第2隻目 縮退炉を製造せよ!
縮退炉の復活は決定され、質量を外部供給型に改めることは決まったが、それ以前の問題に数日が経過して、彼らは気付いた。
それは縮退炉製造工廠が『無い』ということだ。
共和国との条約締結時の条件の一つである、同時軍縮と縮退炉研究の中止により、縮退炉を作るための工廠はすべて破壊されてしまっている。
既にロストテクノロジーとなって久しい。この壁に彼らは立ち向かうことになった。
「既に工廠がないだと……」
「はい。現存するのは只のひとつもありませんぜ」
サイジョウの言葉に、オガタは落胆を禁じ得なかった。
縮退炉を使うことは決定している。絶対に外せない緊急案件だ。
もし、ワンオフの戦艦なら『アダム』と『イブ』に搭載されている縮退炉を改良すれば、なにも問題ない。しかしながら、彼が任されているのは謎の大艦隊と戦うことになった時に活躍できる、艦隊型戦艦とでもいうべき戦艦の計画だった。
核融合パルスエンジンや相転移エンジンといったものもあるにはあるが、軍の要求性能を大きく下回るどころか比べるまでもないものだ。
上記の機関はあくまで民生用として普及し、現在の宇宙軍の主力艦艇にも搭載されている。しかしながら、縮退炉を代替するような機関ではない。代替するような機関がなかったゆえに、妥協の産物として搭載されているのに過ぎない。
故に縮退炉以外ではどうしようもないのだ。
今から縮退炉を製造できる工廠をいちから作っていては、何年かかるか分かったものではない。
「……ん? 待てよ」
オガタはそこで気が付いた。
いま我々がいるこの場所は一体なんだったのかを。
「ここなら、製造プラントがあってもおかしくないよな」
「まさか。あったとしても100年以上昔に捨てられちまった、こんなボロい研究棟のが動くわけがないってもんです」
「いや。だからこそ動くかもしれない」
オガタはサイジョウの言葉を否定し、脳内メモリ内にある研究棟の見取り図を確認する。
見れば、「極小超重力圏生成機関製造研究室」という名前の部屋がある。
それを確認して、設計室から飛び出したオガタを、サイジョウが追いかける。
(この名前間違いなく縮退炉だ!)
オガタは確信を持って第二研究棟の「超極小超重力圏生成機関製造研究室」の扉を開ける。
そこには驚くべき光景が広がっていた。
「おいおい……これ全部縮退炉かよ」
100年近く放置されていたにも関わらず、製造プラントの製造機械が正確に動作を繰り返し、縮退炉を次々と建造していたのである。
彼らがここに赴任する数日前より送電が開始され、眠っていた機械たちは速やかに製造を開始したのだ。
それが可能となったのは、この研究室で研究を行っていた男が研究凍結の一報を聞き、いつでも研究が再開できるように様々なモスボール処置を行っていたのだ。
送電ケーブルの類は耐腐食性が高く、耐久性の優れる被膜素材を使用したケーブルに置き換え。製造プラント内の空気をすべて抜き、真空状態に。自動修理自律型修理ロボットの設置。などを行っていたのだ。
研究棟内の小型核融合炉による自家発電を定期的に実施するようプログラミングを行い、修理ロボットが充電できる環境まで整えていた。
また、真空状態は完全に恒久的に維持できるものでもないため、自家発電により再真空化が可能となったこともこの保存状態の良さを物語っている。
極めつけは、外部からの送電が確認され次第、自動的に製造を再開するというプログラミングまで組んであった。
材料が尽きるまで、半永久的に縮退炉を建造し続けるプラントができあがっていた。
「……いったい誰だよ。こんな執念深いのは」
彼の足元に広がる書類は、どれもこれも施設の破壊を命令するものだった。
どうやってこの施設を維持できたのか。全くもっての謎であるが、オガタは細かいことは気にしない。
それよりも、縮退炉が大量に製造できる工廠が現存するこの状況を言祝ぐことにした。
「待ってくださいや……はぁはぁ。こちとら研究畑で、肉体動かすのは苦手なんでさぁ」
肩で息をするサイジョウを見てオガタは、くだらないことを思いついたので口にする。
「火照った姿の女の子も、なかなか魅力的だな」
その言葉にサイジョウは目を伏せて赤面する。
「オガタ中佐……セクハラで訴えますぜ?」
「あ、えっと、すまん」
いまだに女性との距離感がわからない。そう心中でぼやく彼だが、彼女がまんざらでもないということに気付いていない。
そんなことより、参謀本部に縮退炉の調達に目途が立ったことの報告を優先していた。そして彼は次に行うべきことが見えいる。
「では、次はどんな武装を載せるのか。これが問題だな」
そう呟いて彼はタバコを一本咥えて火を点けた。
「敵がどんな防御方式を重視するかで変わってきますよね」
「それなんだよなぁ……」
宇宙戦艦において重要なことは何も機関部だけではない。
武装も重要なのだ。
敵が光学兵器対策を重視しているなら荷電粒子砲やレーザー砲は役に立たない。
もし質量兵器対策を重視しているならミサイルやレールガン等は役に立たない。
仮に電子兵器対策を重視しているならECMやマイクロ波兵器の類は役に立たない。
こうした敵が何を中心に防御を整えているのかというのを加味して、武装は考えなければならないのだ。
「あの映像だと、航行速度は亜光速。小惑星などに衝突しても無傷ですむような外殻。もしくは対物シールドが張れることが前提なら、質量兵器はほぼ無意味だな」
「私もほかの映像で見やしたけど、恒星の近くを通ってやりました。つーことは、熱兵器もあまり役に立ちそうにありませんぜ」
しばらく二人で話し合ったものの、名案は浮かばなかった。このままでは埒が明かないのと、時間も終業時刻だったので、彼らはそのまま居酒屋であーでもないこーでもないと言い合い、ビールを呑みながら、二人の親睦を深めたのであった。
メインとは別に書いてる作者の息抜き(趣味全開?)な小説ですので、生暖かい目で見てください。