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第51隻目 若人に説く老兵の指南!

気付いたらもう4月……コロナが流行ってますね。

皆さんも十分に気を付けてください。


総合pt6000突破。ありがとうございます。

マイペースにのんびりとですが、執筆していきます。

地球帝国宇宙軍月面基地艦艇・装備設計部。通称「設計部」。

それは地球帝国宇宙軍の屋台骨の一つともいえる、戦艦や兵器などの設計を担う重要部署である。

月面基地の設計部は補助艦艇、輸送船など兵站を支える兵器の設計を担っている。

各星系の方面軍司令部にそれぞれ設計部。または研究開発部があるが、それらは各自分担し設計・研究を行い、常に相互しあえる開発体制を整えていた。

これにより、各星系の設計部が張り合うことで切磋琢磨することを期待されていたが、如何にして蹴落とすか。または出し抜くか。といった派閥争いが絶えない。

これを加速させたのは今まさに月面基地設計部に向かっているオガタが原因である。

現在重用されているエクセリオンシリーズの設計は、オガタが進めてきたものだ。

確かに、当初の選考過程においてオガタ以外が誰も名乗り出なかったためにそうなったわけだが、そのしわ寄せとして各派閥に多大な顰蹙を買うと共に、現状の設計思想から逸脱した設計をするオガタを異端として敵視する者も現れた。

エクセリオンシリーズが正式化されて以来、参謀本部や各方面軍の高官。さらには他部署の同階級者や下階級者からすらも「何のために存在している?」と嘲笑される日々だったのだから無理もない。

だが、ここにきて挽回の機会がやってきていた。

巡洋艦や駆逐艦、補助艦艇である輸送艦、給養艦、病院艦などの新規設計である。

巡洋艦と駆逐艦はエクセリオンシリーズを叩き台に設計するよう指示はあるが、補助艦艇は自由に設計していいいとされている。

そこで各方面軍設計部は補助艦艇共通船体計画を掲げ、コスト削減と今後の設計簡略化を目指すことで合意。現在は共通船体コンペディションのために月月火水木金金の勢いで設計を行っていた。


そんな中で月面基地設計部にとある設計依頼が入った。

半民半官の合弁企業である宇宙資源開発公社が軍を通じ要求してきたのは、資源採取船及び輸送・採取船母艦の設計である。


普段ならすぐに取り掛かるところだが、いまは状況が違った。

なにせ共通船体計画のコンペディションは1か月後、なんとしても間に合わせなくてはならない。

そこで人員要請を行い、補充人員が届いたが……なんと任官したばかりのひよっこばかりであった。

今現在、教育に割く時間も人的資源もない。

そこでオガタという憎たらしい人材にヘルプを出したわけである。

斯くして、オガタは月面基地に着いたのであった。


「ゼニガタ中佐、引き続き護衛任務を頼む。ニア准尉とパイロット組は月面基地にて待機。待機中も訓練を実施せよ」


「ゼニガタ中佐、以下7名はこれより陸上護衛を実施します」


「ニア准尉、命令を受領しました」


2名は答礼して各自の仕事に入る。

護衛隊は防弾スーツを脱ぎ、武装を74式短機関銃から62式機関拳銃に切り替え、右大腿部のホルスターに納めている。腰の弾帯に白兵戦用に74式銃剣とマガジンポーチを付けていた。

ニアは先の作戦での活躍で准尉の階級に昇進していた。地球時間で19歳、実時間では18歳になったばかりだ。だが、彼女は准尉としての仕事を全うしていた。

彼女は先輩ばかりが部下ばかりだが上手くまとめているのが指示の出し方や、部下の返事の小気味良さから伝わっていた。


「さて、いっちょやってやるか」


簡単な命令下達を終え、オガタは月面基地に入ったのであった。


月面基地設計部の室内には怒号が飛んでいた。


「ラサール! また入力ミスしてるぞ!いい加減にしろ!!」


「すみません。すみません。すみません」


「ズヴェーレヴァ君。なんだこの設計は? やり直せ!」


「申し訳ございません」


「ハインケル! 貴様またさぼっておったな!?」


「サボりなって滅相もない。手洗いにいってただけです」


「1時間もトイレか? 長すぎるだろ!」


まさに混沌とした状態だった。

新人教育の経験が皆無に等しい部署。それも現在進行形の修羅場の最中にいきなり新人を放り込めば、最早地獄である。これほどまでに忙しくなければ教育に割く時間くらいは作れるだろうが、現状ではそれを望むのは酷である。

