第49隻目 准将は月に行く!
なんか急に評価増えててビックリ(;゜Д゜)しました。
……でもマイペースにいきますので、あしからず。
5000pt超えました。ありがとうございます
既存の宇宙戦闘艦の欠点とは欠点を克服せんがために、全方位戦闘を主軸に据えた設計であることそのものだ。
特にエクセリオンシリーズの戦艦は個艦優越主義を通り越し、単艦至上主義。一隻の艦艇であまりにも多くのことを為そうとした結果、正面戦闘能力の不足という自体に陥った。
大国同士の艦隊決戦ともなればそれは最早、古代戦争における戦列歩兵の形相となる。
もちろん迂回攻撃、奇襲、敵旗艦への強襲などの戦術もあるが、基本は敵の陣形をどう崩すのかが要点となる。
ライラバル星系連合との戦争も、本来ならばその形相を呈すはずだった。だがそれも戦力差を艦隊密度を上げることで対応しようとしたライラバル艦隊が、エクセリオンが照射したZ線砲により壊滅したことにより発生しなかった。
一方で、100年前の大マゼラン戦争時には幾度も会戦が開かれ。第2次大マゼラン会戦では地球帝国艦隊30万隻と大マゼラン共和国艦隊40万隻が相対した。
双方の睨み合いは現地時間において2週間(地球時間で1月)という長期間である。
この睨み合いが長期化した原因こそが互いに正面戦闘能力の不足であった。
第二次会戦そのものは痛み分けであったが、教訓を生かし第3次大マゼラン会戦においては、地球帝国側が勝利を収める。正面戦闘能力を向上させるために、砲塔型レーザー砲を導入した新鋭戦艦を配備することで解決した。
現在はこの時と全く同じ状況に陥っている。
エクセリオンシリーズもロングエクセリオンやジェミニエクセリオンこそ砲塔型レーザーを導入しているが、全方位戦闘を可能にするために垂直発射式レーザーを装備しているために火力は低い。
数に勝るグンタイアリにおいて、敵陣に切り込むような戦術であればこれは間違いではなかった。
巡洋艦級のグンタイアリであれば試験艦型エクセリオンの垂直発射式8mレーザーでも十分に通用したためだ。
だが、無傷の戦艦級に対してはなしの礫ほども効果を認めなかったのも事実だ。
ロングエクセリオンなどに装備される12m級の垂直照射式レーザーでも火力不足が否めない。
さらにいえばアンドロメダ帝国であれば、艦の性能とその戦術ドクトリンからも切込み戦法は無謀に近いという分析結果もでている。
よって、艦隊決戦型の戦闘艦の再配備が必要と判断され、オガタはその要望に応える設計書を帝国宇宙軍艦艇開発研究所を通し、参謀本部に提出した。
艦隊決戦型戦艦「富岳」
全長5,300m 全幅14,800m 全高1,870m 排水量52,000,800t
動力源 縮退炉2基(主機) 常温核融合炉1基(補機)
推進方式 純エネルギー反作用推進方式
武装関連 背負砲塔式3連装22口径20m級対艦レーザー砲(90基) 正面固定式30m級対艦レーザー砲(150門) 垂直発射式誘導弾発射装置(8000セル 対空ミサイル各種、対艦ミサイル) 203㎜連装高角レーザー砲(200基) 127㎜連装高射レーザー砲(400基)
装甲 エクセリニウム合金及び衝撃探知式柔化緩衝材の複合装甲(艦正面部合金25m、緩衝材2m 3重船殻。他 合金18m、緩衝材2m 3重船殻)
