第55隻目 蟻は進めど会議は茶番!
一部ページの表記揺れ、誤字、加筆や訂正を行っております。
しかしながらストーリーそのものに影響はありません。
今後もマイペースに更新予定です。
帝国歴1184年4月18日
軍隊蟻駆除作戦から艦隊が帰還して約5か月が経過していた。
作戦の成功によりいまだ浮足立つ中、悪い知らせは急に入ると昔から相場が決まっている。
小マゼラン銀河のα集団、大マゼラン銀河のβ集団が移動を開始。それぞれ近傍の居住惑星に進行していた。またその他極小集団も移動を開始。こちらは主に天の川銀河近傍の星雲から銀河系中心のブラックホールに進路を向けていた。アンドロメダ銀河帝国。銀河間連合の敵集団の移動も観測されていた。行進速度こそ遅いものの、ワープ技術を有していることから、深刻な状況に変わりなく軍上層部及び艦隊司令クラスと、各省庁の事務次官級を交えての会議が行われていた。だが、それは会議という建前であった。
場所は首都星地球の帝国宇宙軍参謀本部。常日頃から集約されている情報は多岐にわたるが、緊急事態となればその集約される情報量は莫大に増える。その中から情報分析された正確無比な情報が挙げられる。
現状は緊急事態と言わざるを得ない、緊迫した情勢である。
「ジェミニエクセリオン、ロングエクセリオンの建造はジェミニが10209、ロングが14921隻が竣工を迎えています。ですがこのままでは作戦計画に支障を来たす恐れがあります」
造船部長からの報告に、参謀本部長であるヤイチ・アカツキ大将は頭を抱えた。
現在、帝国軍参謀本部では情報が集約されるということと、軍が大部分の権力を掌握している戒厳令下であることから、参謀本部を会場として設定されていたが、そしてアカツキはその場で指示を下した。
「大マゼランへの対外有償軍事援助を除けば8000と10000……このままでは確かに間に合わんな。さらに人員募集と工作ロボットの急増を図るように具申したい」
「これ以上の民間人への負担は国民人事省として看過できません。民需に影響が出ます」
「まだ許容できる幅があるはずですが」
言葉を挟んだのは軍と双璧を成す国民人事省のサンダースであった。
両者ともに譲らない舌戦が始まるかと思われたが、サンダースを擁護する者は他にもいた。
「財務省としてもこれ以上の建造ペースを速められるのは困りますね。すでに国庫を空にして、ここ30年でようやく黒字化した財政が、戦時国債の発行により今後10年は赤字の見通しです。大マゼラン戦争でのツケをやっと清算できたのに、これでは大恐慌が起こりかねませんわ」
財務省のニーベルマンの援護によりアカツキも若干言葉を窮したが、それでも力強く反発した。
「この情勢下に何を悠長なことを言われるか。小マゼラン銀河ではすでに2つの恒星が消滅していることが判明しています。これにより最低でも3個の文明が滅んでいる。調査の結果、これらが存命していれば第一宇宙文明を築いていてもおかしくなかったのですぞ。天の川銀河を同じ運命を辿らせる気ですか!」
「ですが、これ以上は民間経済に深刻な影響が出ます。ここ数年の急激な軍拡により、国民も不安がっています」
内務省のマスクウェルも苦言を呈した。
「然り。それは承知しております。しかし、すでに戒厳令を公布されており、いまだその効力は失効しておりません。従って、我々軍部は帝国議会より止められるまではその行使が認可されておりますことをお忘れなく」
事ここに至り、隠れた重鎮であるオガタは想定よりも早まっていた建造計画の真相を知るに至り、一人の将校として憤りを隠そうともせず、わなわなと肩を震わせていた。
戒厳令を盾に民間人に無理強いを強いることは彼がいままで仕えてきたはず帝国宇宙軍に、あってはならないことだった。
「それは甚だおかしな話ですな。アカツキ参謀本部長殿」
努めて平静を保ちつつも額に皺を寄せ、怒りをぐっと堪えて口を開いた。
