第31隻目 使節艦隊は初接触を実施する!(後編)
一応は初接触編はこれにて終了です。
異文化交流サイコー!!!
これぞSFものの極みだね!
「こちらエクセリオンのオガタ准将です。マンダ司令にお話ししたいことがある」
恒多無で回線が繋げられ会話を行う。
オガタは顔出しの通信だが、マンダは相変わらずエクセリオンで合成された機械音声のみだった。
「報告は終えられましたか」
声の抑揚からして待ってましたと言わんばかりの喜色に溢れた声がスピーカーより流れた。
「はい。本国も最悪の事態が避けられたことを喜んでおりました」
「それは何よりです」
嬉しそうな声でマンダは返答した。
だがあえてオガタはここで突っ込んだ質問をした。
「つかぬことを聞きますが、貴艦隊はレーダー上の1062隻。これ以外に地球圏に向かっている艦隊はございますか?」
「いえ。我々はこの艦隊ですべてですが、どういうことでしょうか?」
脈絡のない突飛な質問で、マンダはオガタが何を言いたいのか理解しかねていた。
だが友好関係を結びに来たからか、至って普通に答える。
その声音からは「事実」を答えていることが量子演算機より知らされている。
「いえ念には念をと思いまして。ところで外交交渉ですが、やはり軍人が行うわけにもいきません。本国より使節団が12時間以内に本宙域に到着する手筈ですので、今しばらくお待ちください」
「失礼ながら貴艦隊は使節艦隊でしたが、使節団が別に来るのですか?」
「お恥ずかしながら、我々が使節として向かう予定だったアンノウン集団よりも貴艦隊が先に我々の防衛圏に入ったもので、貴艦隊が侵略艦隊なのかどうか見極めるために派遣されたのです」
一部虚偽があるものの、大部分が事実の返答をオガタは行う。
指摘されれば痛いところだが、細かい内部事情を話すわけにもいかないので茶を濁しつつ、別の存在があることを臭わせる。
これにはマンダも驚いたようで、スピーカーからは「アンノウン?」と思わず漏らしたつぶやきが出力されるとともに、オガタの言葉で、朧気ながら何を言わんとしているのかを把握したようだった。
「それはつまり……」
「その前に我が軍の最高軍事機密にあたる情報を一部、そちらに開示します」
これにはエクセリオン内でも否定意見が出た。
特にサイジョウが「准将、なにいってんですぜ!?」と突っ込みを入れている。
しかし参謀課程を修了した准将クラスともくれば、一部ではあるが情報開示権限を有している。
さらには逼迫した今情勢を打開するためにも、情報開示権限を行使することにまったく躊躇しない。
サイジョウも反対してもオガタが聞かないのは分かっているためか、頭をかきつつ諦めてコーヒーを啜り始めていた。
「それが本来の使節先だったわけですかな?」
「見ていただければわかるかと」
言いながら「謎の大艦隊」の艦艇情報に混じって、地球帝国宇宙軍の艦載機データも送信していた。
「! 情報共有感謝します」
息遣いから驚嘆を禁じ得ないの漏らしつつ、マンダは心よりの感謝を述べた。
オガタも今はそれで十分だと思っていたが、司令部より下された「12時間の間」を持たせるという指令を実行することにした。
「それはそうと、我が方の使節団到着までの間、親睦を深めたいと考えております」
「それは嬉しい提案だ。我々としても是非」
嬉々とした声にマンダという人物の裏表のない様子が見え、オガタは手ごたえを感じていた。
先ほどから同じく音声のみであるものの彼らの文化的に仕方ないとオガタは納得していた。
彼らの生い立ち(歴史情報)の中で、マンダの種族が宇宙進出後、他種族との交流の最中でその種族的容姿や姿から、酷く屈辱的な言葉を吐かれたり、中には戦争捕虜となった同族が奴隷として扱われた歴史があった。
そういった経緯から顔を晒したくないと内向的な種族となったのも無理もない話だった。
だが、オガタが情報を見る限り。いや地球人種であれば、誰もがそれほどまでに忌避感を覚える容姿ではない。むしろ一部の人種からは熱烈に歓迎されるような容姿であった。
「はい。まず一つ目に、エクセリオン内で一緒に食事はいかがでしょうか? もちろん、マンダ司令やそちらの基幹要員の方々も交えてです」
「うむ。しかしながら……少々」
明らかに警戒する様子であったが、オガタはそこで食い下がる。
「貴国の歴史などを拝見しました。確かに銀河間連合の皆様の容姿は、確かに我々地球人種とは大いに異なる点があります。しかしながら我々は受けれる下地があります」
「……どのような下地で?」
先ほどまでの友好的な空気と打って変わって警戒感を露わする。
オガタがその程度で引き下がるはずもない。
