第6隻目 機動兵器は飛行機型or人型!?
各種武装の選択、及び搭載位置のみではあるのものの、基本設計が完了した。
「太陽嵐災害事件」と呼称される太陽嵐が火星を直撃した日から3週間後であった。
太陽嵐事件による人的被害はなかった一方で屋外設置型の機械類が軒並みやられてしまったわけだが、縮退炉製造プラント内の自動修理ロボットにより2日とかからず修繕された。また、ナノマシンの追加散布が行われ、太陽嵐の影響はごく小規模に済んだ。
被害がこの程度で済んだのは、元が縮退炉研究のための軍の研究棟であったため、もしもに備えた対電子構造の建物だったためだ。
尤も、安普請で急増された宿営地区内の官舎では全ての電子機器は破壊されてしまった。それは各人の部屋にあった電子機器も例外ではなかったが……。
恒星間航行試作戦艦 「エクセリオン」
諸元
全長7,230m 全幅2,298m 最大高1,682m 排水量2777,9900t
動力源 縮退炉2基(主機) 常温核融合炉1基(補機)
推進方式 純エネルギー反作用推進方式
武装関連 垂直照射式8m級対艦レーザー砲(800門) 垂直発射式誘導弾発射装置(3000セ 光子ミサイル、対空ミサイル各種、対艦ミサイルなど) 正面固定式15m級対艦レーザー砲(12門) 対空レーザー機関砲3000基 背負砲塔式120㎝連装超電磁加速砲(40基 80門) 背負砲塔式120㎝単装プラズマ砲(40基 40門) 背負砲塔式120㎝単装荷電粒子砲(40基 40門) 対艦隊用広範囲殲滅マイクロウェーブ照射装置(1門)
防護関連
装甲 エクセリニウム合金(最大厚20m 最低厚10.8m) 対物・対光学電磁フィールド 数学的事象変動域形成フィールド 電子攻撃・対抗装置(レーダー探知妨害装置、対レーダー探知妨害装置、電子攻撃妨害装置、電子攻撃装置、電子兵器クラッキング装置)
電算装置 81式量子電算機「オモイカネ」
索敵関連 JA/MAIMO-8D(多目的レーダー) JA/TOKU-3(超長距離天体識別レーダー)
機動兵器関連 搭載予定機数500~1000機、機種 未定
「やっぱり、機動兵器が決まらない……」
「いや、載せる必要あるのですかい? こんな重武装な戦艦で……」
「試作艦という名目で全載せしちゃったからな……ここまでやっておいて載せないなんて、勿体ないじゃない?」
「なにが『勿体ないじゃない?』ですか!? こんなの予算が通っても、建造だけで数年はかかりますぜ!!」
サイジョウの怒り心頭の言葉だったが、どこ吹く風。オガタはとあるものを指さしてニヒルに笑って見せた。
「自動修理型自立思考修理ロボット。あれはもともと、『イブ』や『アダム』を始めとする今は亡き超大型戦艦を建造するために作られた、言わば戦艦建造のためのロボット。あれを量産すれば、なにごとも問題ないんじゃないかな?」
「……あぁ。言われてみればそういえば確かに。これは私の誤りでした」
「わかればよろしい」
言いつつ、サイジョウの頭を乱暴気味に撫でる。彼女は「子供じゃないんですから」と抗議の声を上げるも、オガタの手を撥ね退けることなく、俯き加減で成されるがまま撫でられまくられていた。
若干頬が赤らめていたが、やはり、オガタは全く気付かなかった。
一方で指さされたロボットが、オガタを見る。そしてオガタの元に近寄ると傅いた。
「オガタ中佐。何か御用でしょうか?」
機械にしてはとても自然かつ流暢な声音。といっても、既に機械工学は限界まで高まり、巷を見れば全身義体も少なくない。そう考えれば特にこれといって不審なことはない。とオガタは思った。だが、このロボットは「自立思考型」。すなわち、自我を持ったロボットに等しい。それは全身義体の人と一体何に違いがあるのか?
