表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/66

閑話 地球組の行動(後編)

新システムの開発は難航を極めるかと思われたが、発想の転換で解決に向かうことなった。

指揮システムを乗っ取るというのをシステムとして組むという発想から、指揮権を1隻に集約するという発想に転換することで、開発速度は格段に短縮されることとなった。

やることは同じだがこの発想の転換はコロンブスの卵のようなものであった。


「ミッシェル中佐がやっていたのは、アマテラスシステムに代わって敵艦を指揮していたようなものですぜ」


この発想の転換はサイジョウが会議中に漏らした一言だった。

今までのは「どうやって僚艦を遠隔操作するのか」ということに終始していた。これは考え方が硬直していたために、それ以外の発想の視点を持ち合わせていなかったからだ。

サイジョウがそれをより分かりやすく簡潔にまとめたこと言ったおかげで、事態は好転する。

アマテラスシステムの艦隊指揮システムの拡張発展と戦術情報共有システムの強化。そして個艦ごとの独立した戦闘システム。これらを一連のシステムではなく、別個のシステムとしての開発を行うことで、開発方針は決定された。

これによりオガタが設計している全翼機型戦艦だけでなく、すでに就役済みの戦艦なども極小人数での運用が可能になる。

既にある指揮システムは艦隊運動を指揮するものであったが、戦術情報共有システムの強化などにより1隻で必要な演算処理などをはるかに低減させ効率化を行う。その演算を指揮艦が代理するものだ。

そして新システムではなく、アマテラスシステムの改良としてプログラミングが急ピッチで進められていく。

これにはミッシェルやサイジョウも例外ではなく、各セクションの長としてスケジュールや部下の管理を行いつつ、自分に振られた仕事もこなしていた。

それから数日が経ち、ミッシェルはプログラミングを行う中で、プログラムの羅列に強い既視感を覚え、暫くして気づいた。


(これではまるで軍隊蟻の猿真似ですわね……)


くしくもあの戦場でミッシェルが解析した軍隊蟻の艦艇のプログラミングに酷似していた。

そう気づいたが、同時に全翼機型戦艦がなぜ無人ではなく人員を配置する理由にも気づいた。


「ミッシェルも気づきましたか?」


そこにサイジョウがトレーを持って現れた。コーヒーと紅茶のカップが


「これはオガタ准将の保険ですわね。私たちがやったからには、敵が同じことをやらないわけがないですもの」


「その通りですぜ。いざとなれば戦術データリンクを切断してしまえば、艦を乗っ取られる心配はないぜ」


「まったく、あの人の戦術眼はどうなってるのかしら」


そうぼやきながら渡された紅茶の香りを嗅ぎ、ミッシェルは顔をしかめた。


「これを淹れたのは、サイジョウさんでして?」


「そうですぜ」


「……そうでしたか」


ミッシェルはしかめっ面のまま紅茶を口に運んだが、眉間に皺を寄せた。


「今後はシュナイツァーさんに淹れてもらうことにしますわ」


「どういう意味ですぜ?」


これにはサイジョウも少しばかり機嫌を悪くする。言外に不味いと言われるよりも、直接的に言われるほうが良いというのがサイジョウの性分なのも助けた。


「ストレートに言ってもよろしくて?」


低めの声でドスを利かせてミッシェルが言うと、サイジョウも黙ってられないとばかりに目の笑っていない笑顔で返す。

剣呑な空気が漂う中で、ミッシェルは笑いを噴き出した。


「次淹れてくださるならコーヒーをお願いします。あなたのコーヒーを淹れる腕は、確かですもの」


今度は茶目っ気たっぷりに笑いつついう。そうするとサイジョウも笑い出していた。


「そのくらいならお安い御用だぜ」


周りからすれば一触即発の雰囲気を醸し出されたわけで、冷や冷やとしていたわけだがこの二人はそれをわかっていない。

この二人からすれば最早あいさつ代わりのジョークだったが、慣れていない面々は心臓に悪い思いをしたのは間違いない。


「ミッシェル中佐、サイジョウ()()。こちらにいましたか」


「どうされたのでして?」


「お二人宛にオガタ准将から電報が届きました。


そういってシュナイツァーは封筒から書類を取り出した。

いつの間にか中佐の階級になっていたサイジョウだが、彼女もミッシェルの()()()()中佐となっていた。

ともかくシュナイツァーが持ってきた書類をミッシェルは一読して軽く顔を顰め、それをサイジョウに回す。彼女もそれを読み顔を大きく顰めた。


「これを読んだのは私とサイジョウさんだけでよろしいかしら?」


「はい。この場で知っているのはお二方だけです」


「あなたも読んでくださいな」


「よろしいのですか?」


そう言われ渡された書類を一読してシュナイツァーも顔色を変えた。


「……こりゃ暫く遊びに行けそうにもないぜ」


「サイジョウさんの場合はまず禁酒から始めないといけませんわ」


そう二人は表面上は笑っていたが、心中はとても穏やかに居られないものだった。


「二人してよく平然としていられますね」


「そういわれても、それもまた上に立つ者の責務ってやつですぜ」


「ふぅ……とはいってもこのままでは埒が開きませんわ。スケジュールをいくつか繰り上げる必要があります」


「とりあえずはさっさとティラさんたちエミュレータ部門を呼び戻しますぜ」


そういってティラに連絡が行きかれらのフィールドワーク(という名の旅行)は突如中断させられた。各人の体内ICチップから位置を特定され、サイジョウの連絡から3時間以内に軍用のトランスポーターが向かった。

余談だが就寝中の者の中には連絡に気が付かず迎えに来た人たちにより起こされた人や、中にはどうしても起きないのでパジャマ姿でそのまま運ばれた人などもいた。


そんなことは露知らないわけで、ミッシェルは不味い紅茶を啜りつつ溜息と共に胸中を吐露した。


「軍隊蟻の大行進か」


そして紅茶を飲み干すと、シュナイツァーにお代わりを要求したのであった。

かなり遅筆で申し訳ありません。

今後もゆ~っくりとですが、更新していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