第十話 魔法使いは静かに微笑む
お久しぶりでございます!
やっと更新できました!
それではお楽しみ下さい!
あれから一ヶ月という月日が経過した。
ギルドを袋叩きしていたメディアはようやく収まりを見せ、世間の賑わいは嘘かのように通常運転へと戻っていく。
その理由の一つとして「パーティー対抗戦」の開催があった。
パーティー対抗戦は全国規模で行われるもので、全員の猛者達が星の数ほどいるパーティーの中での頂上を目指し大攻防戦が繰り広げられる。
年に一度の行われる大イベントの一つで国民的な行事である故、注目度が高い。
運営するのはギルド上層部であるが、今回の大会の警備面にも大きく注目が集まっている。
パーティー対抗戦は二人以上のパーティーから結成されているチームからエントリー可能で、既にエントリー数は百チームを越えていた。
最初の一回戦はバトルロワイヤル制で、幾多のチームが生き残りを賭けて戦うこととなる。
生き残りが百人に達したところでバトルは一度中止され、一体一のトーナメントが組まれる。
パーティーの一人でも戦闘不能に陥っていなければ、生き残りパーティーと認定されるのが主なルールとなる。
そんな中、出場者は仮想世界と呼ばれる場所で戦う事となる。
仮想世界とは、身体を昏睡状態にし、本人の意識だけを人工で造らられた電子世界の中へ送り込むシステムの事だ。
無論千人以上の規模の大戦闘を現実世界で行えば被害が凄い故、この様な処置が取られた。
仮想世界にて戦闘不能となったものは脱落者となり、現実世界へと帰還する。
最初はバトルロワイヤル制である為、よりパーティーの結束力、チーム戦が必要となる戦闘となる事は間違いない。
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「ここが会場か·····」
エイト、サム、ナナ、カンナが辿り着いたのはパーティー対抗戦の会場で、人が軽く千人は詰め込めるような大きな施設であった。
そんな中、会場は人が溢れかえっており、選手だけでも千人以上はいるだろう。
周りには観客席があり、既に大勢の観客が席を埋め尽くしているのが分かる。
頭上には大きなスクリーンが設置されており、恐らく仮想世界で戦う者達の戦闘シーンなどを観戦出来るのであろう。
そして選手会場にはいくつもの機械や
プラグがあり、それを頭にセットして仮想世界へと送り込まれるのだとエイトは予想する。
本当にあんなので仮想世界とやらに行けるのであろうか、と横目に心配をするエイト。
「優勝とまでは行かないが、一回戦は突破しかしたいよな。」
「そうよね!」
「サムとナナ、やる気満々だね! エイトは?」
「俺だってやってやるつもりさ。」
ここ一ヶ月の話だが、彼は何もボーッとしていた訳ではない。
幾度となく自己鍛錬に励み、一から身体を鍛え直してきたのだ。
肉弾戦におけるナナとのシュミレーションも何度も行い、あらゆる実戦経験を積んできた。
「もうお荷物だなんて言わせねぇぞ·····!」
彼は思い出す。
それは〝あの日の事 〟。
自分が虫けらみたいにあしらわれ、何も出来なかったあの日。
もうあんな思いなど絶対にしたくない、その思いだけが彼をここまで突き動かしてきたのだ。
そんな事を話しているうちに、案内人がエイトらパーティーを案内し始める。
仮想世界へ行く方法は至って簡単で、頭に機械のヘルメットを被るだけだ。
たったそれだけの事で意識を違う所へ転送出来るなど、現代の科学も進歩したものだとエイトは小さく思う。
なされるがままに、エイトらはヘルメットを頭へ装着すると、視界には〝 スタンバイ中〟と表示されている画面が広がっていた
そんな中、エイトは隣にいるサムへ話し掛ける。
ある一つの想いを胸にして。
「なぁ、サム。」
「なんだ? エイト。」
「俺、頑張るよ。たった一ヶ月かもしれないけど、死ぬほど努力はしてきた。」
「ふ、何を今更。そんな事は知ってるさ。」
「俺はこのパーティーを護る〝 盾〟になる。それが俺が与えられた役割で·····仕事だ!」
「あんな事があったからこそ、俺らは更に強くならなきゃいけない。悪に屈してはならないーーー。」
「またいつか来る〝その時 〟まで、な。」
二人はしばしの無言が続く。
一ヶ月前に己の弱さを痛感したこの二人だからこその会話だ、とエイトは思う。
僅かかもしれないが、あの〝 赤毛の男〟に太刀打ちが出来る程の力が欲しいと思う。
そんな想いを胸に、エイトは再度口を開く。
「サム。お前は何の為に戦うーーー?」
「俺はーーーーーー。」
刹那。
ブツリ、と二人の意識は途絶え、会話も途絶えた。
それはまるでパソコンを強制終了した時のように、一瞬にして。
そう、試合開始の合図だ。
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青年は、目覚める。
それは唐突に、前触れもなく。
エイトはゆっくりと身体を起き上がらせると、どうやら本当に〝 仮想世界〟へと自らが転送された事を知った。
「都市·····?」
まず彼の第一声はそれだった。
高層ビルが建ち並び、それの間に位置する巨大道路の真ん中に彼は寝っ転がっていたからだ。
天気は晴天。
人影は一切なく、静まり返っている。