この問題に拍車を掛けるのは教育を知らない人間。いわば現場で叩きあげられてきた人間達は、叱責するばかりで手本を示さない。山本五十六が残した至言は千年以上経った現在においても、いまだ達成されていない現場があるようだ。


「……ゴホン!」


オガタはわざとらしい咳払い一つするが、誰も気づかない。


「ゴホン、ゴホン!ゴ~ッホン!!」


大きな咳払いを何度もするが、やはり誰も気づかない。

そのため、腰からとある鉄塊を抜いてシリンダーを外した。6つ空いた穴の一つに金属筒をはめ込み、シリンダーを戻し、撃鉄を下した。


「じゅ、准将……?」


「オガタ准将、なにをするつもりで?」


天羽とゼニガタはなにをやるか理解していた。だが、彼らの常識はそれを否定する。

さすがにそこまで非常識な人間でないだろう、と。


だが、オガタは非常識な人間であった。



バァーン!!



銃口は天井に向けられ、大きな銃声が室内に響き、全員が沈黙しオガタに注目した。


「貴様ら! 上官侮辱罪で軍事法廷に送られたいのか!?」


オガタが激昂し咆えたことで、ほとんどの同行者はどうにか意識を取り戻していた。


「オ、オガタ准将なにやっとるのですか」


ゼニガタは口を開けつつ、オガタに尋ねる。


「なに、空砲で静かにしてやっただけだ」


「やりすぎです」


ゼニガタに突っ込まれるが、本人は馬耳東風といった様子でホルスターに拳銃を仕舞った。

天羽に至っては放心状態であった。

空砲でようやく気付いたでっぷりと太った男が、小走りで寄ってきた。


「これはこれはオガタ准将。お待ちしておりました」


「久しぶりですね、ベルガー技術大佐。で、この惨状のご説明いただけますか?」


旧知の仲である一方、オガタにとって因縁の相手であるベルガー技術大佐であった。

この男パワハラ、セクハラは当たり前である一方で、上層部に取り入るのが上手くなぜか技術大佐まで昇進している。


「惨状だなんて人聞きが悪い。ちょっと立て込んでるだけですよ」


「ちょっと、ですか……これがね……まぁいいでしょう。それよりも教育指導を頼まれてきたわけですが、新人というのは何名ほどでしょうか」


挨拶もそこそこに本題へと入る。

オガタはあまり長くこのベルガーと話したくない様子だった。


「え~っと、6名です。イワノフ。リュウ。ハインケル。ズヴェーレヴァ。チセケディ。ラサール。来なさい」


呼ばれてやってきたのは、まだ10代後半から20台前半といった若者ばかりであり、階級はどれも基本過程を終えたばかりの一等兵であった。

彼らは一列に並ぶとオガタに対し敬礼を行い、オガタも答礼した。


「では彼らを預からせていただきます。ついでに開発公社からの依頼はこっちで預からせてもらいます」


「教育さえしてもらえればそれで……」


ベルガーが言わんとすることはオガタも理解していた。


「安心してください。設計は彼らにしてもらいます。何、細部の細かいところは私が見ますが、基本設計は設計部の職員が行いますから」


「オガタ准将も悪いお人だ。それならよろしくお願いします」


「はい。お任せください」


お互いが満面の笑みで握手を交わす中、いつやらか意識を取り戻していた天羽がそれを「悪魔とタヌキが握手してる……」と呟いたのを聞いて、ゼニガタは笑いを堪えるのに必死だった。


「第3設計室をお借りしますよ」


「いいですとも」


「では若人諸君。付いてきてくれ」


勝手知ったる古巣で、オガタは第三設計室に向かって歩き出したのだった。

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