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第30隻目 使節艦隊は初接触を実施する!(中編)

前、中、後

の3編に改めました。

膨大な情報というのは、電算処理においては機械そのものを破壊しようと殴ったりするよりも、よほど驚異的な暴力となりえる。

銀河間連合独立調査艦隊より送られてきた銀河間連合の歴史や言語そのものは勿論のこと、星系や科学、文化や様々な思想書や宗教。更には各銀河級国家の歴史や言語や文化などなどを、全て64K画質相当の映像で送られてきたのだ。その情報量は10YBヨタバイトの10乗という天文学的情報量であり、これを一度に送信され処理落ちせずに済んだのは、81式量子演算機を積んだエクセリオン級がその場に複数あったためであろう。


「オガタ准将。先ほどは失礼しました。こちらの不手際で、その……情報をすべてそちらに送ってしまった」


「なんとかなったので、お気になされず。ですが、おかげでマンダ司令の言葉がよりわかりやすくなりました」


結果論だがすべての情報を処理しえたのだから万事良しと為すことで、古式ゆかしい処理落ちを狙ったサーバー攻撃のようなこの事態を丸く収めることした。

これを攻撃と捉えるのは容易だが、情報を処理する過程で銀河間連合の軍事機密にあたるであろう情報も収集できていたので、マンダの言葉に嘘はないと思うに至ったのだ。

事故を装った電子攻撃にしろ、わざわざ地球帝国に有益な情報だらけの情報を送りつける理由は銀河間連合にはないはずだからだ。


「そういっていただけるとありがたい」


「では、改めてご用向きを伺っても?」


「はい。銀河間連合は地球帝国に連合への加盟を呼び掛けに参りました」


「それにしても……1000隻以上の戦艦を引き連れてですか」


いまだレーダー情報では1000隻の艦艇がある。

どの艦も機関を停止させているが、これほどの大艦隊を相手に出来るほどの戦力を宇宙軍は持ち合わせてなどいない。

動きだせば即降伏である。


「失礼した。もしも貴国が好戦的な種族であった場合、我々が最低限の自衛を行えるだけの兵力が必要でしたから」


「なるほど。確かに、初めての地に行くときは可能な限りの準備を行う。当然のことですな」


「わかっていただけて幸いです」


「マンダ司令。しかしそれは好戦的な種族であった場合は、制圧可能なら制圧するということでもありませんか?」


サイジョウあたりは「相手を刺激せんとってください!」と抗議しているが、オガタはどこ吹く風であった。

オガタの指摘にわずかにたじろぐような声が聞こえる。ノイズに近いものだがノイズキャンセラーが正常に作動しているので、それは確実にマンダの口から洩れる声だった。


「……するどい指摘ですが、その通りです。ですが、貴国にはその必要はないようです。それは、我々にも甚大な被害がでるでしょうから」


「といわれますと?」


「あの情報量を処理可能な電算機がある。それは我々と同程度かそれ以上の科学力を持たれている様子ですから」


あっけからんというマンダからの通信には「司令何口走っているのですか!!?」という言葉が混じる。

サイジョウは頭を抱えながら、その声の主に深い共感を感じた。

奇しくも、双方のトップが非常によく似た性格であり、同じような苦労をしている同志がいる。

声だけしかわからないが、彼とは気が合いそうだ。と、彼女は胸中にて呟く。


「先ほどの情報の中には我々の軍事機密なども多数含まれておりますので、嘘ではないと分かっていただけるかと思います」


「まだそれは内容までは確認しておりません。しかしながらマンダ司令。そのようなことまで話してもよろしいですか? 使節艦隊司令とはいえ、私は一介の軍人にすぎません」


「ならば私も調査艦隊司令とはいえ、一介の軍人です。お互い同じでしょう」


そういって同じタイミングで互いに笑い始める。


「では、私は一度本国に連絡を取りますので席を外します。こちらからは機密に触れない程度ですが、我が国の情報を一部開示しますので、観覧して過ごしください」


「承知しました。ご配慮痛み入る」


両者の通信が途絶えると同時に、オガタは参謀としての側面の顔を発揮する。


「通信士。総司令長官に繋げ」


「はい。総司令長官に繋ぎます。繋がりました」


すぐにつながった総司令長官との通信。


「こちら使節艦隊司令兼エクセリオン艦長のオガタ准将。地球標準時より5分前、アンノウンと接触。アンノウンは『銀河間連合』に所属する調査艦隊と名乗りました。指揮官はアーデル・マンダ。彼らは地球帝国を銀河連合に加盟を呼びかけるためにきたと返答しています。現在のところ敵対行動は認められず」


