第27隻目 男どもは作戦を建てる!
何とか18日に投稿できました。
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チョウに呼ばれて機関室にオガタは向かう。
多数の異性に好意を寄せられるこの『異常』を鑑みて、一時戦略的撤退を選択した。チョウの助け舟に乗ったのも、オガタにとってまさに渡りに船だった。
またこの不確定要素が多すぎる状況というのは、演習などの状況において稀に発生する。
敵状不明、勢力不明というのは戦争において尤もあってはならない状況だ。
しかしながら、今回は敵状(好意を寄せる女性陣)が明確なだけまだマシであったかもしれない。だが、好かれた理由が皆目見当がつかないでいた。オガタからすれば部下達には男だろうと女だろうと分け隔てなく接してきたつもりであるからだ。
1から100まで教え、間違っていれば指導して、正しければ褒める。そして仕事ぶりを認めて、仕事を任せ、最後には信頼できるようになるまで育てる。前世より信じる山本小六の名言を実行し、まさに理想的な上官を務めてきたのだ。
故に、ただ彼は愚直なまでに己に期待される仕事をこなしてきたにすぎない。
さらに言えば、オガタの前世含めての年齢を考えれば、サイジョウ含めて昆孫に近いほど年下である。
恋愛感情めいた感情などはあるにはあるにせよ、寿命という概念が忘失したオガタにとって「そんな感情もあるかもしれない」といった忘れかけていた感情であった。
とはいえ、とある事故により脳を生体コンピューターとして、さらには肉体を作り直したとはいえ、肉体年齢的には30台半ばくらいの男である。まだまだ元気であるわけで、若い異性に興味が無いわけでもない。
しかしながらそれは肉体から精神に影響されるものであって、オガタという知性そのものが欲する欲ではない。ましてや相手は部下である。彼女達から好意を寄せられているのも理解していたが、自分自身がそれに応えるのは『謎の大艦隊』に関する問題が解決してからでも良いとさえ思っていたのだ。
だが、まさかああも直截な問いかけをされるとは夢にも思っていなかった。
止めに、皇太子である天羽が女性であることが判明した。これにより、オガタが持つ片寄った恋愛知識など役に立たず、茫然自失となってしまったのだ。
若さゆえに猪突猛進ぷりにオガタは忘れかけていた若さという素晴らしき青春を思い出し始めていた。
そうこうしているうちにオガタは機関室にある機関長の部屋、チョウの執務室に入った。
ノックもそこそこに扉を開ければ、つい最近見たばかりの面子も含め、部屋は男だらけである。
「ようやく主役がお出ましだ。つーことでだな、これより経験豊富な我々が恋愛指南を准将閣下に享受します」
何が始まったかと思えば恋愛指導であった。
面子は全員既婚者か彼女がいる者。もしくは女をとっかえひっかえしてる噂のあるチャラい男などである。
中には軍に入る前はホストの仕事をしていたという艦内有数のモテ男もいる。
その数計23名。
明後日の出港に備え、午前訓練のみに終えたにも関わらずこれほどの人員がオガタのために時間を割いたというのは、オガタの人徳を表しているかもしれない。
「先に言っときますが、本来ならあんなことが起きる前に准将にはこの恋愛指南をしたかったのですが……一歩遅れたようで、申し訳ない」
「そんなことはない。みんな、ありがとう」
オガタが感謝の言葉を述べると、チョウはにんまりと笑った。
チョウ含め、多くの者たちがオガタのどっちつかずな態度にやきもきしており、それが今回の指導に繋がったのだ。
「では、准将が受けてくださるっつーからには、本気でいきやすぜ。ではウチダ兵長、今回は君が講師だ」
「了解しました。ではこれより先は私、ウチダ兵長が講義を実施します」
ウチダと呼ばれる男に、オガタは見覚えがあった。
脳内データベースにアクセスしてというわけではなく、ストレージとでもいうところにその顔があったからだ。
「お忘れかも知れませんが、准将が機関室を見学された際にチョウ中佐に叱られていたのが私です。よろしくお願いします」
「あの時のか。覚えているさ」
オガタが覚えていたのはチョウに指導されていたあの時の若い兵が、このウチダだったからだ。
「とまぁそのあたりは兎も角として……まず准将閣下。今回のでわかったでしょうが、どっちつかずというのは最悪の悪手です。それも女性陣が結託して、准将に迫っているともなれば尚更です」
ウチダの言葉がオガタの心にグサグサと刺さる。
今までそんなことは気にせずに仕事ばかりをこなしてきていたことが、完全に裏目に出ている。
要はその手の経験が不足しているのだ。
オガタに結婚経験がないわけではない。前世では結婚している。
だが、それだってオガタが熱烈にアプローチしたわけで、女性から迫られるというのは未知の体験であった。
