第18隻目 艦隊型戦艦を設計せよ!
前半約4分の1ほど、また長ったらしい講釈(AK47〈第3隻目)の時とか、テラフォーミングに関する話〈第九隻目〉みたいに……)が入ります。
読み飛ばしていただいても、問題ありませんが、読んでもらえると歴史の勉強(今回は史実です)にも少しはなるので、嬉しいです><
以下お礼など
ブクマ登録件数600突破。週間ジャンル別ランキング(SF:宇宙)で5位以上を継続してランクインしております。
皆様のお陰です。本当にありがとうございます。
誤字、脱字報告もしてもらえて本当にうれしいです。
今後もよろしくお願いします><
訂正事項
第5隻目にてミッシェル中尉(現大尉)初登場時の記載が「赤毛」となっていましたが、金髪です。
また階級も誤っており、少尉としておりましたが、中尉です。
変更しておりますので、ご了承ください。
……あの時はそのあとも登場させる予定じゃなかったから適当に書いてしまってました。申し訳ありません。
戦争において、数とは力である。
西暦101年に起きたとされるダキア戦争は、まさに数の力によりダキアが敗北したといえる。
このダキア戦争は、当時ヨーロッパ地域最大の国家であるローマ帝国とダキアとの戦争である。
概略は省くが、101年に起きた第一次ダキア戦争では、ローマ軍15万に対しダキア軍4万というものであり、数の暴力によりダキア軍は破れた。その後停戦となるも、ダキアが停戦協定違反を繰り返したために、105年に再びローマ軍はダキアの地へと足を踏み入れた。その数20万という数であり、一方でダキアは1万5千と、10倍以上の兵力差だった。106年にダキアの王が逃走するもローマ兵に捕まり、自害したことによって終結した。
この戦争で語れるのは、数は力であるということである。
同程度の装備では、数というのは圧倒的なアドバンテージであり、兵士の数=強さであった。
だが、戦争において少数側が多数側に勝つことはままある。それは優れた戦術によって成し遂げられることが多い。しかし、隔絶した技術差により、ただ一方的に少数が多数を狩るという戦争もある。
アヘン戦争、及びアロー戦争がその好事例である。
アヘン戦争は西暦1840年から2年間。アロー戦争は1856年から1860年まで起きた、前者共に当時東アジア最大の国家である、清国の対外戦争である。
詳細な発生経緯は差し控えるが、アヘン戦争時の清国海軍は貧弱な武装のジャンク船(最も大きな船で300t程度と思われる)が主力であったのに対し、イギリスは当初6等戦列艦2隻を派遣し清国海軍のジャンク船を撃破。後に多数の4等以上を含む50隻の戦列艦と数隻の汽船を派遣し、清国を講話一択に至らせた。
清国のジャンク船隻数は記録に正確に残っていないが、100隻以上であったと言われる。
この戦争の結果こそが、技術の差が数にも勝る武器となる証左であろう。さらにアロー戦争ではアヘン戦争の教訓を取り入れ近代化を図ったはずの清国軍は、英仏連合軍1万7000により首都北京を占領されることになった。
数でこそ清国は一国家としては当時最大に近い兵を擁していたが、軍の腐敗や訓練不足。さらには近代化の遅れにより、以上の軍事的大敗を喫することになった。
では、数でも技術でも上回る敵と相対した場合、よほど優れた戦術でなければ、勝利は得られない。ましてや、長期的な戦略的視野で俯瞰すれば、まず勝利することは不可能である。
その典型的事例が1941年12月12日に開戦された大東亜戦争(太平洋戦争ともいわれる)である。
この戦争、初戦こそ日本軍優位に進んでいたが、アメリカ合衆国が戦争解決に向け軍事増強に着手したことにより、中盤以降はアメリカ軍優勢となっていく。
当初こそアメリカは軍艦や航空機、さらには兵士の質まで日本に一歩劣るものだったが、軍事増強に着手したアメリカは、週刊護衛空母や月刊正規空母と俗称がつくほどに大軍拡を続けた。徴兵された兵士をいち早く戦場に向かわせるための訓練マニュアルの作成や、イラストのついた武器取扱説明書などを考案した。