対物・対光学電磁フィールド 数学的事象変動域形成フィールド 電子対抗装置(レーダー探知妨害装置、電子攻撃妨害装置)
電算装置 82式量子電算機「ミネルバの梟」1基
索敵関連 JA/MAIMO-9B(JA/MAIMO-9Aの廉価版 多目的・戦闘レーダー)
機動兵器 ゲイ・ボルグ(100機)
最低乗務員 1000名(機動兵器パイロット及び整備員含む) 実用乗務員数 3000名
予想建造価格 13億アース(年3000隻以上の量産により達成)
逆翼型全翼船体を採用。後退角と逆翼形状による傾斜で傾斜装甲となり、被害低下を図る。
逆翼とすることで艦正面に対し広い傾斜面を確保し、主砲である3連装20mレーザー砲を効果的に配置。
ジェミニエクセリオンなどと同じ武装を使用することや、高価な電子系装備を排除し電算機も1基とすることで製造コストを削減。
開発中の新指揮システムはアマテラスシステムの発展型としており、これまではあくまでも相互補完に務めていた戦闘共有システムから、僚艦を完全に統制下に入れることとする。現計画ではジェミニエクセリオン1隻で本艦隊決戦型戦艦15隻(一個小隊艦隊)を統制可能としている。
上記システムと自律思考型ロボットを多用することで、大幅な人員削減を達成する。
艦隊決戦時には損耗多数が予測されるため、人命重視の観点から艦尾に設けた指揮所が救命船として分離可能(再利用可能)。
「アーセナルシップ構想と随伴ドローン計画の合いの子って感じになっちまったな」
人工知能を載せてしまえば手っ取り早いわけだが、人工知能暴走事件が歴史上実際に発生し、国を挙げて恒久的に人工知能の利用を禁止している。
無尽蔵に成長を続けていく人口知能は、人間の手に余る代物であることは歴史が証明している。
デスクワークをこなしつつ、オガタはぼんやりとそのことを考えていた。
「准将、そろそろ……」
「あぁ、そうだったな」
オガタは席を立ち、歩き始めた。
本来の人事的には砲雷戦長レルゲン中佐か機関長であるチョウ中佐がエクセリオンの副長であるはずだったが、両名とも副長職は辞退しており、つい最近までサイジョウが若輩ながら副長職に就いていた。だがそのサイジョウが地球に降りたため、レルゲン中佐が副長を代行していた。
レルゲンやチョウが副長職を辞退していたのは各部署のプロフェッショナルという自負と、誇りによるものだった。というのが建前であり、当時のサイジョウの乙女心をかなり忖度したことは、公然の秘密であった。
そんな彼も自分よりも若いオガタの下で副長をやることには抵抗はなく、仕事もサイジョウと同等程度にはこなしていた。
「では、若造どもに説教してやるか」
艦内謹慎終わったオガタに届いた次の仕事は地球帝国宇宙軍月面基地艦艇・技術開発部において、1週間ほど若手への教育を施してほしいという物だった。
忙しくて手が回らない。だから増員要求したら、新人や若手だけを増やされて、もはや手の施しようがないという状況だそうだ。
そのために手隙かつ技術将校から准将にまでスピード出世したオガタならば、適任という判断であった。
「准将の説教ですか、いやー恐ろしい」
「何か勘違いしているのか?」
レルゲンの返答にオガタは反応した。
「説教とは教えを説くこと。つまりは、わかりやすく説明してやることだ。叱ることや、怒ることとは真逆だぞ。貴官も肝に銘じておけ」
「は、はい!」
(これがまだ30後半の男の言葉か?)
