第3隻目 武装を考えよ!
宇宙戦艦だけでなく、軍艦や戦車、はては小銃に至るまで、どういった目的のために、どんな機能を備えたものにするのか。またどのような運用をするのか。という緻密な計画に則った仕様要求がなされなければ、その計画は須らく破綻する。
例を挙げれば西暦1990年台に開発が始まった複合小銃をあげてみよう。
複合小銃とは一丁の小銃に、小銃、20㎜グレネード、ミサイル誘導用レーザーなどを組み込んだ小銃として計画された。だが、実際にその小銃を採用したのは東洋の一国のみであった。しかし、2008年より実戦配備されたものの、暴発や故障などにより現場からは大ブーイングでもって使用拒否となり、軍も複合小銃使用停止の命令を下し、2018年には軍は正式に戦力化中断した。事実上の計画破棄を宣言するに至った。
こうした大失敗した理由としては小銃に何でもかんでも載せた結果、非常に重くなり扱いに困るものとなった。整備性も生産性も最悪なものだったからだ。
製造元の金属加工技術の低さや、グレネードの開発難航などの工業力不足も相まって、史上最も最悪の小銃という二つ名を冠するものだ。
結局のところ、一つのもので何でもかんでもこなせる小銃という、土台無理な軍の要求が不可能な物を作ろうとしたことがそもそもの問題だった。
要は、最初の仕様要求が実現可能か。そして現場に実用に耐えうる代物か。というのが肝となってくる。
逆に成功例としては1949年にソビエト連邦が配備したAK-47という小銃がある。この小銃が後の世界大戦以降も第三世界の多くの国家・テロ組織で使用され続けたのは最初の基本設計が優れていたのに他ならない。
これは「どんな運用にも耐え、どんな粗製乱造でもパーツが組み合わさり、どのような条件でも発砲できる」という目的で設計されたためだ。命中率など二の次、三の次であったが設計者の思い描いた通り、どのような状態でも、粗製濫造だろうと銃が確実に動作した。故に史上最高傑作の小銃の一つと称賛されている。
長々と銃について語ったが、これは最上記の通り、宇宙戦艦でも当てはまる。
このことをオガタは知悉していたが、それを彼の熱意が否定しようとする。
(この戦艦は垂直発射式レーザーは絶対に装備させたい。いや、正面発射方式も捨てがたい……)
彼の頭の中で二つの方式が抗争を繰り広げていた。
垂直発射式の場合、艦表面にレーザー発射孔をずらっと並べるものだ。イメージとしては垂直発射式ミサイルの発射台のような感じだ。ミサイルが収まっているところにレーザー砲が埋め込まれていると想像してほしい。レーザー発射の際には、炊飯器の蓋があくようにパカリと開く。それも数十、数百という数が開いていくのだ。メリットは全方向に向けての攻撃手段の獲得と、艦表面のほぼ全てを武装で埋め尽くすことが可能となる。問題は主装甲の外側に設置する場合には艦内容積の減少を招き、主装甲と一体化する場合には物理防御力の減少を招くという物がある。
次に正面発射式とは艦首もしくは艦側面などに艦首方向に設置されたレーザーである。艦内にまでレーザー砲の砲身が入り込み、超強力なレーザーを発射できる方式である。ただし、最大の欠点は艦が目標に対し正面からしか発射できないことである。
この両者を同時に装備するのは確かに可能ではある。
計画としては全長3~5㎞クラスの帝国としては超巨大戦艦であるからだ。
オガタとしては、作中同様に7.2㎞クラスの戦艦を提唱しているのだが、いまのところ参謀本部を納得させる材料を用意できないでいる。
それどころか、謎の大艦隊が光学兵器が有効かどうかも怪しいのが実情だ。
つまるところ、今はどうしようもない。
「やっぱり二人じゃ解決策は浮かばないな」
「そうですねぇ~ヒック! 生中追加~!」
「ばっか! 何杯目だよ」
「ま~だ20杯目ですぜぇ~」
しっかりと自分が呑んだビールの杯数をカウントできている。と、誇示するサイジョウだったが、残念。それは22杯目の注文だった。
「……飲み放題にしとけばよかった……」
財布を覗けば万札数枚とクレジットカード。最終手段としては、体内にあるICチップを利用したIC決済もあるが……最終手段である。
オガタの顔は青ざめた。だがそこで妙案を思いつく。さっさと酔い潰したほうが安上がりである、と。
思いついたのなら速やかに実行する。
彼が前世で教わったサイコウにハイになるドリンクだ。
「店員さん、ブランデーのストレートとテキーラのショット。それと生中を一つ貰えるかな?」
「畏まりましたー」
店員にオーダーを通して、彼は運ばれてくるまでの間、枝豆をつまみながらサイジョウを潰すこと。もとい、謎の艦体を潰すための武装を考える。
(主な武装はレーザーとするとして、対艦隊兵器ってのも欲しいな。いっそのこと艦首に宇宙戦艦ヤ〇トみたいな波動砲にするか? いや技術不足。ならマイクロブラックホールを敵艦隊に放出して……ダメだ。小さすぎて放出した瞬間に蒸発する。だったら無限〇路にでてくるハイストリームブラスター……反物質砲なんて、現代でも技術がないぞ!!)
悩むに悩んでいる間に、サイジョウは22杯目のグラスを空にする。
「むぅ? 私のぉ枝豆がぁなーいぞ~」
完全に出来上がってる呑んだ繰れのサイジョウに、女としての色気など皆無である。
既にただの飲兵衛。色気よりも酒臭さに鼻をやられそうになる。
「店員さ~ん。枝豆とビールの追加よろしく~」
「まだ飲む気か」
「私はもっと飲めるのらぁ」
(ダメだ。早くつぶさないと)
オガタは強迫観念に捉われる。一刻も早くこいつを沈めないと、自分の今月の生活費がガリガリ削れていく。来月には『アダム』と『イヴ』の帰還を祝った1/144スケールの実体模型が販売されるのだ。絶対に入手したいと考えていたからだ。
そのためにも、沈めに掛る。
チーン!
唐突に調理場から聞こえた音に、オガタは閃いた。
「お待たせしました。生中2つと、ブランデーのストレートとテキーラのショット、それと枝豆です」
「まってましたぁ!」
サイジョウは枝豆をうまそうに頬張りながら、オガタが手早く作ったブランデーとテキーラが混ぜられたビールを飲み干す。
別名、スーパー爆弾。どんなに酒に強い人間も一発ノックアウトするような危険なカクテルだ。
冷凍枝豆を解凍するのに使われた電子レンジ。
そこに最大のヒントがあったのだ。
そしてサイジョウは居酒屋の硬いテーブルの上に沈んだ。
「お勘定」
「はい。28000円です」
オガタは二度と呑み放題以外の飲み屋にサイジョウを連れて行かないことを、固く、固く誓った。
そして負ぶって帰る途中で頭の上からリバースされたので、そもそも飲みに連れて行かないことを決意した。