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第48隻目 地球帝国宇宙軍中小戦闘艦・補助艦艇更新計画

地球帝国宇宙軍中小戦闘艦・補助艦艇更新計画

オペレーション・アーミーアントディストラクションより得たグンタイアリの艦艇構成、及び諸元より現状の建造計画では膨大な隻数を誇るグンタイアリには対処困難である。そのため、廃止された艦種群を復活させることを目的とする。

エクセリオン級戦艦(現エクセリオン級重巡洋艦 略称江級)、ロングエクセリオン級戦艦(長江)、ジェミニエクセリオン級戦艦(旧略式名称超江、現略式名称双江)など超大型戦艦群の建造計画が進む中で、敵性勢力の戦力配分との兼ね合いより超大型戦艦のみでは費用対効果に薄く、特に&国を刺激しする可能性が高いため、中小艦艇。即ち巡洋艦や駆逐艦相当の艦艇の枠を復活させ、費用対効果を高めることとする。

また中小艦艇では補給の面では上記超大型戦艦に比べ不足であり継戦能力の上昇の観点から、本計画では中小艦艇への補給、ならびに乗務員への休養施設の提供など超長期化する宇宙滞在の問題を克服する給養艦。帰港なしの連続戦闘を可能にするための工作艦、病院艦の建造を計画する。

巡洋艦及び駆逐艦の設計は概ねエクセリオン級の縮小版とする。

一方で、給養艦、工作艦、病院艦は新規設計の計画とする。全長1.0㎞~2.0㎞内。建造費1000万アース内に納めるべし。


送られてきた簡易命令文を一読して、片手で頭をかきつつ片手でコーヒーの入ったカップを傾ける男は、コーヒーを飲んで大きくため息を吐いた。

決してコーヒーが不味いからではない。いや、事実不味いのだが、それが原因ではない。

デスクワークの手伝いをしていた天羽もコーヒーを一啜りして顔をしかめて見せた。そしてコーヒーが不味いことにオガタが怒っているのだと勘違いし、少しばかり怯える。なにせこのコーヒーはこの間の一見もあり、初めて自分が淹れてみたコーヒーだったのだ。

さすがに焙煎までは無理だが、配合までは考えた。ブレンドも専門店のものだ。だが、ドリップが大失敗だった。

もう一度そのコーヒーを飲んで、やっぱり不味いので一気に飲み干した。


(不味い。これは不味い!)


オガタが苛立つことといえば、コーヒーが不味い時とタバコが吸えない時と無能な部下を見つけた時。

このうち二つ満たすこの状況は、天羽にとってとても重大な事案である、


(どうしたらいい。挽回の機会はどこに…!?)


戦々恐々とする中、オガタはコーヒーをもう一啜りしてため息を一つ吐いた。


「またお上は好き勝手してやがる」


そういって横に長い正面戦闘特化型の艦隊決戦型戦艦と読んでいた設計データを開いた。


(上層部……いや、あいつか。好き勝手しやがって、今度こそ灸を据えてやる)


オガタが怒りに任せてコーヒーをそのままグイっと飲み干したのを見て、天羽はすかさず好機を見出した。


「御替わりをどうぞ」


間髪挟まぬ御替わりを注ぐ。


「お口に合ったようで何よりです」

(有無を言わさない。これで准将が私に怒ることなどは無くなる。いや、怒ることは出来なくなる!)


「……まぁ、そうだ。うまい」

(なんてことだ!? このコーヒーを悠長に飲みたくないから飲み干したのに! 気が利くのはいいが、これでは拷問に近い!!)


壮絶な勘違いを両者がする中、部屋の扉が突然開いた。


「戒厳令下ならなんでもありですわね」


ブロンドのポニーテールを撫でつつ入室したミッシェルは、この計画の意図を既に読み解いていた。


「艦隊決戦のための補給、給養、病院……そして准将が設計されている艦隊決戦型戦艦のために必要。というわけですわね」


「どこからつっこんでいいのやら……。ミッシェル大尉。いや今は少佐か」


ノックもなしに入室というのは如何せん問題があるが、それ以上にどこから聞いたやら極秘情報を既に言知っているあたりが、彼女である。

それよりも、彼女の襟元に輝く真新しい少佐の階級章が目を引いた。

胸元には白金突撃鳳凰章なる、()()()()()()()に新たに作られた勲章をぶら下げていた。

只一人の軍人が為した戦果としては、大マゼラン戦争時のエースパイロットが残した「敵戦艦3隻撃沈、7隻大破、巡洋艦3隻大破」という偉業すらも霞んでしまう大戦果である。