オガタの過去を知らないレルゲンからすれば、困惑するのは無理もない。
実際の所、レルゲンは今年で五十路に突入するわけだが、オガタはその悠に4倍以上もの蓄積された知識と経験を記憶している。含蓄に富んだ返答も、オガタからすれば普通なのだ。
「2番連絡艇で出るよう準備しております」
「1番は?」
「……若手の整備士が整備ミスをしたため、使用不能です」
「ズムウォルト中尉には部下を責めないように伝えておけ。彼は整備のことになると感情的すぎる」
「はい、わかりました。それと今回の月面本部への移動ですが、操縦士はヴォルティース曹長。機長にはヴェルディン准尉。護衛はニア准尉率いる一個小隊です」
「たかだか20分ほどの移動に護衛か?」
「ここ数日前から高級将校を狙ったテロ事件が発生していますので」
「まだテロリズムが跋扈するか。わかった、護衛は了承しよう」
副長クラスが有能なのは非常にありがたいところだが、独断専行する節がある。誰に似たのやらと嘆息するオガタだった。
そんな彼らの後ろを追従して歩く一人の少女がいた。
「彼女も帯同するのですか?」
「現状は士官候補生だが……教育すべきことはもう全部吸収してしまってな。やらせることがないから副官業務をしてもらってる」
「天羽候補生は優秀でしたからね。私も砲雷戦のイロハは全て教えられたと思っています」
「貴官の砲雷戦だけでなく、機関や航海回りの知識と技能も吸収してしまったようだ。実に優秀な士官候補生だ」
「平時の士官教育なら間違いなく首席でしょうね」
「あぁ、それも軍始まって以来の天才だったろうな」
最早親馬鹿に近い褒め方をする二人に、嬉し恥ずかしさで天羽は顔を赤くする。
だが、二人の言うことは尤もで、成績だけみれば最高得点である。
「さて、着いたようだな」
2番格納庫、2番連絡艇が発信準備万端の状態で駐機してあった。
「レルゲン中佐、一週間ほどだがエクセリオンを頼んだ」
「はい」
小気味のいい返事を返して、レルゲンは踵を返し艦橋へと向かって行った。
変わりにゼニガタ少佐が数名の部下を連れてやってきた。
肩から垂れる負い紐には74式短機関銃。防弾スーツの腹面には74式銃剣とマガジンポーチが装備されている。艦艇の狭い内部での非常に短い交戦距離を鑑みた結果、かなり近接戦に特化した装備。だが、その防弾スーツの腕部には40㎜グレネードの発射機構、バックパック内には66式特殊小銃(9.2×53㎜)とマガジンが収められている。
いわゆるフル武装であった。
「ゼニガタ少佐以下7名はオガタ准将の警護任務に就きます」
「ご苦労、1週間よろしく頼む」
「承知しました!」
この警備、准将がメインといいつつも、その実は天羽の警備がメインだった。
士官候補生なれど、皇太子を退任したといえ皇族なれば警備は厳重である。エクセリオン内では常に2名が警備あたっている。オガタもそのあたりは理解していた。
「さてさて、行くとするか。天羽候補生からすれば里帰りかな」
「里帰り……確かに、里帰りでありますね。弟にも早く会いたいものです」
士官候補生となって天羽がエクセリオンに乗艦して、彼女の感覚ではまだ半年ほどしか経っていないが、地球時間では1年と4カ月の歳月が経っていた。
とはいえ多感な十代後半の彼女にとって半年とは非常に長い時間だ。
「今日は少しばかり時間がある。行ってくるといい」
「よろしいのでありますか?」
「君にはまともに休暇を与えられなかったからな」
「准将、それなら先に月宮殿に向かっていただけませんか?」
「え? あ、まぁそれでいいだろう。宮内省にすぐ確認を取れ。不審機として撃ち落されたらシャレにならない」
「それなら私から通しておきます。これでも皇族なので」
天羽はそういうと腕時計型のマルチデバイスから通信を始めた。
「ご無沙汰しております……はい。それは良くして頂いております……心配しないでください」
指向性スピーカーのため誰と話しているかはわからなかったが、オガタは変わりに月面基地帝国宇宙軍本部に、着陸時間の変更を申請する。
「それで合わせたい殿方がいるのですが…………その通りです。父上となら仲良くなれますわ」
(ん? いま父上とか言わなかったか? それに合わせたい殿方?)
「はい。では今から向かいますので、機体コードを送ります。それと准将閣下の護衛として機動兵器や、警務隊の方々も居られます。宮内省には釘を刺しておいてください。…………はい。よろしくお願いします」
「……天羽君。一体だれと話をしていたのかな?」
「誰って、父上。今上天皇ですが」
「……マジか」
心の準備も何もできないまま、オガタは月宮殿へと向かうことになった。