第60隻目 新型戦艦「白鯨」
宇宙に横たわるは新たな地球人類の艦の骨子。
『白鯨級戦艦』
全長5300m 横幅14100m 最大高988m
動力源 縮退炉3基(主機) 常温核融合炉2基(補機)
推進方式 純エネルギー反作用推進方式
武装 正面固定型30mレーザー砲108門、背負砲塔式3連装22口径20m級対艦レーザー砲60基、対空レーザー機関砲5000基、垂直発射式誘導弾発射装置20000セル
対物・対光学電磁フィールド 数学的事象変動域形成フィールド 電子攻撃・対抗装置(レーダー探知妨害装置、対レーダー探知妨害装置、電子攻撃妨害装置、電子攻撃装置、ハッキング・クラッキング装置)
電算装置 82式量子電算機「ミネルバの梟」2基
索敵関連 JA/MAIMO-9A(多目的・戦闘レーダー) JA/TOKU-3(超長距離天体識別レーダー)
戦闘指揮システム シン・アマテラスシステム
一部の武装は超江級と同じにすることで生産性の向上を図り、多数の武装を搭載することにより対艦攻撃力を増大させた一方、機動兵器運用能力を超江や長江に依存することでカタパルトや格納庫といったスペースを省略した結果、資源も人的資源も節約する設計となった。
薄平べったい船型にこれでもかと武装を盛り込む一方で、艦内には莫大な余剰スペースもあり、平時においては輸送艦として運用も考慮されている。
これは軍上層部が正面戦力の拡充に明け暮れるために、輸送艦や補給艦の整備計画が遅れているための苦肉の策としての側面もあった。
運用人員は3000人と極小の人員である。
これには先の会戦において人命が散り過ぎたことへの強い後悔と、自らの設計を過信したオガタ自身が自らに向けた怒りの発露として少ない人員で運用できる設計をしたのである。
そのためのシン・アマテラスシステムと銘打たれた新たな戦闘指揮システムである。サイジョウとミッシェル達の労働と努力の産物である。
艦橋はモジュール化されており、作戦行動中でも任意に艦本体と分離が可能なように設計されている。分離時は縮退炉1基と常温核融合炉1基で推進する。いわば救難艇としても運用可能にする。
この際には電算装置等、非常に高価な装備と乗員の生存性も上がる一方で、コスト上昇を招くこともあり強く反対意見もあった。だが人命のため、そして残った本体を敵陣にまでリモートコントロールし2基の縮退炉を暴走させる。つまり「ブラックホール爆弾として艦本体を流用できるようにする」というオガタの話に、軍は有用性を認め、分離方式を採用した。
しかし本艦の建造は現状の超江級や長江級の建造計画を優先するため、現状の建造計画より後。即ち概ね10年から15年後に本格的建造が開始されることになった。
だが初期少数建造計画として、5年間で50隻の建造が決定されたのであった。
その一番艦が本日、着工式を迎えたのであった。
「一番艦の着工、おめでとうございます」
「あぁ。しかしまず、軍隊蟻の駆除作戦を成功させねばならん」
サイジョウの祝辞もほどほどに、オガタは決意を口にする。
あくまでも艦隊決戦に特化した白鯨級は軍隊蟻との戦闘には不向きなのであった。
各国が建造合戦を進める中、軍隊蟻駆除作戦の陣頭指揮を執る地球のスタンスは、あくまでも軍隊蟻駆除のためというお題目あっての軍拡なのである。にも拘らず、表立って艦隊決戦の艦艇を大手を振って建造できないというジレンマに陥っている。
周辺国が地球帝国に寄せる信頼は軍隊蟻駆除ありきなのだ。それゆえに急速な軍備拡張に対しても、概ね好意的に受け取っている。それが自分たちの喉元に突き付けられる剣になる可能性を考えている国は現状、アンドロメダ帝国くらいしかないというのが情報部の出した結論であった。
「どうしても上はやりたがってるようですぜ……専守防衛に努めたジエイタイの末裔とは思えないですぜ」
呆れか悲しみか、独白する彼女の言葉にオガタも深く首肯することで同意を示した。
「これも時代の変化だ。我々は我々の務めを果たすだけさ」
吐き捨てるようにいうと足を白鯨の船台にむけ歩みだした。
これから1年をかけて建造される超巨大戦艦だが、今はまだ巨大な上下竜骨と翼骨が横たわるのみである。
これら竜骨などはエクセリニウム合金により作られており、原料となるエクセリニウム産出のための採掘船も民間ドックを利用して急ピッチで建造され、既に十数万隻が採掘に当たっている。
1隻の艦を作るために、莫大な労力さえも広大な領宙を誇る地球帝国にとって、「お試し」の艦に資源を捻出するのはもはや容易なこととなっていた。
こうしたことを胸に抱き、オガタが眼前を見据える。
これからの未来のことを。
「諸君。では引き上げるぞ」
エクセリオンの基幹要員たちは敬礼して、エクセリオンへと帰り支度を始める。
斯くして、新たな局面へとオガタ達は誘われるのであった。