第47隻目 建造合戦の火種!
「謎の大艦隊」。銀河間連合公称「グンタイアリ」を駆除するオペレーション・アーミーアントディストラクションの帰還から約2月後、各国艦隊では、次期主力艦の導入計画が本格化した。
連合に新たに加わった地球帝国艦隊のエクセリオン艦隊の損耗は沈没が約100隻、大破による自沈処置を含めても全体の2割にあたる192隻程度。それに対しラーゼンバーグやオリンポス、ブリジット艦隊の損耗は全体の約6割。軍事的にいえば「壊滅」にあたる。ただ、この損耗すらもエクセリオン艦隊が魁殿を務めたことで攻撃が逸れた結果であり、実質「殲滅」されたといって過言ではない。
この結果、各国艦隊は損耗率がエクセリオン艦隊に次いで低かったアイレンバーゼンが次期銀河間連合標準型戦艦と銘打った戦艦を導入するか、地球帝国宇宙軍のエクセリオン戦艦(既に地球帝国では重巡洋艦に格下げされている)を導入するかという二択。もしくは、自国で同等の戦艦を新規設計し建造するかという3択に迫られる状況となる。
オペレーション・アーミーアントディストラクションが成功したにも関わらず、なぜ急いでまで軍の再建を、増強を行うのか。
これには2つの理由がある。
時は少し遡り、オガタが天羽らに自分の前々世の話をして3週間後のことである。
「鹵獲したグンタイアリの駆逐艦からの分析結果、並びに私がハッキングを行い拾得した有益情報の報告をいたしますわ」
ブロンドのポニーテールを肩に垂れさせ、女性士官用制服のスカートからのぞく脚には艶やかな黒ストッキングが覆う……ミッシェル大尉である。
彼女が動くたびに微かに駆動音がした。
彼女の意識が回復したのは2週間前。
本来ならリジェネレータ処置により全身の機能は十全に回復しているはずだったが、彼女は五体を満足に動かすことができなかった。
これは脳の錯覚ともいうべき現象であり、彼女の脳自体は電脳化されていたため無傷であったが、熱暴走により生身の人体が「死んだ」と脳が誤認したために起きた。
身体を欠損した人がないはずの腕や足が痛いと感じる「幻痛」と似たような状態である。
そこで一時しのぎであるが、脳を機械の肉体(全身義体)に移し、生の肉体をコールドスリープさせる特例措置が取られた。体が動くこと、生きていることを脳に再認識させるためである。
その結果が、今の彼女であった。
そして彼女を待たなくてはならなかったのは、彼女自身しか知り得なかった謎の大艦隊、現グンタイアリの全容の報告を聞くためであった。
「病み上がりなのにすまない」
「お気になさらないでくださいませ。それよりもこちらをご覧になって」
挨拶もそこそこにホログラフィックディスプレイに局部銀河群が写し出され、サブディスプレイに各銀河・伴銀河のいくつかが映し出された。
「……これはやつらの巣の情報か?」
「はい。どうやら複数のコロニーを形成しているようですわ。私たちが叩いたのはその一つに過ぎませんわ」
「いくつある?」
「大マゼラン銀河に小規模なものが1つ。小マゼラン内にも小規模なものが一つ。三角座銀河に中規模コロニーが1つありますわ。そしてアンドロメダ銀河には大規模なものが一つ。他にもごく小規模なものが数十個ございますわ。……私達が戦ったのは、おそらくですがアンドロメダ銀河の大規模コロニーから分裂した小規模コロニーに過ぎませんわね」
「あれで、小規模だと?」
「はい。計算上大規模コロニーは500万以上の集団です。今回のは約100万程度ですので、中規模に近い小規模とみなせますわ」
「ともすればBL爆弾だけに頼ると、宇宙の重力バランスが崩壊するな」
オガタの熟考する構えに、ミッシェルは補足説明を始めた。
「女王アリと数千程度の護衛が遠路はるばる旅をして安住の地にて万端の準備を整え、そして敵対する可能性のある集団を一気に殲滅する。そのようにプログラムされていますわ」
「プログラム……?」
「はい。彼らの艦艇をハッキングして判明したことは、彼らは生命体ではない。……無機生命体の可能性も否定できませんが、少なくても我々が知る有機生命体ではありませんわ」
