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第45隻目 宇宙戦艦オタクの前々世と前世(前編)

宇宙戦艦オタクの男、オガタは西暦1994年の日本のド田舎である徳島県にて生まれた。

生まれつき正義感が強く、リーダーシップがあった一方、凝り性であった。

14歳となったころに彼は「軍事オタク」と「アニメオタク」となる。

アニメ自体は幼少のころから見ていたが本格的にオタクの門を叩くきっかけは、週末に出される「宿題」を土曜の深夜に片付けているときだった。

眠気もピークに達しつつあったが、翌日は友達と遊びに行く約束をしていたこともあり、どうしてもその日のうちに終わらせなくてはならない。だからこそ、テレビでも見つつ眠気を覚まそうとしていた時に、深夜アニメを見てしまったのが始まりだった。


それからというものアニメ漬けの日々が始まり、彼は次第にSF系統の作品に傾倒していった。

そんな中で出会ったのが「トップをねらえ!」だったのだ。

彼は初見時「古い絵……だけど、なんて宇宙戦艦ってかっこいいんだ!!」と、ここで宇宙戦艦というものにドハマりしてしまった。

美しい青色の船体。垂直発射レーザーの華やかさ。

それらは彼が今まで見たどのアニメよりも、彼の脳裏に鮮烈に刻み込まれた。

元来の凝り性も相まって、ルーツをしれば宇宙戦艦がもっと楽しめるのではないか?という考えに至り、軍事方面も詳しくなっていったのは、半ば必然だった……。


そして、無限航路なるゲームをしることになった。

このゲームは自分が好きな宇宙戦艦を自分好みにカスタマイズして、編成し、ストーリーを進めるものだった。

これまたドハマりすることになり彼はセーブデータが上書き不可能になるまで、何度も、何度も、何度もプレイした。

そして、内部バッテリーが不足しセーブ不可能になると、中古で買って、また同じように何度もプレイし続けるほどであり、もし宝くじがあたったら「全額投資してでも続編を作ってもらう」というくらいには、当時の彼は心底嵌っていた。


斯くして軍事オタクということと正義感の強さから自衛隊に入隊するも、理想と現実のギャップについていけなくなり2任期で除隊。その後は海岸に近い農業法人で働き始める。それは自衛隊時代ににたまたま食った焼き芋が驚くほどうまく、その芋の生産者の下でその芋を作りたいと思ったからだ。

それは徳島県鳴門市にある「NARUTO スィートポテトファーム」。だ

仕事は自体は失敗やミスもあったものの、数年後には社長に頑張りが認められ、圃場長という畑を管理する役職に就くことになり、しばらくして妻子ももつことになった、

とある暑い夏の中、いつものように畑で汗を流しながら部下と共に芋掘りの仕事をしていた。

続編制作決定というグッドニューズは彼のモチベーションを最高潮にするには十分であり、現場の長である彼に釣られて部下たちも普段よりも高いモチベーションで芋掘りをしていた。

だが最悪というのは突然訪れた。


南海トラフ大地震



後に「西日本大震災」と呼称される超大型地震が彼の身を襲うことになった。

尤も危惧されるのは津波である。

だが、防波堤を超えることはない。

それは増強工事を終えたばかりの高さ10mの防波堤。それを超えることはありえない。あんなに高くする必要はないはずだ。と、齢90を過ぎた老人たちは口を揃えて言っていたことを彼は思いだし、「大丈夫だろ」と思っていた。念のために家族に連絡だけ済まし、変わらず仕事を続けることにした。部下たちも家族に連絡を済まし、数名の者が自宅に被害が出たとかで帰宅したい旨を伝えてきたので、彼はそれを了承した。残ったのは彼と部下の2名。社長からは「帰りたいなら帰りなさい」と電話できていたのだが、家族を養うためにお金は必要だった。なにより仕事を続けていた。

