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第25隻目 規律を厳守させよ!

本話より新章突入となります。というより、やっと本編に至ったという感じです。

今回も最初の1000文字ほどは長ったらしい説明文となりますので、ストーリーだけ追いかけられている方は、端折ってお読みください。


評価60名以上の方がしてくださりありがとうございます。

日間5位、週間3位、月間2位(執筆日時点)、ありがとうございます!

ただ、……まだ新しい宇宙戦艦はあまり登場しそうにありません。申し訳ありません。

「真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である」

ナポレオン・ボナパルト


「将校には四つのタイプがある。利口、愚鈍、勤勉、怠慢である。多くの将校はそのうち二つを併せ持つ。一つは利口で勤勉なタイプで、これは参謀将校にするべきだ。次は愚鈍で怠慢なタイプで、これは軍人の9割にあてはまり、ルーチンワークに向いている。利口で怠慢なタイプは高級指揮官に向いている。なぜなら確信と決断の際の図太さを持ち合わせているからだ。もっとも避けるべきは愚かで勤勉なタイプで、このような者にはいかなる責任ある立場も与えてはならない」

クルト・フォン・ハンマーシュタイン=エクヴォルト


オガタの前世よりも昔、優れた軍人達は同じような言葉を残した。

両者を要約すれば「無能な味方は不要」だと説いている。

実際の戦場でも無能な将兵が作戦計画に無い行動や規律違反を行ったために、展開する部隊が壊滅的被害を被ったり敗北を喫することがある。

夜間の戦場では大きな音や灯りというのは非常に目立つ。特にタバコを吸うことは厳禁とされる。

タバコを吸えば熱源と光源により位置を敵方に暴露し、自らの位置情報を伝えることになるためだ。しかしながら、その危険性を理解できない兵が夜間の戦場にてタバコを吸い、位置を特定されその地域一帯に砲弾が降り注ぐということもあった。

西暦2212年に発生した第三次世界大戦においてはタバコの熱により位置を特定され、超小型戦術核が投下された事例もある。これも喫煙規律違反が原因である。

他の戦争等においても無能な兵が浅はかな正義感を振りかざし、自部隊を壊滅状態に追いやる事例など枚挙に暇がない。

では愚鈍で勤勉な味方、もしくは無能の味方を減らすにはどうすればよいのか。これにおいては戦争書や練兵書よりも、経済書が有効である。

マネジメントにおいて追及されているのは経営管理することにより、会社に利益をもたらすことだけではない。その中には会社を成長させ更なる利益を得るために、組織を管理することが示されている。特に重要視されるのは人材育成のマネジメントである。

数多ある人材の全てが有能なわけではない。有能な人と平凡な人と無能な人の比率は2:6:2であり、会社では平凡な人を有能な人に近づける教育方法が重要視される。6割を占める中間層の能力引き上げにより、無能と言われた人でも、平凡な人くらいまで能力が向上するという調査結果もある。

軍においては無能はどこまでも無能と言われるが、無能を無能のままにして、それを切り捨てる行為は自らの教育能力の欠如の典型例である。

このことを最も早く気づいたのはアメリカ軍であり、WW2では非常にわかりやすい新兵教育マニュアルを作成し即席兵士(インスタントアーミー)を大量に戦地に送り込んだ。それは戦後も続き、遂には教育ノウハウを逆に民間企業に還元するという、逆転現象をもたらしたのは皮肉な話である。

だが、世の中にはどうしようもない、本当の無能がいる。

知的にも肉体的にもなんらハンディがないにもかかわらず、無能の極みとしか言えない者がいるのが現状だ。

三つ子の魂百まで。鉄は熱いうちに打て。とは言ったものだ。若く熱のある鉄であればまだ何とかなる。しかし、年老いて硬くなった鉄は変化の使用がない。叩いても砕けるのみ。