「オガタ少将……君も出世したものだな。エクセリオン200隻とその乗組員300万名も殺した君がね」
オガタの正体を知る数少ない人物の一人であるアカツキも、オガタの堪えるような憤怒を理解したじろぐも、階級こそ自身が上位者であることから反論する。
「辛辣ですな。では参謀本部長殿は一体全体どの程度で済ませられたのでしょうか? それと私が死なせてしまったのは312万2879名です。300万名ではありません」
両者一歩も引かぬ舌戦が始まった中で、他の将の面々は黙ってことの成り行きを見守っていた。
実際に戦場にでる将校からすれば、あの戦いでたった200隻で済んだことのほうが奇跡に近いことを知悉している。
彼らは同様の想定で戦術指揮訓練を行ったが、400隻から500隻以上も失うというものであった。
しかしながら、猛将と名高いハルゼー中将と智将と呼ばれるワレンプス大将。そして若干30歳のマクシミリアン大佐だけは、オガタと同等、もしくはより少ない被害であった。だがそれも、事前情報があって成しえた結果である。
1000隻といえば旧艦艇時代では一個中隊規模の艦隊に過ぎなかったが、現在では一個師団艦隊の大戦力である。当初の想定は20万隻であったが、実際の敵は100万隻であり、情報不足、戦力不足も甚だしい中での大戦果であることは誰の目から見ても間違いなかった。
そのために、オガタの言葉に対するアカツキの回答は窮することになった。
「論点を、ずらさないでもらおうかオガタ少将」
「論点をずらされたのはアカツキ参謀本部長殿ではありませんか。それに軍隊蟻の動きはいまだ未知数でありますが、現状であれば戦力的にもまだ万全ではない小規模集団であるα、βともに移動を開始したのですから、これらを各個撃破できるうる戦力が既に宇宙軍にはあるはずです」
「我々の戦いは蟻との戦争だけではない。もっと先を見据える必要があるのだよ」
二人のにらみ合いが始まる中で、一人の男が大きく咳ばらいをして視線を集めた。
「二人ともそれくらいにしないか。身内で争ってどうする」
仲裁に入ったのは作戦本部長のルーデンドルフ大将であった。
彼もまた参謀本部の重鎮の一人であり、発言力はアカツキに比肩する。
「それもそうだな。ではルーデンドルフ。君ならこの状況をどうするかね?」
「私なら……まずは議会に話を通し、正規の手段で人員の募集を掛けることを議員先生方に話し合ってもらおう。軍が国家の舵取りの真似事をしては、シビリアンコントロールもへったくれもないだろう」
「それもそうか。でもそれでは戒厳令の意味をなさない。早急な対応を行うための戒厳令だ」
「事を急いては事を仕損じるといっているのだ。文官の皆様も困っているではないか。それに、オガタ少将の活躍と先見の明に私は一目置いている。彼の発言を尊重したい」
ルーデンドルフはそういうと葉巻を吸って、大きく深呼吸する。
「第一、我々は暴力装置だ。それを忘れてはならない」
「実務担当者の長としても、ルーデンドルフ作戦本部長に賛同する」
ここにきて初めて口を開いたのは帝国宇宙軍総艦隊司令長官のベネット元帥だった。
「アカツキ参謀本部長の日頃から精力的に職務を全うし、帝国宇宙軍、そして帝国の国是を体現する努力を惜しまないのは承知している。だが、これ以上の軍拡は国家の土台が揺るぎかねない。それに、総力戦をするにはまだ早いと、私は思うのだよ」
「元帥にまでそういわれると、言い返す余地もありませんな」
「国民人事省としましても、動員可能な人数を算出します。それを国会のほうで可否に掛けてもらう形で行きたいと思います」
「財務省も予算の捻出は可能な限り行いますが、期待はしないでください。これでよろしいかしら?」
「よろしく、お願い申します」
アカツキ言葉で言葉での応酬は終わり、事務的な話し合いが進んでいった。
さぁ、面白くなってきた!




