表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/66

第37隻目 全力出撃は遅延する!

命令下達から72時間後。

予定よりも丸一日早い時間で編成を完結した。


宇宙軍即応師団艦隊

指揮型エクセリオン      53隻

量産型エクセリオン     150隻

強襲型エクセリオン     580隻

空母型エクセリオン     220隻


元使節艦隊所属、現即応師団艦隊司令直掩艦隊

試験型エクセリオン      1隻

先行量産型エクセリオン   8隻

外銀河探査用特務艦     2隻


合計1012隻のエクセリオンシリーズと2隻の特務艦で構成された大艦隊である。

即応師団艦隊はその高い練度を遺憾なく発揮し、見事に期限までに全艦艇による全力出撃準備を完了させた。

また総司令部より補助艦隊としてつい1年前まで「最新鋭艦」であり、オガタが設計を行った旧弩級戦艦、現「水雷艇」艦隊が付随する。

この水雷艇艦隊の武装は艦艇サイズによるが核融合弾頭ミサイルが20~40発、それとわずかな対空武装のみである。

だがその隻数は3000隻にも及び、10万発近い核融合爆弾である。

わかりやすく言えば、WW2で使われた火薬の総使用量の約500万倍近い膨大なエネルギーだ。

この補助艦隊こそがどちらかというと総司令部の本命に近い。

エクセリオン級が戦艦としていくら高性能でも、いくら量産効果で安くなっているとは言っても、1隻で20億アースの建造費。さらにいえば人件費も戦費も嵩むような兵器を、戦場でポンポンと沈められては堪ったものではないからだ。だからこそ、100万隻以上もある旧式艦を有効利用し、なおかつ安く済むのならそれに越したことはないと捻じ込んできた作戦が交付されたのは、即総師団全力出撃準備完結より24時間後のことだった。


作戦名「アーミーアントデストラクション」


日本語訳すれば「軍隊蟻駆除作戦」である。

ただひたすらに行進を続ける謎の大艦隊を同様の習性を持つ「グンタイアリ」になぞらえて、それを駆除しよう!という実に安直な作戦名だ。

そのための火炎放射器としての役割が3000隻に上る水雷艇であり、それを護衛するための即応師団艦隊というのが現実だ。

だが……補助艦隊も到着し出撃準備が整ったにもかかわらず、オガタらはいまだ地球圏土星基地で5日目の昼を迎えていた。


「で、作戦準備は整った……にも関わらずなんで我々は未だに土星基地で足止めか」


「アイレンバーゼンと大マゼラン共和国からの増援受け入れのためです。仕方ありませんぜ」


「いつごろ到着予定だ?」


「アイレンバーゼンはあと72時間、共和国は90時間……ですが到着してから指揮系統のすり合わせなどで更に48時間と考えた場合、あと1週間は土星からは離れませんぜ」


「全く、こっちが急いで準備したのが馬鹿みたいじゃないか」


そういってタバコを吸うオガタの口元はわずかに緩んでいた。

口から漏れる紫煙もどことなく楽しそうに空気に薄まっていく。

突然決まった作戦だったが、それでもどこからともなく漏れた情報を聞きつけて増援派遣をアイレンバーゼンと大マゼラン共和国が申し出たのが3日前……出所は不明とされているが、サイジョウはその発生源をなんとなく分かっていた。


(准将……謀りましたね)


サイジョウは脳通で己の予測の裏を取る。

案の定、帰ってきた答えは自身が真っ黒である自供だった。


(そうだ。こんな手勢で強硬偵察?先制攻撃? そんなの地獄に向かって

行進(パレード)するほうがよっぽどマシだからな)


(それには同意ですが……他にもアプローチされたのでしょうね? まだまだ戦力不足ですぜ)


サイジョウの不安然り、まだまだ戦力不足だ。

象に挑むのにミジンコがオキアミに置き換わって挑むのと然程変わりない。

ただただ死の行進の列を長くしただけだ。


(戦力の増強などどうでもいいんだ。私はただ、時間が欲しかったのだ)


(時間? なんのための時間ですぜ?)