「こちらもエリス分屯基地経由で見させてもらっている。ただ、膨大な情報が恒多無を通してエクセリオンに送られたようだが、どういうことだね?」


「はい。どうやら先方のヒューマンエラーによる誤送信らしいですが、使節艦隊の全艦の量子演算機によって処理を完了しており、いつでもそちらに転送可能です」


「待て。個別に送ってくれよ。この司令部は81式が2個しかない。処理落ちされてはかなわんからな」


元々各指令部に設置するために設計された81式だ。

とはいえ、それが10個近くある調査艦隊ですら処理落ち寸前になった情報量だ。

幾何か情報をコンパクトにしたところで、限界があった。


「了解です。それと居住惑星付近に彼らを案内するのはいささか問題があります。正式な使節団を本国より派遣願います」


「私としては、准将にしてもらってもよいのだが……」


参謀課程を修了した者は、そこそこの世渡りや政治の仕事も学んでいる。

言外にそれをチラつかされるものの、オガタは軍人らしい返答をする。


「……総司令。軍人が政治を行うのはご法度では?」


「それも確かに。ただ急なことだ。正式な使節団派遣に1日、いや12時間ほど時間を稼いでくれ」


「わかりました。その間を持たせることくらいはします」


「では期待する。他に報告事項はあるか?」


総司令の言葉でオガタは一つ思うことがあったのだ。

相手が20万隻も擁する艦隊で、先遣隊がわずか1000隻。それも独立調査艦隊と名乗っていることに違和感を感じていたからだ。


「報告ではなく、訊ねたいことがあります」


「なんだね?」


「アンノウン本体の動向は?」


「さきほど、1000光年ほどワープを行った。このペースだとあと1年ほどで地球に来るだろう」


「了解しました」


「では切るぞ」


通信が切られる。

オガタは受話器を置き、眼前のスクリーンに映る銀河間連合の艦船を見る。

その艦影のどれもが、アンノウンの艦艇とは符合しない。

もしかしたら、未確認の艦艇だったのかもしれないが、それでは不自然すぎることに気付いた。。


「それにしても、情報部もそれほどでもありませんわね。アンノウンのサイズを過小に見ていたなんて」


ミッシェルは一つの山場を終えたためか、優雅に紅茶が注がれたカップを傾けながら、のんびりとしていた。


「ミッシェル船務長。中央情報局のデータベースからアンノウン艦艇の静止画をすぐ引っ張ってほしい」


「軍の情報部ではなく、国の情報局でして?」


「情報部を疑うわけではないが、精度を上げたい」


「オガタ准将の頼みとあらば、すぐに致しますわ」


ソーサーにカップを置きつつ、彼女はルンルン気分でデータベースの閲覧手続きを始める中、オガタは艦隊に臨戦体制維持を命令した。


「俺の予測が正しければ……」


オガタはぼやきつつタバコを一本咥える。

サイジョウがすかさず火を点ける。


「ありがとう」


「どういたしましてですぜ。にしてもオガタ准将は一体何を警戒されてるのです?」


「情報部は主力クラスが3000m級。最大のもので8㎞クラスと分析していた。どの画像もかなり画質が悪くてな、ほとんどモンタージュだ。だが、艦のサイズまで異なるってのは……情報部がそこまで無能とは思えん」


吐き出される紫煙に感情を乗せつつミッシェルを待つ間、同時並行的にもう一つのことを考えていた。

12時間も場を持たせるのにはどうすればよいのか。

いくつか思いつく中で、一つ余興としては最高のものはなんなのか。


(お互いの艦載機のエース同士を戦わせればどちらが勝つのだろうか……)


ざっとであるが銀河間連合の軍艦のデータを並行的に閲覧していたなか、艦載機の欄が目に留まっていた。人型機動兵器が艦載機の主力であり、スペックは地球帝国主力人型機動兵器「M-9A」を若干上回る程度であったためだ。

そうこう考えている間に灰皿も差し出され、今まで以上にサイジョウが気が回ることに気付く中、ミッシェルがティーカップを片手に優雅に一啜りする。


「データベースへの閲覧許可下りましたわ」


「思ったより早いな」


「丁度、合鍵を作っていたのですわ」


「……軍隊刑務所に行きたくないなら即刻、消去するように」


なんのために情報局のデータベースの合鍵を作ったのかは知らないが、バレる前にさっさと消させる。

だが合鍵を消去させる前に、オガタはデータベースの機密情報をありったけ脳内に記録していくのは忘れない。


「情報部とよく似ている。むしろ情報部より細かいな」


情報局のデータベースにある謎の大艦隊の艦艇は、情報部よりも正確だった。

銀河間連合の艦艇が前方への火力投射を前提に設計されているのと違って、謎の大艦隊の艦艇モンタージュは全方位戦闘が前提の楕円球に近い造りということがよくわかった。

エクセリオンが無勢で多勢を相手取ることが求められたため、全方位戦闘が前提として設計したオガタだからこそその設計思想の違いを一瞬で見分けることができた。


「おっとあと20秒ほどで気づかれますわ」


「すぐに離脱。痕跡を残すな」


「私を誰だと思っておりまして?」


すぐに離脱を始めるミッシェルを尻目に、オガタは銀河間連合独立調査艦隊のマンダ司令に回線を開くように指示した。


(設計思想からして根本的に違いすぎる。銀河間連合と謎の大艦隊は別物だな)


己の疑惑を確信に変えつつ、オガタはその答え合わせを行う。


「こちらエクセリオンのオガタ准将です。マンダ司令にお話ししたいことがある」


限りなく正当に近い答えを持つのは、銀河間連合独立調査艦隊であった。

宇宙:SF部門、日間4位、週間3位、月間4位、四半期3位となっております。

皆さん読んでくださってありがとうございます。

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