その結果、もともと人口の分母が大きなアメリカは大量の若者を兵士に仕立て上げ、さらには日本よりも優れた軍艦、航空機、戦車、小銃などを戦場に出し続けていった結果、日本軍の連続敗北となった。それでも日本が降伏しなかったたために、日本本土への空爆、最後には2発の原子爆弾が投下された。
この戦争は数でも質でも優れた者と真正面から敵対し、勝利することは不可能であることを証明したもである。
この傾向は、宇宙での戦争にも当てはめることはできる。
海賊艦隊と、エクセリオンという人類史上最大最強の戦艦の対決は、技術的格差によって成しえた戦果である。
だが、ここで問題がある。
たった1隻の最強戦艦でやや性能が劣ると思われる、20万隻もの大艦隊を撃破しうるのか。
答えは不可能である。
この差はオガタが生きていたころに例えるならば、イージス艦1隻でWW2時代のアメリカ合衆国海軍を撃破できるのか。という具合に不可能である。そういった題材の漫画もあったが、その作中においても数は暴力であることが記されているほどだ。
いかに優れた艦船でも、たった1隻では限界があるのだ。
そのことを頭の中で考えていたのは、艦隊型戦艦の設計を任された男である。
いつものようにタバコを吸いつつ、参謀本部から送り付けられてきたメッセージを一読して現実逃避していたのだ。
「バカかよ。いやバカか」
二段活用を無駄遣いしつつ、メッセージ内容をもう一度読んだ。
『試験艦エクセリオンをエクセリオン級戦艦のネームシップとし、同級戦艦の建造を開始する』
既に決定事項として、参謀級に一斉送信されたメッセージに嘆息を禁じ得ないオガタは、手元のコーヒーに普段は入れない角砂糖を匙で適当に掬ってコーヒーに投入。匙で掻き混ぜた。
「ふざっけんなよ。こんなの、俺のプライドが許せないぞ……!」
怒りにも似た感情が沸く中、コーヒーを飲んで「あんっま!」と、角砂糖を入れすぎたことに飲んで初めて気づく。
その甘さの衝撃で若干ながら昂った感情が落ち着き、今後の設計指針を考え始めた。
(艦隊型戦艦で最も不要なのは対艦隊殲滅兵器のマイクロウェーブ砲。これをオミットするとして、こんな巨艦を多数作るにしても何かを削らないと建造費が馬鹿にならないぞ)
脳内で数多の考えを起こしつつ、オガタは予想していたよりも事態が悪い方向に進んでいるのを肌で感じた。
(建造費だけじゃない。人員だって必要だ。エクセリオンの定数で約2万名。で、エクセリオン1隻で対応可能だろう謎の艦隊の隻数は4隻。だから予備戦力を含めて最低でも5万隻で人員が10億人…………)
「……これってほぼ全軍じゃねーか」
思わず声に出てしまった言葉が、彼の心中を的確、そして端的に表した。
そう、そんなのは無理なのだ。
(10億だぁ? 帝国軍全体の2分の1の兵数じゃねーか!?)
軍の総員こそ20億という途方もないような人員である。
だが、前線で活躍する航宙戦闘艦や補助艦艇に搭乗する人員は約12億名。これには各方面軍の正面戦力たる方面軍艦隊だけでなく、その隷下にある宙域保安隊(警察組織のようなもの)や機動兵器のパイロットを含めた数だ。
正規戦力だけでみれば、パイロット含めて10億名ほどだが、そうした場合、ライラバル星系連合を抑え込むための戦力は空になる。
共和国との戦争終結より100年。その100年という間に各星系での独立運動などが起きなかったわけではない。だが、比較的平和だったこともあり、この100年で確実に帝国の軍人数が減少したのは紛れもない事実だった。
エクセリオンはオガタが好き勝手に設計したあげく、費用対効果や人員省略などは完全に度外視した。あくまで艦内空間確保のために自律思考型ロボットを使用したのに他ならない。
その結果が、この決定だ。
オガタという一人の元技術将校にとって、耐えがたい現実だった。
人員をさらに減らし、自律思考型ロボットで置き換えるという手法もある。だが、それでは機能を十全に引き出せないということが訓練や戦闘を通して、オガタは知悉した。知悉してしまった以上、この決定が不服だった。
「准将、どうされたんですぜ?」