データには「駆逐艦1032隻、巡洋艦206隻、戦艦104隻轟沈(自爆含む)。駆逐艦1万以上、巡洋艦5000以上、戦艦3000以上大破・中破」と残されている。

この戦果と彼女の奇跡的な復活により、いまや帝国宇宙軍のなかでは知らぬものは居らずプロパガンダに担ぎ出そうとされる始末だった。

そんな彼女は、全身義体より生身の肉体に電脳を移していた。

言いようのない違和感を覚え、オガタはミッシェルをしげしげと眺める。


「…………」


「や、やめてくださいまし。そんなねっとりとした視線を浴びせられたら、またストーカーしそうになりますわ」


顔を赤らめて言うが、その目は茶目っ気たっぷりな様子である。

オガタからすればそんな意図はない。ただ違和感の正体がわかった。

若干ながら肌が透き通り20代前半の肌艶と細かなしわがなくなり、さらには胸部の厚みが増しているのだ。


(……リジェネレータで、か。違法だったはずだが、大目に見よう。眼福がん)……うぇっ!?」


オガタが沈黙してじっと見ていたら突然顎を何者かが掴み、頭を逆方向に向ける。

そこには目の前に鼻と鼻が触れるほど近い距離で、ほっぺを膨らませた天羽の顔があった。


「准将、あとでお話しがあります」


「はい……」


怒った顔を愛おしいと思いつつも、オガタは咳払い一つして本題に入る。


「この巡洋艦や駆逐艦は確かに、有効だ。建造費やランニングコストなどのコストパフォーマンスも戦艦ばかりに比べたら随分と良いだろう。そしてそのための補助艦といえば、隠れ蓑としては最適だろうな」


「艦内部深くまで武装ばかりで定員がたったの2000人。本当に准将らしくない設計ですこと」


「それは自分も同意見であります。この定数ですと、艦の操作もおぼつきません」


「諸君。なにか勘違いしていないかね」


もったいぶった言いぶりに、二人はキョトンとした。


「アーセナルシップ構想。これがこの艦の建造構想だ」


「「アーセナルシップ構想?」」


二人が同時に口にした「アーセナルシップ構想」とはグレゴリオ暦1988年にアメリカの退役中将による独自論文から始まった新たな艦艇だ。

レーダーや指揮システム、火器管制システムなどの建造費の嵩む装備を排し、それら操作に必要な人員と予算を減らす代わりに、甲板を覆い尽くすほどの大量のVLSで対地攻撃や対艦飽和攻撃などを実施することを前提とした艦艇だ。

結局のところは「それなら空母でよくね?」とか、「だったら全部の艦艇に対地攻撃とか飽和攻撃できるようにVLS増やそう」とか「この1隻が沈められたら数隻の駆逐艦分のミサイルも沈むから、リスクヘッジの観点から反対」など、多数の反対意見とこの計画を推進していた人物の自殺により、この計画は失敗した。

だが、全長10㎞近い巨艦犇くこの宇宙では既にそれら観点は無視しうるものであり、実際に幾度も計画は浮上していた。しかし自動化の限界により最低人員が底打ちとなり、閉塞した宇宙での乗組員の疲労などを鑑みた結果、少人数での大型艦の運用は困難であり、戦闘や事故により艦隊とはぐれた場合には広い宇宙で立ち往生する。など、各諸問題を解決できなかった。


「様々な諸問題を解決するには、ミッシェル。君のハッカーとしての腕を見込んで、アマテラス戦闘システムを上回る新しい指揮システムを構築してほしい」


「わ、私がですわ!?」


白羽の矢がたった彼女だが、その目には悲壮感が漂う。

プログラミングは確かに彼女の専売特許だが、一からアマテラスを上回る指揮システムの構築など、さすがの彼女にも荷が勝ちすぎる。


「あぁ、君しかいない。白金突撃鳳凰章の君にしかできない」


「そ、それなら予算が必要ですわ。ちゃんとしたプログラミング用の部屋も……」


断るための逃げ口上。

平時においては無駄にハイスペックな電脳をフル稼働させる。


「それならもう用意してある。喜べ、首都星地球の日本。それも帝都トウキョウの参謀本部にある高度情報処理演算室だ。君のために82式電算機が2つほど用意してある」


逃げ場を既に塞がれていることに気付いた彼女は、顔を青ざめさせる。

ならば二手目をうつ。


「せめて優秀なスタッフを」


「問題ない。江計画からやっている仲じゃないか。サイジョウを始めとしたプログラミング部門とティラ技術中尉のエミュレータ部門。それに技術部のプログラミング班から数十名ほど選りすぐりを用意してやる」


「……でしたら副官、そう副官が欲しいですわ! 私がプログラムに専念するために、身の回りの世話から雑務に……あとは、そうイケメンで家柄も良くて高学歴で、紅茶を淹れるのが上手な人がいいですわ!」


もはや断るために無理難題を言っているが、オガタには一人心当たりがあった。


「要求はそれだけかね?」


「え? ま、まぁそんな人間、宇宙広しとはいえ、いるはずがございませんしょうけど」


「よし、わかった。一人心当たりがある。紅茶を淹れるのが上手いかしらんが、鍛えてから引き渡す」


「じゅ、准将。ご冗談ですわよね?」


「自分でも言ったじゃないか、宇宙は広い。ってな」


口をパクパクさせるミッシェルの肩を、天羽は優しく叩いてこういった。


「大丈夫です。頭がオーバーヒートしてもすぐ復活できるよう、最先端のリジェネレータを入れておくよう進言しておきますから」


助け船ではなく止めだった。


後日、ミッシェルには正式な辞令が交付され、サイジョウとシュナイツァーを含めた総勢300名の人員が地球に降り立ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 既存の軍隊、もしくは空想上の宇宙艦隊をもとにしてバックグラウンドを形成しており、いわゆるオタクには細かいデータ説明がなくても読みやすく、SF作品の中では純粋にストーリーを楽しみやすいです。…
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