出来るかなんて分かっている。

これ以上カムイに戦闘を挑めば、自分がどうなるかだなんて分かっている。

それでもエイトは再び男と対峙する。

その桁違いの強さの差があるにも関わらずに。

無謀だなんて事は分かっている。

だが、ここで逃げるを選択する事は、彼にとって〝真の死〟を意味していた。

この男が無差別に人を殺すなら、それは無論彼の仲間であるパーティーの存在も含まれる。

それだけは何としてでも阻止しなければならない。

故に、彼は立ち塞がる。

史上最強のS(デルタ)を屠った闇の根源のような存在の前にしても、彼は拳を握る。




「へえ、死にたいの?」




「俺は誓ったんだーーーーー。」




恐らく次の一撃を喰らえば、彼は死に至るだろう。

カムイのほんの一撃で、あれ程の致命傷を負うならば〝本気の一撃〟を喰らえばどうなるかは容易に想像がつく。

そんな極限の中で。

彼の大切にする者達の顔が脳裏に蘇った。


意地悪そうな表情で、いつもエイトを冷やかし、食って掛かるカンナ。

でも、彼女が本当は心優しい純粋な女の子だということを彼は知っている。


誰よりも強く、そして落ちこぼれ勇者であるエイトにも優しく平等に接してくれる、お姉ちゃんみたいなナナ。

それなのに本当は繊細で、弱い一面も見せてくれた彼女に少し憧れている。


強いだけでなく、圧倒的リーダーシップで皆をまとめるサム。

真面目者のように見えるが、実は面白くて、仲間意識が強く、自分もそんな男になりたいとエイトは密かに思っている。


そんな彼の守りたい小さな、とても小さな世界。

他人から見ればそれはとても〝ちっぽけなモノ〟かもしれない。

だが〝ちっぽけなモノ〟だからこそ守らなければならない、と彼は思う。

それを守る為なら、彼は死をも厭わない。

それが彼の〝誓い〟。

それが彼の戦う理由。

その為なら彼は戦う。

たった一人でも、歴然の力の差があったとしても。

しかし、そんな姿は見飽きましたよ、と言わんばかりにカムイは人差し指をエイトに向け伸ばした。

そして、



火蓋は切って落とされる。



「〝弾けよ〟」



刹那。

男が言葉を発するとほぼ同時、轟音と共にエイトを含む、周囲の全てのものが宙に捲れ上がった。

床、壁、置物、それら全てのものはまるで重力が横向きに変換されたかの如く、カムイの指の向く方へ吹き飛び、無論青年エイトも例外ではなかった。

耳を劈くような轟音と、地響きがギルド全体に震撼する。


「言っただろう、〝虚勢〟を張るなって。」


大きな欠伸をしながら男は告げる。

その視線は既に指先の方向には向いていなかった。

男は指先の方向に背を向け、再び自分が元来た道へ振り返り、足を踏み出す。

まるでエイトの末路など、まるで視界に入れてもいなかった。

つまり。

興味が無いのだ。

わざわざ説明するまでもない。

男は指を指し、たった一つの呪文を唱えただけ。

たったそれだけで床や壁は愚か、エイトの身体も吹き飛ぶどころか、紙屑のように粉々となっている為、わざわざ生死など確認をするまでもない。








ーーーーーハズだった。








その砂埃舞う廊下の中で。





カムイの背後にヌッと伸びた何者かの〝影〟。





咄嗟にその気配を察知し、カムイは上半身だけ振り返る。





ソレは人の形をしていたが、余りにも唐突な事でカムイは動揺し見つめる事しか出来ない。





砂埃の僅かな隙間から垣間見えたのは拳。





そう。





〝落ちこぼれの青年〟の拳だったーーーーー。







「うおおおおおおおぉおおぉおおおッッッ!」






まるで弾丸のような速さ。

先程からの挙動からは想像がつかないような速さ。

彼の右足は大きく引き、右拳が伸びる。

それらは砂埃を裂き、〝標的〟へと一直進に進むんだ。

一秒も満たない世界。

その拳は瞬く間にカムイの右頬を捉える。





「なッ······にぃ!?」





目にも止まらぬ速さで繰り出された勢いの青年の右拳は、カムイの右頬を抉るように直撃した。





それを受け、カムイは大きく仰け反り、地へと伏す。





「テメェが何者かだなんて知らねぇ。」





「テメェが何を企んでるのかなんて知らねぇ。」





けどな、と青年は続ける。

シューと煙があがる己の右拳を一瞬見つめて。

目の前に横たわる〝闇〟に対して一言告げた。







「テメェが罪のない人達の命を自己都合で奪おうってなら······まずはテメェの野望を打ち砕くーーーーー!」







今、この瞬間。





〝落ちこぼれ〟の逆襲が始まろうとしていたーーーーー。

闇を打ち砕く、青年の拳ーーーーー。

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