席を外していたサイジョウが帰ってきた。
彼女は机に乱れた様々な艦のホログラフィック表示、それをいじくりまわした挙句に原型をとどめなくなった不格好な艦を見て、オガタに何ごとがあったのか心配になる。
この准将が設計で行き詰るところを見たことはあっても、このように苛立ってる姿は初めてだったからだ。
「いや、すまん。ちょっと上の馬鹿がこんなことを言ってきてな……」
そういって参謀本部から送られてきた決定事項をサイジョウにも見せる。
「あ~……お疲れ様です」
「哀れむな……悲しくなる」
一読したサイジョウは、オガタがもはやこんなことで取乱していたのかと哀れみめいた感情覚えた。その表情にでてしまっていた。
「それなら分けてしまえばよろしくて?」
「大尉。貴女は一体いつから居たのですか?」
突然、金髪巨乳碧眼の美女が部屋の中に現れる……言わずもがなミッシェル大尉である。
「ふっふっふ。この部屋のこの観葉植物に擬態して准将が空想に耽っているところからばっちり、それはもうばっちりと見守っておりましたわ」
公然と3Dホログラフィックの悪用の典型例であるストーキングを公言するその女は、自信満々に己が案を提示した。
「わける?」
オガタはもう慣れたといわんばかりにそのストーキング行為を見なかったことにして、本題へと話を戻した。
下手に根掘り葉掘り聞けば、オガタは(ストーキング行為は兎も角)優秀な尉官を一人、営倉にぶち込む必要があるためだ。曲者だろうが変態だろうが、使えるものは何でも使うのがオガタの信条だ。
「はい。戦艦は戦艦。、空母は空母。そんでもって、これはこうで……こいつはこうで」
新しく表示された白紙のホログラフィックにいくつかのデータを入力していき、瞬く間に概観では全く同じに見える、数種類の艦艇が表示される。
1隻は戦艦型。全長5㎞ほどで、遠距離砲戦に特化した造りになっている。
1隻は空母型。こちらも5㎞ほどのサイズだが武装は最小限に絞り、機動兵器の運用や、補給能力に特化。
1隻は強襲型。空母の補給能力を無くし、機動兵器運用能力をわずかに低下させた替わりに、戦艦クラスの火力を有する。
1隻は重巡洋艦。1.5㎞ほどのサイズであるが、武装の数を減らしただけであり、戦艦クラスの砲撃戦能力を有する。そして同サイズでありながら、砲を小さく、多数に改めた汎用軽巡洋艦型と対空戦闘特科の対空巡洋艦。
そして更に小さくした300mサイズの駆逐艦型。こちらも汎用型と対空型がある。
さらに宙域保安隊などのワークホースとして、駆逐艦型をベースにしたフリゲートクラス。艦体は流用し、武装を減らしただけだ。
以上の艦種を提示する。
「ははは……はっはっはっはっはっ!なるほど!やるじゃないか」
「(いや准将が巨大戦艦馬鹿なだけじゃ……)いえいえ、准将ほどでは」
胸中でオガタの批判をちらりとしたミッシェルだったが、それはそっと胸の中だけにしておく。
だが密かにサイジョウがミッシェルにハッキングしており、無理やりこじ開けた回線で「私もそう思うぜ」と相槌を打ったため、彼女は驚き、目を見開いていた。
「ふむふむ。なるほど、大尉にしてはやりますぜ。だったら私も腹案があります」
そういってサイジョウも腹案を並べる。
オガタは使節艦隊という名の威力偵察の結果が無ければ、エクセリオン含む全ての航宙艦設計は机上の空論だとしか思えないでいる。そのためか、サイジョウの言葉を上の空で聞き流していた。
斯くして丸1日かけての戦闘後の保守点検や各消耗材の補給の完了報告がなされたことで、オガタ含めたエクセリオン乗員の休暇がいよいよ始まるのだった。
実は最初の戦争史を書くために、好事例となる戦争を探すのに1時間。ダキア戦争や、大東亜戦争はかなり早く掛けましたが、アヘン戦争は時間がかかり2時間ほど調べてました(執筆時間よりも長いです……)。
あと主人公であるオガタが巨大戦艦馬鹿なのはトップの所為です。これは決定事項です(((
次話は閑話として休暇編を投稿予定です。
投稿予定日は4月27日日曜か4月28日月曜の午後7時ごろを予定しております。
今後ともよろしくお願いします><