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第50隻目 月面にてとある人と会う!

3月21日 20:51にて総合評価ポイントが5555というぞろ目でした(特に意味はない)

とても嬉しかったです。

今後もお読みいただければ幸いです。


※本作品はフィクションであり、実在する団体・個人とは一切関係ありません。

太陽系第三惑星地球衛星「月」

地球から最も近い天体であり、人類創生以来、長きにわたって人類との密接な関係にある衛星である。

月の誕生は諸説あるが、宇宙歴12世紀も終わりに近づく現代でも未だはっきりとしたことは分かっていない。

一つ目は、巨大な他天体が地球に衝突した際に巻き上げられた星屑が、地球周回軌道上に集積してできたという巨大衝突説。次に小さな複数の天体が地球に衝突して巻き上げられた星屑が集積したという、複数衝突説。現在は否定的な証拠が出ている地球衛星2個説。これは月が2個あったが、一つは地球に落下したという説だ。

と、月の誕生だけでもたくさんの話があるが、それ以上に人類の営みにおいては月の満ち欠けが重用された。

月の満ち欠けは29.5日周期で変化するため、これを元にした暦(太陰暦)が広く永い間使われた。月の満ち欠けにより潮の干満を予測する漁師は特によく利用した。農耕においても種蒔きの時期を予測するなど、人類の発展は月があってこそだ。

また世界中の複数神が登場する神話の多くでは「月」の神が登場することが多い。日本神話における月読命。ヒンドゥー教のチャンドラ。ギリシア神話のアルテミスにヘカテー。ケルト神話のアリアンロッドなどなど、枚挙に暇がないほど、数多くの神々が登場する。

と、このように古来から人類は月に対し神聖なイメージを持ちつつも、月の特徴を利用して生活に役立ててきた。

時代は流れ文明が発展し、旧支配者たちを纏めて隔離する格好の場所として月が選ばれた。

第三次世界大戦の数年前ごろからに各国の象徴として旧支配者層であった旧王族が王族へと復権したが、第三次世界大戦終結後、戦争の罪を象徴として担ぎ出したはずの王族に擦り付け月へと追いやったのである。

月は人類にとって畏敬と畏怖、憎しみの象徴となる場所となった。


だが、それは最早1000年以上も昔の話であり、現代の人類にとって月は尊敬と敬意を一身に受ける地となっている。


その月にある宮殿。「月宮殿」内にある「日本皇族御所」の門を、天羽とオガタは潜った。

護衛であるニア率いるゲイ・ボルグ隊は月面基地へ。ゼニガタ等は月宮殿前に駐機してある連絡機の中で待機していた。

門を潜った先に有ったのは言葉通りの別世界。月にあるとは思えない、完璧な日本庭園と古き懐かしい日本家屋がオガタの目に映った。


「懐かしいな……」


百数十年ぶりに見る、日本の姿がそこにあった。

鹿脅しがいい音で響き、庭園の松の曲がり具合から岩の配置に至るまで計算尽くされた侘寂。

池の中には鯉が泳ぎ、桜の花びらが水面にひらりと舞って落ちる様は、風流の言葉に尽きた。

平屋作りだが立派な造りの家屋の屋根には瓦が敷かれ、鬼瓦は獅子の顔。


「よくぞお出で下さいました」


オガタが見惚れている間に現れた男が声をかける。

汚れた作業着に手には剪定鋏、右肩には三脚脚立という見るからに庭師の男であった。


「これは失礼を。帝国宇宙軍独立使節艦隊司令オガタ准将です。突然のご訪問、申し訳ありません」


オガタは礼節を正し、しっかりと自己紹介をした。


「畏まらなくて大丈夫ですよ。それよりも庭園の良さがわかるようですな」


男は名乗り返さず、ニコニコとした様子である。


「はい。これは実に素晴らしい。まるでタイムスリップしたような気分になります。松の枝の這わせ方が絶妙ですな。ツツジの手入れも素晴らしい。手を抜かず、花が咲き終わった直後に刈られたのでしょう。なによりも全体のバランスがいいです。右手には背の高い木と苔むした岩で山をイメージし、左手には桜を望む池と低木で平地、池の手前の枯山水で海をイメージされている。実に見事です」


興奮気味に矢継ぎ早に話すオガタの返答に、男は満面の笑みで喜びを表す。


「それは嬉しいですな。手入れの甲斐があります。それと、天羽さん、おかえりなさい」


「まるでついでのように言われるのは心外であります。ただいまです」


「健勝にしていましたか?」


「父上こそまたこんなに服を汚されて、あとで母上に叱られますよ」


(ん?父上? 母上に叱られる? ん??)