宇宙歴1183年の帝国宇宙軍においても不変の真理であった。


「なんだこれは……」


エイブラム会戦とよばれるライラバルとの戦争終了直後、エクセリオンはそのまま地球圏月面基地に直帰した。

月面基地には複数の量産型エクセリオンが停泊しており、オガタが使節艦隊準備隊長として訓練中の量産型エクセリオン「エクセリオン二号(江2)」を視察していた中、目を疑う光景を目の当たりにし言葉を失っていた。


「オガタ准将閣下。なにか問題でも?」


江2の艦長であるクズネツォフ大佐はオガタが何を言っているのか理解できないようだった。

彼は江2艦長に就任する際に上層部と掛け合い、乗員に子飼いの部下や自分の派閥に属している将兵でほとんどを固めていた。

だが、それゆえの問題があった。


「これはなんだ? ここは動物園か!?」


「はい? それはどういう……」


クズネツォフが言葉を続けるよりも先に、オガタに胸倉を掴まれ宙ぶらりんとなっていた。

悠に100kgを超える巨漢であるが、オガタは片手でそれを持ち上げたのだ。


「なぜ訓練中にもかかわらず、居眠りしたり化粧したりゲームしたり……貴様はどういう教育をしてきたんだ!?」


帝国宇宙軍であろうとなんであろうと、労働中に労働外の行動を取るというのは給料泥棒も甚だしい。

己が職務を全うせずして、なにが軍人か。

と、己に常々言い聞かせ、部下にもそれを命じているオガタからすれば許しがたい光景であった。

軍に限った話ではないが、労働の対価として賃金が発生するもので、無条件に金が手に入るわけではない。

この状況としては、同行していたサイジョウやチョウ、マッカランに天羽も止めに入ったりはしなかった。

彼らもオガタと同じく、怒りに燃え上がっていた。


「な、何か問題でも……」


問題だらけのこの状況だが、これが問題だとクズネツォフはわからないらしい。

それにオガタは腹が立ったので空いている右手に握り拳を作った。そこでようやくサイジョウが止めに入ったので、胸倉から手を離し、どうにか一線を越えずに済んだ。


「貴官はこれで戦場に臨むつもりか?」


可能な限り感情を抑制した声。その感情を殺すことさえ煩わしいと感じつつも、オガタは努めて平静を装う。


「ごほっ!ごほっ! エ、エクセリオンの実力を以てすれば、訓練など、ごほっ!する必要ないではありませんか」


咳込みながら答えた言葉。その言葉はオガタが必死に抑えていた怒りという炸薬、拳という弾丸を発射するための()()()を引かせるには十分だった。

これは誰も止められない。止めることは野暮である。一人を除いて目を瞑って知らぬ存ぜぬを通すと異心伝心した。



ゴツンッ!!