訝しがるサイジョウを片目に愉快そうにオガタは笑う。


「わからんかね? サイジョウ? 君が分からないかね?」


声を出してそういうとまた愉快そうに笑い始めた。

オガタの奇行に「頭が逝ってしまったか。早く医者にみせないといけませんぜ」とサイジョウは焦ったが次の言葉で納得することになる。


「喜べサイジョウ。我々の防空は紙飛行機から絶対必中必殺の槍衾になるぞ」


「! 間に合ったのですか?」


「少数だがな。アイとセットはよくやってくれた。機種転換訓練はシミュレータ頼みだが、10万機の『ゲイ・ボルグ』が明日には届くそうだ」


「准将はそこまで考えて……」


「だが実機テストもまだの代物だ。問題も多いだろうが……なに、エミュレータ班が何千何万回もエミュレートして、さらにはうちのエースが試験機パイロットを務めたんだ。紙飛行機に乗るよりよほどマシだろう」


引き伸ばせたのはわずか4日か5日。だが、既に設計図は完璧に出来上がっていた。あとは技術将校時代のコネと総司令部へのコネ、参謀本部のコネ、さらには古株将官達への『貸しの回収』により無理やり機動兵器製造工廠で建造させた。

様々な工廠で作業させている自律思考型ロボットをかき集めさせ、24時間体制で工廠をフル稼働させて短期間で10万機もの『ゲイ・ボルグ』を確保させたのだ。

機種転換訓練も地球帝国軍の機動兵器共通マニュアル操縦が残されているため、問題ない。

問題なのは不眠不休で働いた一部の職人技を持っている技術者たちだが、皆一様に疲れた顔をせずに「こんな突飛なものを作れるのは職人冥利につきってもんだ」とげっそりやつれた顔で、目だけ爛々と輝かせ、今なお次々とゲイ・ボルグを量産し続けているということだ……。


「それでだな。一機だけ、特注仕様の『ゲイ・ボルグ』を用意することになった。それは本艦唯一のゲイ・ボルグだ」


「は? たった1機だけですかい!? 10万機も導入するのに?」


大声でさすがに周りもこちらに気付き始めた様子だった。


「何事でしょうか?」


先ほどまで「軍人として乗艦するなら自分の武器の手入れくらいは行えるようになれ」とオガタに言われ、軍正式小銃の整備を行い分解結合を黙々と繰り返していた天羽が会話に入ってきた。

どうやら既に目隠しでの分解結合までできるようになったようで、誇らしげに小銃を負い紐で肩に下げていた。


「もうできるようになったのか……早いな」


オガタはそういいつつ天羽の頭を撫でる。

ここ数日で彼女は最低限の軍人としての技術を習得していた。

靴磨き、アイロンがけ、清掃、基本教練……昨日は艦内の射場で300m射撃を一日中行い、最後は10発中10発を的のど真ん中に集弾させていた。

その後始末を兼ねて分解結合と整備を行っていた彼女の両手は、手入れ油と煤にまみれていた。


「天羽特務准将殿。我が艦に特注の『ゲイ・ボルグ』が来るそうですぜ」


「特注の……パイロットはニアちゃ、ニア曹長でしょうか」


「その通りだ。そのために一つの格納ブロックを潰したけどな……」


「まさか……第7格納庫じゃないでしょうね?」


「『第7ハッチが開いています…!』って誰かに言わせたいところだな」


「……それ、版元から苦情来ませんかね……?」


「なに、名前も機体サイズも別物。ならば全くの別物だ」


かなり(版権的に)危うい話であるが、特注仕様の『ゲイ・ボルグ』は設計よりも3倍の多きさで小型縮退炉を2機搭載。各種武装は機体内に……とかなり似た造りだが、別物である。


「……つまり、すこぶる優れた機動兵器が本艦に配備されるということでしょうか?」


「10万機だ」


「はい?」


「特注仕様は1機だけだが、ゲイ・ボルグ10万機が本艦隊に明日付で配備される」


「……どんなマジックを使われたのでありますか?」


「極秘事項にあたる」


そういって会話を打ち切るとオガタは再びタバコを吹かし始めた。


「さて……増援部隊の戦力はいかほどだろうな」


規模不明なれども最大限の増援を派遣するとした2か国。

オガタはそれに心を躍らせながら各部署の状況を確認しつつ、作戦展開予定宙域図を見てさらなる腹案を模索するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] (ガン……バスター)来たじゃんw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