この時、オガタの脳は一時混乱し、間もなく一つの解答を得た。


(庭師……と思っていた人が、今上天皇!!?)


「改めて、ようこそいらっしゃいました。オガタ准将。娘がいつも世話になっております」


「と、とんでもありません。天羽士官候補生は大変優秀でして、世話などする必要がない逸材でして」


言葉に詰まりつつも、頭を下げる。その間にも脳をフル回転させていた。

例に漏れず、仕事以外の突然の出来事に対しては、かなり弱いこの男は、今までの言動に不備がないか。そもそもこのような事態をなぜ想定できなかったのか。などなど、自責の念が渦巻いていた。

天羽との出会いも含め、不意打ち的にされるファーストコンタクトは、今上天皇その人のDNAを色濃く受け継いでいる証左だ。


「して、ここで立ち話というわけにもいきませんね。どうぞ中に」


「は、はい」


オガタが緊張しているのを尻目に天羽はしたり顔で玄関に入っていった。


「ただいま帰りました」


天羽が言いつつ玄関で靴を脱ぐ間に、オガタの額にはいくつもの汗が浮かぶ。

オガタも靴を脱ぎ、膝をついて揃えて下駄箱の反対側の位置に置く。

これもまたオガタにとって百数十年ぶりの礼儀作法であった。

和室に通されたのはいいものの、椅子ではなく座布団。これもまた百数十年ぶりである。さらには上座と下座という日本伝統かつ形骸化した礼儀作法に倣って、オガタは下座に座った。

百数十年ぶりの正座で、待つこと数分と経たないうちに足が痺れ始めたので、オガタは痛みなどの信号を意図的に遮断することで痺れを感じなくした。


「准将。もしかして緊張されてますか?」


「……あぁ。まさか、こういう形で今上陛下とお会いすることになるとはな」


苦虫を噛みつぶしたような表情でいいつつ、今上天皇が来るのを待っていた。

襖の向こうから「あなた。天羽が帰ってくるっていったじゃありませんか。それなのになぜ庭仕事やるのですか」「オガタ准将を少し驚かしたかっただけですよ」などと今上天皇と皇后の会話が聞こえてくるが、オガタは聞かなかったことにした。


「……あのような父上でして、申し訳ありません」


「謝るようなことでもない。き、きにしないように」


その時、襖が開き今上天皇が着流し姿で現れる。


「お待たせしました」


そういいつつ席に着くと、すぐに侍従が茶と茶菓子を配って部屋を出た。

茶は玄米茶。茶菓子は黒糖饅頭であった。


「オガタ准将閣下。活躍のほどは耳にしております」


「恐縮です」


まずは社交辞令。


「ま、お茶でもお飲みください」


「いただきます」


促されて茶に口を付ける。


「ところで娘とはどういう関係ですか?」


「!!」


ここでいきなりのボディーブロー。

茶を噴き出さなかったのは、オガタだからこそなせた業だろう。

だが、無理に堪えたために肺に掛かった負荷はなかなかに大きく、肋骨の一本にヒビが生じるほどだ。激痛を覚えたはずだったが、痛みの感覚を遮断しているために気付かなかったのは不幸中の幸いだった。


「それはですね、えー……」


さすがに言葉がでてこず、オガタも言葉を濁した。


「私と准将はお付き合いしています。私から告白しました」


助け船ならぬ止めの一発を天羽は打込んだ。


「なるほど……天羽からか……。准将」


「は、はい」


オガタは上ずった声で返事をする。

最早緊張も頂点だ。


「娘のことを、頼みました。天羽には過大な責を負わせたのは、私の責任です。彼女を一人の人として、教え導いてください」


慈愛に満ちた言葉は、オガタの胸にすーっと入っていった。

娘のことを思うただ一人の父親としての言葉に、オガタは腹をくくった。


「はい。必ずや彼女を幸せにしてみせます」


オガタは座布団から降り、手をついて頭を下げた。

鹿威しが、和室に響いた。





その後、ざっくばらんな話となり、どういうわけか最後には「マサちゃん(マサヒサ・オガタだから)」「ゲンちゃん(源久だから)」と呼び合う仲になったわけだが、公式記録にはないため、詳細はわからない。


かくして、オガタは月面基地に向かったのだが、機中にて感覚を戻したところ、足からはすさまじい痺れ、そして胸部に激痛を感じ、即リジェネレータ処置が施されたのであった。

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