鈍い骨と骨がぶつかる音が響いた。

誰もが「准将やっちまったか」と思い目を開ければ、思わぬ人物が見事なストレートを振り抜いた姿で固まっていた。


「貴様。それでも帝国将校か! 恥を知れこの無能が」


落ちた軍帽を被り直しつつ、仰向けた倒れたクズネツォフを威厳に満ちた声音で一喝する。


「あ、天羽…?」


正拳突きの挙動半拍前で固まっていたのオガタだが、さすがに拳を降ろした。

天羽の突飛な行動により、オガタの怒りは一瞬にして冷めた。それはこのケジメを付けるための算段を始めたからに他ならない。


「オガタ准将。この場合の罰則は?」


思わぬ問いを投げる天羽だが、その目に怒りの炎が燃え上がっていた。


「え……っとだな、今回だと、一月15分の1の減給かな」


「了解しました。謹んで罰則をお受けします」


「待て、賞罰は人事部案件だ」


変なやり取りを始める中、殴られたクズネツォフは意外な人物からの拳だったためか、何が起きたかわからないといった様子で半身を起こして左右をキョロキョロし始めた。


「クズネツォフ大佐。今何が起きたかわかるか?」


「……私が無能だから殴られた。という認識でよろしいでしょうか?」


どうやら殴られたことで己が無能であるということは理解したようだ。

オガタとしては殴られたことを忘れてほしかったが、現実は甘くない。


「無能だとまでは言わない。だが、この現状を改めないと、私は貴官の艦長権限を剥奪しなくてはならない」


「……エクセリオンが最強であってでもですか?」


それでもエクセリオンが最強であることに疑念はない様子だ。オガタとしても最強であることは否定しないが、最強≠無敵である。

決して同義ではないのだ。


「最強を無敵にするのが訓練である。エクセリオンの性能を引き出すには訓練を行うしかない」


「……そう、ですよね」


クズネツォフが俯きなにか思考を始めた。


「天羽特務准将、帰ったら艦長室へ。サイジョウ、ゼニガタ少佐を連れてこい」


「准将、大事にしては……」


「部下が間違ったことをした。それを正すのも上官の務めだ。例え正しいことをしたとしても、方法を間違えれば悪だ」


「……了解しました。至急行ってきます」


「その必要は、ありません」


サイジョウが駆けだすのを制する声がする。

それはクズネツォフであった。

よほどいいストレートだったのだろう、その巨体をよろめかしつつどうにか立ち上がっていた。


「いま、私は天羽特務准将閣下に『指導』を受けた。それだけです」


「だが……」


「オガタ准将閣下。私は目が覚めました」


言いながら敬礼を実施しようとした瞬間、クズネツォフはよろめいて、倒れまいと足を動かしてよろよろと歩きだした。

オガタはそれを抱きかかえ、医療班を呼ぶように命令した。


「しばらくこの艦は私が預かる」


「しょ、承知しました」


そういうと気を失い、膝から崩れ落ちて行った。







「大変なことをしてくれたな」


「申し訳ございません」


艦長室にて天羽は特大の雷を落とされていた。

委縮した姿からはさっきまでの威風堂々たる面影は微塵もない。


「とりあえず反省文を本日の消灯までに3枚。両面に自筆でびっしりと。あとでクズネツォフ大佐の見舞いに行くように。つまずいた拍子に顎を強打して脳震盪を起こした。という建前だ。2日間の検査入院だそうだ」


「はい」


オガタとしてもあまり厳しいことが言い辛い。なにせ皇族だ。だからといって特別扱いすることとは別でもある。だからこそ、きっちりとケジメを取らせることにしたのだ。

だが褒めるべきことは褒めなくてはならない。そのこともオガタは知悉している。


「それと……よくやった」


「はい?」


「この場合褒めるのは良くないだろうが、天羽がやらなければ俺が殴っていた。だから、よくやった」


いつもの調子でガシガシと撫で始めたオガタだったが、今回ばかりは天羽は抵抗した。


「あ、頭を撫でないでください」


「おう。すまない」


そういってオガタが手を離すと、軍帽を目深く被った。


「ではすぐに見舞いに行ってきます」


「一応、ゼニガタを護衛につけていくように」


「ご配慮感謝します」


そういって敬礼を持って退室した天羽だったが、その頬が紅潮していたことにオガタは気づかなかった。


「ふぅ……やっと一本吸える」


そういってタバコを吸い始め、室内の異変に気付いた。


「……この観葉植物」


オガタが観葉植物に向けて銃を構えた。


「ミッシェル、次やったら江2に飛ばすからな」


「……すみません」


観葉植物からミッシェルが出てきた。

ついでに、パイロットスーツ姿のニア軍曹も出てきた。


「次い出来心でして……」


艦長室(ここ)からでていけーーーー!!!」


オガタの本日1番大きな怒号は100m先の第一士官食堂まで響いたといわれる。

後付け気味で一応は全ヒロインを一話に登場させました。

キャラクターが増えると会話が多くなり、書くのは楽だけどストーリーが進まないというジレンマが……悲しい。

クズネツォフさんのように、脳震盪を起こしている人が無理に立とうとすると、よろけて歩き回ります(実体験談)。必ず立ち上がらせないようにしてください。


次話投稿予定日は、また少し先の5月15日19時頃予定です。理由につきましては活動報告をお読みください。

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