それから30分ほど経った頃、同僚の一人が防波堤の方を指さした。

津波が防波堤を超え始めていたのだ。


「無限航路の続編したかったな。トップをねらえ!の続編も、見たかった……」


津波が防波堤を超えるのを見る中、胸中に渦巻く思いを諦観とし、運命を受け入れようと目を閉じた。





「准将は、そこで亡くなったのですか?」


サイジョウはこの荒唐無稽な昔話を微塵も疑う様子もなく聞き入っていた。


「この俺が? そんな玉ではないことくらい、君ならわかるだろ」


と言って続きを話し始めた。




「最後の言葉が、未練で死ねるかぁぁぁぁぁ!!!」


雄たけびを上げつつ軽トラに乗り込むと、すぐさま部下2名も荷台に飛び乗り高台へと避難する。

道中で徒歩で避難していた数名のお年寄りを荷台へと乗せ、どうにか高台にある避難所に辿り着くことができた。

だが、彼らは更に絶望的な光景を目にすることになった。


「防波堤が……」


防波堤は大部分に渡り決壊し、さきほどまで自分たちがいた畑は勿論、町全体が海水に飲まれていく惨状を目の当たりにすることになった。

彼の脳裏に東日本大震災を思い出させるには十分であった。

そんな中、女性の悲鳴が聞こえ、彼が駆け寄ると女性の傍に老人がうつ伏せに倒れていた。

彼は老人を仰向きにした。老人は口から泡を吹き白目を剥いていた。脈を図ると、止まっていた。


「どなたか、医者か、看護師の人はいませんか!!?」


大声で呼びかけても、誰も反応しない。

それもそのはずだ。自分たちの街が今、無くなっていく最中なのだ。人のことを気にする余裕などかった。


そこで自衛隊で習った心肺蘇生法を試す決意をする。


「気道確保……見て聞いて感じて…5,6,7,8,9……呼吸、脈なし。遠藤!避難所のAEDもってこい!」


「は、はい!」


部下に命令すると、彼は老人の胸部を圧迫・開放を繰り返す心肺圧迫法をはじめた。

訓練用の人形とは違う、温かい人の体。その胸部を圧す度に口から空気が出入りする小さな音がした。


「7,8,9,30!」


そして人工呼吸。

鼻を摘み、顎を上げ空気が肺に入るようにゆっくりと流し込む。

それを2回行うと、再び心肺圧迫を行う。


「部長! AED持ってきました!」


「ゆっくり落ち着いて、書いてある通りにやってくれ」


「はい!」


部下の遠藤も帰って来て、AEDを使用する準備を始めた。

二枚のパットのシールをはがし、それを指定された位置に貼り付けていく。


「俺が離れたらスイッチを押してくれ」


彼がそういうと「チャージが完了しました」とアナウンスが流れた。


「押せ」



バグン!!!



老人の体が一瞬浮き上がったかのように見えるほど大きくのけ反る。

彼が再び心肺圧迫を始めようと近づくと、老人は咽て、息を吹き返したのだった。


「よ、よかった~」


気が抜けた声を上げつつ、彼は女性からの礼もそこそこに周りを見渡した。

数名の者が出血を伴うけがを負っているのが見えた。


(いまここでやらなきゃ男が廃る!)


自衛隊で習った緊縛止血法や圧迫止血法によりテキパキと応急処置を行いはじめた。

幸いにも命に別状のあるような重傷者が居なかったため、彼一人でもどうにかなったのだ。

その後、警察への通報や、避難者名簿の作成を行い、半日後、救助隊のヘリコプターにより無事全員が救助されることになった。

が、彼はその正義感により、そして自らが住む街のためにすぐさまボランティア活動を実施した。

始めこそ炊き出しの手伝いであったが、自衛隊の支援物資の搬入や運搬を手伝ったりなど、自身も被災者でありながら献身的に活動した。

その後は実家に戻り農家として自立。その時代では早死とされる72歳で人生に幕を下ろした。

順風満帆とは言えないとはいえ、人の生きざまとしては十二分に過ぎる人生だった。

しかし……死を一度覚悟した時にでた未練の言葉は、死ぬまで残った未練となった。

トップをねらえ!の続編を計画してたアニメ会社も被災し、続編は白紙化してしまった。

無限航路に関しては、死ぬまで結局音沙汰なしだったからだ。



「とまぁ、これが俺の前世……というより、前々世の話だ。荒唐無稽やもしれないが、事実だ」


「准将の、前々世ですか。確かに当時の地方紙にありますね。『避難所にて元自衛官が人命救助! 複数の命を救う!』と、2面ではありますが大きく書かれてますね」


サイジョウは話を聞きながらデータベースに検索を掛けていたらしく、その新聞記事を現代語訳してホログラフィックディスプレイで表示する。


「そんなのまでデータ化されて残ってやがるのか……第3次大戦で全部なくなったと思っていたんだが」


オガタはバツが悪そうに頭を掻く。


「そんな奇跡的なことがあるのですね! すごいです!」


ニアは無邪気に信じている様子で、オガタとしては部下が変な詐欺に引っかからないかと心配してしまうが、天羽に小声で「准将が考えるほどニアちゃんは馬鹿ではありませよ」と読心術で突っ込まれる。

まさかニアまで自分の脳にバックドアを? と思ったが、さすがに考えすぎだとオガタは小さく首を横に振った。


「オガタ准将。先ほど『前々世』と仰られましたが、つまり『前世』の記憶もあるのですね?」


今まで黙っていたシュナイツァーが言葉を挟んだ。


「あぁ。だがここから先は……軍最高機密になる。さっきの設計図よりも、厳しいものだ。家族の首まで飛ぶ可能性があると思え」


全員が二重の意味でびくりとする。

最初の方からこっそりと覗いていたサイジョウ、ニア、シュナイツァーは「まさか最初から気づいていた……?」と色々と動揺する。


「それは、どういうことでありますか?」


天羽の問いかけにオガタは、コーヒーを飲み干すと席を立った。


「ここではできん。私の部屋に行く。聞きたいものはついてこい」


そういって面会室から一人出て行ったのだ。

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