「我々の国家は既にいくつもの他種族と交流を重ねております。この銀河内だけでライラバル星系連合のライン人。ライン人は我々人類と非常に近しい進化をしておりますが、我々の腕が2本に対して彼らには4本あります。次に大マゼラン銀河の大マゼラン共和国。大マゼラン人は地球における爬虫類か小型の恐竜から進化したようで、表皮は鱗で覆われています。他にも小マゼラン銀河内の多数の種族。水棲生物である鯨から進化したような種族、マーメイド人。植物でありながら知性を持ち対話が可能なドリアード人。地球人類と同じように猿から進化した可能性が高く、極寒の惑星に適応するために毛深く進化したイエティ人。他にも鳥型知的生命体や昆虫型知的生命体など……人類は既に、多種多様な種族と接触を果たしています。それに……」
「それに?」
「あなた方の容姿は人類にとってみれば、画面の中のキャラクターが現実に出てきたようなもので、むしろ好感度はかなり高いです」
オガタ自身の本音を交えた言葉であった。
だからこそ相手の心に響かせる力強い言葉となる。
「……貴国の言葉を借りるならば『郷に入れば郷に従え』ですかな。そこまでおっしゃられるなら、わかりました。ご相伴に預かります。こちらからは私含め4名ほどを連れて行かせていただきます」
「ありがとうございます。では料理長に早速準備させます。ただ準備が整うまで、少々時間がかかります。その間に、余興をひとついかがですか?」
「実はわたくしも提案したい余興があります。恐らく、オガタ准将と同じでしょうが」
既に送信された情報を閲覧したのであろう。
上機嫌な声だった。
これにはオガタも喜ぶ。
「ではやりましょうか。真のエースパイロットを決める模擬戦」
「えぇ。うちのエースは一筋縄ではいきませんよ」
画して、両軍を代表するエース同士の空戦が決まったのであった。
予定を1時間後として、一応は総司令部へとこれらのことを報告すると、総司令長官からは「その程度なら問題なし」と返答を得る。
M-9Aの性能としては一応は新鋭機となっているが、後継機に恵まれなかったからであり、既に初期型が導入されて30年近く経っている。細かいアップデートや改良は逐次行われている物の、やはり陳腐化してきていたのも事実だ。
友好を結びに来たと銀河間連合がいう以上、「謎の大艦隊」の情報を含め、少々の軍事機密の漏えいは咎めないとのことだった。
少なくとも軍内では敵対よりも宥和の道を選ぶという指針であった。
というのもオガタからの報告もあり、謎の大艦隊と銀河間連合は別個という決定が下されたことにより、
銀河間連合と敵対すれば宇宙の上位者に対して二正面で相対するのを避けたいというのが真実であった。
「ではうちのエースは誰に……」
第4格納庫を訪れたオガタを、第47機械化空間機動歩兵連隊の連隊長代行となってしまった山賊顔の男、マッカラン少佐が出迎えた。
連隊長が急病でエクセリオンから下艦し軍病院に搬送されていた中での緊急出港となったため、海賊討伐などの功績を認められて少佐となったばかりのマッカランが最上位者となり、連隊長代行を押し付けられていた。
彼の胸にはつい昨日届いたばかりの少佐の階級章が縫い付けられている。
「うちのM-9Aのエースといえば、空中の殺人者……もとい、ニア曹長しかおらんですな」
「だよなぁ。補充された中でも確かにエースクラスはいるようだが、彼女に比べたら……」
「どれも霞ますな」
うーんと悩み始めるものの、妙案は出ない。
確かに他にも数名のエース級はいる。
F-77戦闘機数機をM-9A1機で相手できるようなM-9Aパイロットが数名いる。
しかし、ニアであれば10機相手取っても勝利することが、多数の模擬戦やシミュレータで導き出された事実であった。
「マッカラン大尉殿。お呼びでしょうか?」
「まだ呼んどらんぞニア曹長。それとだな君と同じように、私も昨日付で昇進したんだが……」
「し、失礼しましたマッカラン少佐!」
「来てしまった以上は、もう決まりでしょう」
「……適任者は他に無し、か。いいだろう。ニア曹長。特命を与える」
特命を与えるとオガタは格納庫から出て行った。
この場に来てしまったことにニアはすぐ後悔する。
まさか異星人との余興とはいえ一騎打ちの模擬戦をやることになるとは予想だにしない大抜擢だった。
プレッシャーにより壁際にうずくまり微動だにしなくなったが、自律思考型ロボット……PAZUはそれを即座に見つけるとニアに近寄って「うまくやれば艦長からの好感度アップ間違いなし」と言い残してそそくさ立ち去っていった。
ニアは一瞬で気を取り直し、愛機に向け走り出したのだった。
次話更新予定は今月下旬以降になります。
感想などは励みになるので、お待ちしております!
無責任艦長タイラー を現在視聴中。
うん……オガタは責任感のあるタイラーだな(つまり後半のヤマモト大尉……?)




