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第52隻目 類は友を呼ぶ!

第3設計室の前にオガタらはやってきた。

オガタは乱暴にノックすると中からガタゴトと大きな物音がした。


「マクラーレン少佐おられるのでしょう? 早く開けてください」


オガタが急かすと何かが崩れるような音とともに、蛙が弾き潰されたような醜い悲鳴が上がった。


「入りますよ」


それが聞こえたからかオガタは慌てた様子で電子ロックを上位者権限で解錠し部屋へと入った。

開かれた扉からあふれ出る書類やたくさんの鉱物サンプルにわけのわからないサンプルから模型などなどの山……。この中で人を探すことは容易ではないことが一目で理解できる。


「マクラーレン少佐!生きてるなら声の一つでもいいから上げてください!」


オガタの呼び声に応えるように、入口付近から呻き声がかすかに聞こえた。


「総員、手分けして救助作業開始! 荷物は全部廊下に出せ!」


オガタの号令で全員が動き始めた。




10分も経たずして生き埋めになった男、マクラーレン少佐を救出することに彼らは成功した。


「さて、どうしてこうなったかご説明いただけますか?」


「いやね、久々に扉をノックされたものだから驚いてしまってね。扉を開けようと走ってしまったらいろいろ引っかけて落ちてしまったようでね」


マクラーレンという男はそういいつつすっかり片付けられた設計室で、天羽が用意したコーヒーを楽しみつつ頭をぼりぼりと掻いた。掻いたはしから()()が飛び、女性陣だけでなく全員が少しずつ距離を取った。

さらには強烈な臭い……オガタもさすがにこれには耐えきれず、苦言を呈すことにした。


「ところで少佐。一体いつからこの研究室に籠られていたですか? 先日には今日からとお伝えしていたはずですが」


「えっとだね……2週間ほどかね。なに、研究に没頭すると日にちを忘れるものでね。なに食事は欠かさなかったから、今回は即身仏にはならなかったね」


「……カロリー〇イトですか。まあ、私もいまだによく食べますが。ではシャワーなどは浴びてないのですか?」


「その時間も惜しいからね。寝るとき以外はすべて研究に費やしたね」


「……マクラーレン少佐。率直に申し上げますと、臭いです」


「……おいちゃん、臭いかね?」


「とっても、臭いです」


「……」


しばしの沈黙の後、マクラーレンはしょぼくれた様子でシャワー室に向かった。

マクラーレンがいなくなった第三設計室はオガタの指揮のもと、徹底的に整理と清掃が行われることになった。

マクラーレンは2週間と言っていたが、ごみ箱の中のゴミの量などから最低でも1月はこの部屋に籠りっぱなしだったことがうかがえた。


「准将。あの人は……」


ゼニガタはオガタに聞く。

あんな奇人とオガタがどのような繋がりがあるのか、警備を担当する人間として把握しておきたいのだ。


「私の、恩師にあたる人だ」


「あの人がですか? マクラーレンという研究員の名前は聞いたことがありませんが……」


「あの人はもともと軍事専門の物質学者だ。エクセリニウム合金の生みの親、といえば知っているか?」


「ですがあれは月面設計部の成果と聞き及んでいます」


「あれはほぼマクラーレン少佐一人の成果さ。それをベルガー大佐に掻っ攫われたにすぎんよ」


こともなげに言うと第三設計室はキレイになり、十分なスペースが出来上がった。


「天羽も彼らとともに設計の基礎を教える。あとは物質学も今日からは学べるぞ」


「はい」


天羽の返事を聞いて教え子となる6名の列に加わるように天羽を促す。


「改めて自己紹介をしよう。私が今日から1週間ほど君たちの教官役を務めるマサヒサ・オガタ准将だ。よろしく。私から見て左の者から自己紹介をお願いする」


「はい。私はボリス・イワノフです。フォルティナ出身です」


「終わりか?」


「はい」


「そうか……」


一人目のボリスは淡泊な自己紹介だった。

彼の雰囲気からして、その素っ気ないほど淡泊な態度が妙に似合ってもいた。


「自分はリュウ・チンといいます。出身は地球の中華州になります。趣味はナンパをすることです」


チャラい男であった。

だが地球出身であるということは、彼の両親がそこそこの地位に居る可能性は高いとオガタはにらんだ。


「レーナ・ハインケル一等兵であります。出身星はザクセンであります。オガタ准将に教えていただけることに、感謝します」


真面目一直線な女であった。その様子をリュウは面白くない様子であったが……。


「アナタスタシア・ズヴェーレヴァ、18歳です! よろしくお願いしますぅ」


時代錯誤なギャルのような雰囲気を出す彼女を尻目にオガタは次の者に視線を移した。


「フェリックス・チセケディです。中央アフリカ州出身です。プロボクサーライセンスを持っています」


鍛えられた肢体と類まれな身長からフィジルカルエリートという風体だが、なぜ軍の道を志したかは謎である。


「ジャン=ポール・ラ・サールといいます。ヴルゴーニュ星出身です。よろしくお願いします…」


気弱な性格だろうが、彼は自己紹介するとすぐに席に座ってしまった。


「天羽士官候補生です。オガタ准将のもとで士官教育を履行中ですが、この度は特別講義として1週間皆さんと共に被教育者となります。よろしくお願いします」


天羽は慣れた様子で自己紹介を終える。なかなかに癖が強い7名であるが、講師たるオガタが既に癖の塊である以上、類は何タラである。

それはもう一人の講師も例に漏れない。


「ふぅさっぱりしたね。あぁ自己紹介が遅れたね。ジョン・マクラーレン少佐だ。君たちには艦船設計における強度バランスを左右する艦船装甲や骨組みの材質説明をするね」


「では日程を伝える。本日より3日間私とマクラーレン少佐の座学。それから3日間を資源採掘船の設計を各人で行ってもらう。残りの1日でさらにブラッシュアップさせコンペを行う。いいかな」


かくして、教育が始まったのである。

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