普段なら高層ビルが建ち並ぶ大都市ならば、これは異様な光景な為、逆に怖いと感じる。
「エイト。」
ふと背後から声を掛けられ、振り向くと、そこにはサムの姿があった。
その横にはナナとカンナもいる。
「いきなり試合が開始したな·····」
「あぁ、どうやら本当にここで戦うみたいだ。」
「私達のスタート地点おかしくない? こんなの攻撃して下さーい、って言ってるようなもんじゃん!」
「とりあえず、何処から攻撃が来るか分からないわ·····拠点を作りましょう。」
「ナナの言う通りだ。移動するぞ!」
サムの合図と共に、彼の後ろへと続く。
人気が全くない大都市だからこそ、道の真ん中に居座っているは無防備過ぎるのは言うまでもない。
そんな中、エイトはサムの背後へ続きながら周囲を見渡す。
ただ只管に続く高層ビル。
今回の対抗戦に参加する人数は千人。
その事から一つの疑問が彼の中で生じる。
「おかしくねーか·····?」
「何がだ?」
「今回の試合領土の大きさは?」
「それは·····確か公表されてなかったな·····」
「今回千人も参加してる試合だぜ·····? こんな人気もないなんて事あるか?」
「エイト、つまり何が言いたいの?」
「もしかして·····かなりの広さなんて事は·····」
刹那。
大地がクッパリと裂けた。
少なからず、青年エイトの瞳にはそう映った。
その衝動で軽く一メートル程、エイトの身体は宙へ舞う。
辛うじて聞こえたのはカンナの悲鳴だ。
自分が今どういう体勢をしているのかも理解出来ぬまま、彼は地面へと無造作に叩き付けられる。
痛みの声をあげる暇もなく、続いて来る第二波。
それは『衝撃波』。
音速で来るソレは、エイトの身体を軽々と突き抜けた。
彼の身体に宿る〝 正体不明の力〟は効果を発揮すらもしない。
紙切れの如く彼は軽々と吹き飛んだ。
·····が、一瞬にしてそれは収まる。
確かに痛みを感じるのだが、第三波が来る様子がない。
一体どうなっている、と彼は辛うじて顔を上げ、状況を確認した。
「カンナーーー!」
状況が二三転して頭が混乱している中、確かに分かる彼女の姿。
エイトの前に立ち塞がり、手を正面へと突き出しているのが分かる。
グルっと周りを見ると彼女とエイトの周りには、オレンジ色をしたシャボン玉のようなオーラが張り巡らされていた。
その中にはナナとサムも含まれているのも確認できる。
「絶対防御圏ーーー?」
唐突にナナが口を開く。
それはまるで亡霊を視ているかのように。
それはまるで奇跡を見ているかのように。
絶対防御圏。
その言葉は呪文に全く疎いエイトでも知っている。
それは防御呪文の最高峰。
つまり、究極の盾。
先人達がその有効性を認めながら、憧れ、焦がれ、苦労に苦労を重ね、それでも尚、その扉を全く開く事が出来なかったと言われる、幻の呪文。
それが絶対防御圏。
勇者ランクSレベルの呪文。
それぐらいの事は青年エイトでも知っている。
それが故に。
この呪文を勇者ランクCの魔法使いが唱えられる筈がない事も知っているのだ。
「な·····なんだよ·····これ·····。」
青年はポツリと呟く。
目の前で起きている事象が理解出来ない。
それもまだ試合開始から十分も経過していない。
「エイト! ソレに触らないで!」
唐突に彼女は声を荒らげた。
彼の視界からは彼女の表情は見えないが、険しい表情をしているのは容易に想像できる。
そんな彼女の様子を見つめながら、エイトはゆっくりと立ち上がった。
「俺が触ると·····〝消滅〟でもするってのかよ·····絶対防御圏が·····」
どんな呪文だと思ってんだよ、と言いたくなるのを堪えながら、彼は自分の身体が絶対防御圏へ触れぬよう細心の注意を払う。
「そうだよ、消えちゃうから。」
そんな事を彼女は言う。
エイトが〝あらゆる呪文に対して効果を打ち消す力 〟がある事はパーティー内で周知の事実だ。
しかし、それだとしても。
それがどこまで効果が及ぶかどうか等は誰も知らない。
無論、本人でさえもだ。
それでも彼女はそんな事を言う。
まるで彼が『この世の全ての呪文に効果が及ばない』という事実を知っているみたいに。
ビキィ! と激しい音を立てながら、謎に迫る衝撃波からパーティーを守るカンナ。
一体、絶対防御圏の外はどうなっているのか等、想像もつくはずもない。
そもそもこの攻撃の正体も分からない。
そんな中で彼女は小さく笑った。
激しい轟音の中でも、それは確かに聞こえたのだ。
なぜ彼女が笑っているかなど、エイト含めパーティーが分かるはずもない。
瞬間、彼女は手を正面へ翳したまま、ゆっくりと彼の方へ振り向いた。
「カンナ·····お前·····」
「この一撃だけは·····防ぐ·····。後は·····もう無理·····。これで·····限界·····。」
彼女は再び小さく笑った。
それは小さな小さな笑み。
口角を少し上げるくらいの小さな笑みだ。
無理して笑っている事なんて百も承知だ。
そんな事は勇者ランクEで落ちこぼれの烙印を押されたエイトでも分かる。
そんな彼女の顔を見れば誰でも分かる。
顔中、血塗れになっている彼女の顔を見れば、そんな事は誰でも分かる。
大きな力の反動ーーーーー。