「そのプログラムが、我々のような高度に発展した知的生命体を攻撃すること、か」
「いえそうでありませんわ。なんといいますか……外銀河に出ることを阻止するのが、目的のようですわ」
「いまだこの局部銀河群の果てにすら達していないのだがな」
そういいつつタバコを吸い始めたオガタだったが、ミッシェルが怪訝な顔をしたので2回ほど吸っただけで灰皿に擦り付けた。
「次にアンドロメダ艦隊の調査報告です」
「おい……我々は情報収集しないと言っておいたではないか」
「いえいえ准将、これは友好国がわざわざ送ってくださった情報でしてよ。お気になさらなくて問題ありませんわ」
悪そうな顔を作って高笑いを始めた元ストーカーを横目に、オガタは頭を振りつつ報告書に目を通し始める。
アンドロメダ銀河帝国艦隊戦闘情報調査報告書(略式)
オペレーション・アーミーアントディストラクションにおける戦闘で、アンドロメダ銀河帝国艦隊の戦力を分析し、今後の部隊配備計画を合理的かつ、円滑に進めることを本報告書の目的とする。
正式艦隊名称不詳。仮呼称アンドロメダ銀河帝国艦隊(以下アンド艦隊)
総隻数 約4万隻
内訳 戦艦13000隻。空母なし。巡洋艦15000隻。駆逐艦10000隻。以下補助艦艇
戦艦諸元(推測)
全長9.2㎞ 全幅2.7㎞ 全高4.1㎞
背負式砲塔型の大型レーザー砲を主武装としている。その他兵器は対空用と思わしい誘導兵器及び高射レーザーを確認。機動兵器の発着艦を確認。空母としての機能を併せ持つ。
防御面は対物・対光学シールドを展開しているものの、大型兵器のみに対応している模様。中・小型兵器は艦の装甲で耐え、大型兵器はシールドで威力を減衰させることで装甲で耐えれるようにし、シールドが飽和攻撃により無力化されるのを防ぐ狙いがある模様。
巡洋艦諸元(推測)
全長4.2㎞~3.0㎞(複数の艦種を確認)
大型巡洋艦は戦艦クラスの大口径レーザーを装備している(旧式化した戦艦の可能性あり)。中・小型巡洋艦は対艦用の大型質量兵器を有しているが、射程の短さ、命中率の低さからか主だった活躍は確認できず。機動兵器の着発艦を確認。機数は少なく自艦防衛用と思われる。
防御面は戦艦同様のシールドシステムがあるが、戦艦と違い全弾をシールドで耐えている。
駆逐艦諸元(推測)
全長1.8㎞ 全幅0.9㎞ 全高1.3㎞
主武装は光子魚雷による雷撃。及び、120㎝連装レーザー砲(推測値)。
随所に大型スラスターが確認できるため、機動力により被弾を免れる設計思想の模様。
事実、巡洋艦よりも被弾率は低かった(グンタイアリが大型艦を優先攻撃したためだとも思われる)
艦隊運用思想(戦術ドクトリン)
前衛に巡洋艦や駆逐艦を配置し、後方より戦艦による強力な火力により敵前方部隊から攻撃していくドミノ方式を採用。
大規模なWW2時代の陸戦のような戦い方である。
ただし、前方部隊の前方連隊規模が2割の損耗で予備戦力と交代させるなど、高度な指揮能力と采配が優秀である。
側面への対応も充実しており、正面以外の戦い方にも慣れている。
機動兵器の運用も手堅く、敵戦艦には一個中隊規模で攻撃を仕掛け、3割の損耗で予備戦力と交代する。
一方で敵の小規模艦隊が陣形内に突入した際には対応に手間取る様子があり、イレギュラーへの対処が未熟である。
傍受情報
アンド艦隊が本国へと発した情報の中には「我々では無理だ」「たかが1個地方隊の我々には荷が勝ちすぎる」といったネガティブな送信内容が多く、これが真実であればアンド艦隊は正規戦力ではない可能性が高い。よって、上記艦船ですらすべて「旧式艦」の可能性がある。
「この情報源はどこからだ?」
「ライラバル星系連合に大マゼラン共和国。そして銀河間連合からの情報提供ですわ」
「なるほど……それらを抜粋したのがこれか」
「そうですわ。何か問題ありまして?」
眉間を揉みつつ頭を悩ませるオガタは、熟考の末、両資料を参謀本部に送ることにした。
参謀本部はこれらの情報を速やかに銀河間連合各国に送付した。
この情報を受け間もなく、各国の主力艦建造計画が本格化したのであった。