第36隻目 准将は決断する!
大分更新が空きましたが……ちゃんと続きます。
ノックする音……が妙に荒々しいことでオガタは嫌な予感をした。
なんの因果かオガタがこの奇妙な五角関係を解消しようと動くたびに、神の悪戯か幸か不幸かそれとも運命か、兎も角、絶妙なタイミングで邪魔が入る。
それも最悪の形だ。
前もそうだった。
前は銀河間連合の艦体が太陽系外縁に現れて「謎の大艦隊の先遣隊か!?」と大慌てだったのだ。
かくして今度は何たるや?
疑問に思う間もなく、入室してきたのはサイジョウだった。
「准将。報告します。先ほど司令部より入電あり」
「続けろ」
「はい。司令部より『地球帝国宇宙軍即応師団艦隊の指揮権限をオガタ准将に移行する。これを率いて96時間以内に出撃体制を完了させよ』との報告です」
嫌な予感ばかりは何故かあたると昔から相場が決まっているが、ここまで的中してしまうとさすがのオガタの額にも冷や汗一つ流れるのは致し方がないだろう。
それにしたってこれほどの辞令が口頭ではなく電文で送られてくるあたりに些かの違和感を感じるが、オガタにしてみれば「またか……」と頭を悩ませるどころか、頭痛となっている。
それもこの無理難題である。
即応師団艦隊とは常設されている宇宙軍艦隊の中でも精鋭かつ、命令があれば即時作戦行動を開始できる艦隊……ではあるが、それにしたって準備時間が短すぎる。確かに彼らは常に即応できる体制にあるが、それでも大規模作戦時などは最低でも1週間は時間を取る。
銀河間連合艦隊出現時に即応できなかったのはエクセリオンへの更新前であり対応不可能だったのと、使節艦隊という当時地球帝国宇宙軍最大戦力が別件とはいえ出撃体制が整っていたからだ。
そんな中、いくらオガタ自身が短期間で多くの武勲を挙げているとはいえ、いまだ10隻程度の指揮しかしたことがない人間にいきなり1000隻の艦隊を率いろと言っているのである。
さらに言えばエクセリオン級に全艦更新されてたった1月ほどの艦隊で……。
(いくら即応師団が優秀でも、習熟訓練にはあと1月はかかるはずだ……一体どんな意図があるのやら……まさか、まさか……!?)
「それと司令部より『アダム』『イブ』の2隻の曳航準備。及び、『放棄』を指示されています。……准将、これはつまり」
「皆まで言うな。それ以上は、軍機に触れる」
さすがのオガタも理解した。
司令部の作戦内容を。
恐らくは謎の大艦隊にハラスメントのついでにとっておきの置き土産までも準備して臨む、先制攻撃作戦。
それ以外に答えはない。むしろそれ以外の答えがあるはずもない。
だが1000隻以上のエクセリオンとはいえ、謎の大艦隊に先制の一撃を加えるにはまだまだ火力不足であることは明白だ。ともすれば、これは一体なんの茶番か?
いまだ地球帝国の防衛圏侵入まで1年近い猶予があることが帝国内の情報分析でも、銀河間連合の情報分析でも示されているにも関わらず、ここまで早めるのには一体なんの理由があるのか。
地球帝国の防衛圏外縁から最寄りの居住惑星まで1000光年近く離れている。
確かに防衛圏内には無数の資源採掘惑星があるが、戦場となったところで困るわけではない。
ならば万全の状態で迎え撃つことこそが重要なのではないだろうか。
そう考えこむオガタだが、あることに失念している。
今回の辞令は「司令部」より届いたものであることだ。
司令部にはオガタを良く思わない軍人も多いということだ。
特に中堅どころと称される将達からすれば、技術屋上りがどんどん出世して、良い所を全部掻っ攫って、軍人の身でありながら皇族と懇意にしているともなれば、妬みの対象には十分に過ぎる。
当てつけとして先制攻撃に向かわせて、負け帰ってくれば無能呼ばわりして出世コースから蹴落とし、勝って帰ってきたとしても被害規模が甚大だと難癖をつけ、さらに言えばあわよくば戦死してもらおう。という魂胆なのだ。
勿論、この作戦を上申した将達は「オガタ准将が適任である。彼はとても優秀だ(棒)」などと言って、本作戦の責任者をオガタに全ておっ被せる腹積もりなのだ。
そいうった自分がねたまれる側にいるという自覚が欠如しているオガタは、ただただ司令部の本意を読みかねていた。