彼はその疑問を得たと同時に、それを頭から振り払った。
デカルトの「我思う、ゆえに我在り」という言葉を借りるならば、このロボットには自我があると定義できる。ならば、このロボットは人と同義として扱わなければならない。
自身の脳を生体コンピューターにしてしまった彼自身だが、そのことを受け入れられなかったのだ。
故に、頭から振り落とす。
余計な考えを捨て、あくまでも眼前のロボットはロボットだと割り切った。
彼自身、こういった思考実験の類にしばしば襲われる。それが彼の悪癖であり、個性だった。
「いや大したことじゃない。ところで、君たちの設計図。できれば、製造プラントはどこか教えてくれるかな?」
「はい。設計図の類はありませんが、中佐の持たれているスキャナーを使えば問題ないかと思います。製造プラントは木星コロニーNO12の日本三菱重工公社でボディーが作成。人工脳は同社の同プラント内で。思考回路の開発はアメリカU.S.A軍事複合企業ロッキード・ダグラス・ボーイングカンパニーです。造形は日本の造形師が行いました。以上でよろしいでしょうか?」
明朗な返事に満足げに頷く。
「問題ない。なにか希望する物資などあるか?」
あくまでも社交辞令的に聞いてみる。
仮にもロボット。欲しがるものなど何もないとは分かっているものの、自律思考するロボットだ。
コミュニケーションくらい図っても誰に恨まれるわけでもない。と、オガタは考えていたが、隣の副官がなぜか青ざめた表情をしているのに気づかない。
小声で「私ですらまだなにも貰ったことがないんだぜ・・・!」と呟いているが、ゲロをぶちまけた相手に声を大にして言う勇気は、さすがの彼女も持ち合わせていなかったようだ。
「では、天然オイルを……」
「俺はバトーさんじゃねーよ……。てめぇはタチコマか……」
予想外の返答に、オガタは前世の記憶丸出しの突っ込みを入れていた。
それはサイバーパンクの代名詞的アニメの一コマを思い出させるには十分な返事だったのだ。
「ははははは。よくわかりましたね。我々、自立思考型ロボットの原型はそのアニメから着想を得て作られています」
「道理でロボットくささがないわけだ。わかった。本当にそれでいいんだな?」
「すみません。冗談です。オイルもなにも要りません」
自律思考。故に嘘や冗談を吐ける。それは人間とどう違うのか。と、再び思考迷宮に落ちかけたオガタだったが、とりあえず、それは置いておくことにした。暇時にでもその思考迷宮を探索すれば、良い時間潰しになると思ったからだ。で、自分から何が欲しいか聞いておいて、相手が要らないといったから「はいそうですか」という訳にはいかない。言い出しっぺならば、その責任を取る必要がある。では何を贈ればいいのか?考え始めると同時に、サイジョウが大きな声で割り込んだ。
「あんたたちの顔が一緒でわかりにくいから、名前を付けてやるぜ。それでいいだろ?」
サイジョウからすればオガタからのプレゼントを先取りされるくらいなら自分から贈ってやる!という気持ちでの申し出だった。
だが、それを聞いたオガタは「急用を思い出した」とすぐさま部屋を出て行き、あれよあれよという間に100機近いロボット達がサイジョウに群がった。
「サイジョウ大尉。貴官の申し出に最大の謝辞を、代表して私が送ります」
オガタに指さされたであろうロボットが跪き、サイジョウに感謝をつたえた。
釣られて他のロボット達も跪いていくではないか。
この光景に、彼女は狼狽えた。
「えっと……わかった。わかったよ! 全員名前つけてやるから一列に並びやがれ!」
サイジョウの投げやりな言葉により、サイジョウの前に一筋の列が出来上がる。
彼女は数時間を掛けて全ロボットに名前を付けた。
名前を付け終わった後、設計室に戻った彼女はオガタに珈琲を淹れた。
「う……この珈琲、すっごく甘いんだけど」
「気のせいでは?」
逃げた上官に対するささやかな復讐を完了し、サイジョウは「人型に変形する戦闘機ロボットでもよくないですか?」と投げやりに言った。
これが、オガタのSF魂に火を点け、VF計画を実行に移す寸でのところまで行ったのは言うまでもないことだった。
後日談。参謀本部参謀総長ではなく、帝国宇宙軍総司令部の総司令長官に呼び出され「好き勝手しすぎぃ!」と注意された。更なるオガタの暴走を防ぐべく、帝国宇宙軍総司令部の名のもとに、既存の人型2機種と戦闘機型3機種、計5機種の搭載で、各200機を上限に搭載が命令されたのだった。
この時、帝国宇宙軍7不思議に「なぜオガタ中佐が解任されないのか?」が追加されたのだった。
またもや趣味全開!
趣味全開なことを打って(クル)何が悪い!