「今回のことでわかったでしょうが、准将はどの子か選ぶか、全部断るかしないと泥沼になります。ただ、一夫多妻の条件を准将がクリアしていますが……」
「ウチダ。それはちょっと違うぞ。あの皇族将校さんは一夫多妻に入れることは不可能だ」
「チョウ中佐の言う通りです。ですので、一人選ぶか全部断るかしか准将に残された道はありません」
「……それってすぐ決めないと不味いものなのか?」
「まぁ、すぐ決めないと不味いですね。特に天羽特務准将は……重篤です」
「重篤?」
言っている意味が分からないとオガタはオウム返しした。
ミッシェルがストーカー化して久しいが、まさかそれよりも重篤なのが天羽だとは到底思えないのだ。
ましてや、出会って半月も経っていない年端もいかない少女がおっさんといって差し支えないオガタに好意を寄せるなど、オガタからすればいまだに信じられないことなのだ。
「えぇ。調べた限り、サイジョウ少尉やミッシェル大尉は程度の違いこそあれ大人の恋の仕方をしています。あくまでも公私を分けています。ニア軍曹の場合は、異性として好きというよりも、純粋に慕っている。言い換えれば親戚の頼れるお兄さんだと思っているでしょう。ですが、天羽特務准将だけは、純粋に好きになっています」
「……そんな馬鹿な」
寝耳に水とはこのことだ。全くもって身に覚えのないことだ。今日初めて、天羽が女性であることを知ったというのに、まさかそんな少女から好意を寄せられているなど、青天の霹靂である。
「馬鹿な。と思われるやもしれませんが、そんな少女だからこそ、その気持ちは純粋無垢なものです。故に、盲目となっています」
このウチダなる男がここまでなぜ熱く恋愛指導できるのかは、それはもっとも女性の扱いに長けたホストから軍に入った異端児だからだ。夜の世界で様々な女性を落としてきたテクニックだが、時にいざこざの原因となる。複数の女性から言い寄られることも日常茶飯事となり、それが嫌になって軍に「逃げて」きたのだ。
その彼がオガタの状況を非常に危険だと認識したからこそ、この会が開かれたわけだが、主役たるオガタは、前世のとある記憶を思い出していた。
それは自らが高校生だったころ、とある女子に恋をしたことだ。
あの時、盲目的なまでに一心不乱にアプローチして、何度振られても諦めずに告白した日々であるが、遂には実らなかったあの思いは未だに胸中に渦巻いていることを思い出したのだ。
ウチダの話を聞いてみて、オガタは考える。
サイジョウやミッシェルを振っても、彼女たちは暫くすれば別の男性を好きになるだろう。
ニアであれば振るというよりも、その感情が好きではないということを理解させれば自然と上司と部下の関係に戻るだろう。
しかしながら、盲目的に恋をしている天羽はどうなるだろうか。
うまく断っても、必ず心に傷を残すだろう。
それが恋というものだ。
いまだに脳の錯覚か人間のみに許された感情か、科学的にもオカルト的にもどっちつかずなものだが、それは間違いなく、何年たっても心に穴を残したままになるであろう。
「恋は盲目……か。昔日の感情だな」
「准将にその気持ちが理解できるならば、選択は一つしかないように思えますが?」
「……とりあえず、この会の趣旨は理解した。それでも、あえて言おう」
「「「「「「?」」」」」」
一同が頭に疑問符を浮かべる中、オガタは声を張り上げた。
「軍人なれば、職務の完遂こそが総べて! よって、保留とする」
「は?」
「准将がいったなら仕方がない。解散だ」
「でもチョウ中佐……」
「チョウさん、これじゃ独り身野郎がいつ准将を殴りにかかってもおかしくないっすよ」
「あんな可愛い子たちより軍務が大切って……」
「この人でなし……」
好き勝手言われる中、オガタはさっさと部屋を出た。
久々に渦巻く気持ち。胸をチクチクと刺す痛みを忘れたかったが、オガタにとってこれこそがケジメの時だった。
タバコを吹かして艦内を歩く。
ライラバルだけでなく、己の身辺の後顧の憂いを断つために、彼は4名の女性を呼び出そうとした。
だが、その瞬間にそんな余裕は無くなった。
艦内に響く非常事態を知らせる警告音と警告灯の点滅。
「何が起きた!?」
すぐさま近くの艦内電話に飛びつき、艦橋に問い合わせる。
「太陽系外縁部にてワープアウト反応を観測!」
「まさか……」
オガタが問うよりも先に参謀本部より命令が脳通にて直接下された。
『ワープアウトせし謎の大艦隊の先遣隊を迎撃せよ』
端的かつ明瞭な命令が下されたのだった。
「第一種戦闘配置! 総員、戦闘配置に付け! これは訓練ではない。繰り返す、これは訓練ではない!」
手首のマルチデバイスから直接艦内放送を行いつつ、彼は急いで艦橋へと走った。
葛藤してますね。なんというか、懐かしい感情です。
うん。懐かしい(遠い目
次回更新は21日予定です。
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