参謀課程も出ている彼だが、なぜこんなポッと出の自分に白羽の矢が立ったのか皆目見当がつかないでいた。
「兎も角、即応師団艦隊司令と会議を行う。即応師団艦隊司令部に繋いでくれ」
考えるよりもまず為すべきことを為すために、オガタは仕事を始めた。
そんな折に小さくドアをノックする音がした。
(最悪のタイミングだな……)
オガタは胸中でぼやくも、仕方ないので入室を促す。
入ってきたのはミッシェル、ニア、天羽の3名だ。
「准将、参上しました」
ミッシェルが代表して敬礼したので、オガタも答礼する。
「それでだな……いま少しばかり立て込んでてな」
「お手間は取らせませんわ。私たちは既に一つの結論を得ておりますわ」
「は……?」
「ほら天羽ちゃん。勇気出して」
ニアがせっつく。
(待て待て。この状況でまさか……)
「で、ですが准将殿は今お忙しいようですし……」
「准将、師団司令部も今は少し忙しいようですぜ。30分後に掛け直すそうですから、我々は一度退席します」
「お、おうそうか……」
(ふう、なんとかこの場は茶を濁せそ……)
「んじゃ天羽特務准将、ガンバ!」
そういうと、サイジョウ、ミッシェル、ニアは3人揃って敬礼をして退室する。
(ま、まってくれ!!!)
心の声がのどまで出たが、ぐっとこらえることにオガタは成功した。
さもすれば、いつの間にやら艦長室にはオガタと天羽の2名のみ。
環境ホログラムが艦内時間に合わせて夕方を表す「サンセット」になる。
(あれ、環境ホロいついれたっけ……)
普段は落ち着かないからと環境ホログラムを切っているが、そこは演出家がいる。
サイジョウとミッシェルに掛かれば、この程度の書き換えは容易であり、足が付かないように自律思考型ロボットのMOTOKOが細かい調整を行うという念の入れようである。
見事に雰囲気が出来上がってしまって、もじもじしていた天羽も引くに引けない様子になる。
「准将。私は准将にどうしても伝えたいことがあります」
「……なんだ?」
緊張のあまり、普段以上にぶっきらぼうな言い方をするオガタ。その様子をのぞき見されているとも知らず……。
「私は……准将のことを、好いております」
「……そうか(やっぱりそうだったのか!!!)」
心の声を出さないようにすれば必然的に口数は減り、さらにぶっきらぼうになる。
だが、この心の声すらも覗く3名の女達。
彼女らもまた一途な恋路ではあったが、それよりもこの純真無垢な少女の恋路を邪魔するよりも愛でるほうが、心安らぐと結託していた。
それ故に、オガタの発言次第ではいつでも殴りに……もとい、抗議に行けるように一人は総合格闘技用のオープンフィンガーグローブを、一人は愛用する拳銃を、一人は安全靴仕様のシューズを準備していたが……。
「天羽特務准将。それは公人としてか、それとも個人としてか?それとも……異性としてか」
「皆まで……言わないでください」
「すまない……どうもこういったことには奥手でヘタレなのが、俺なんだ」
「意外でありますね。准将は積極果敢なことで有名ですのに」
「心外だな。男にだって苦手なものくらいあるんだよ。俺はただ……色恋ってものが苦手だっただけさ」
(何カッコつけてるんですぜ! 結構なむっつりスケベでしょうに!! あの時の暑い部屋で私の足とか胸とかチラ見してたでしょうが!)
(そうですわ! あのねっとりとした視線は今となっては快感ですらあるのに、今ではつゆほども向けてくださらないのに!)
(……私、一度も異性として見られたことすらないんですけど)
3者3様の呻きとなるも、伝わるはずもなく、彼女たちは悶々としつつ状況を見守る。
「答えを……ください」
天羽はそういうと上を向いてそっと目を閉じる。
(おいおい何のエロゲだこれ? つか誰だよこんなのを教えたのは!? 俺はロリコンの気はないぞ!)
だが、オガタにとって一緒にいて一番心地よいと感じるのは、天羽だったのも事実。
それは前世の若いころの自分に似ているだけではない。
かくして野次馬根性たっぷりの3人の女性が画面越しに見守っていたわけだが、MOTOKOたち自律思考型ロボットが一人ずつを後ろから拘束していった。
「これ以上は野暮ってもんです」
そういって連行されていったために、結果はわからず終いとなった。
こういうシチュあったら、ぐっとくる




