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第17隻目 新人パイロットは恐怖する!

やっぱ女の子が多いほうが、いいですねぇ~……

人型機動兵器であるM-9Aは第4格納庫が指定駐機場になっている。そこに機動兵器群のなかでも最後の最後に着艦し、指定されている駐機位置にて、妙な降着姿勢を取っているM-9Aがいた。デブリにぶつかった際に右腕が損傷し動かないため左腕だけを床につけている。その姿勢はまるで盤を眺めつつ待ったをかける棋士のような状態だ。

その無様な恰好をさらしたM-9Aのコックピットのハッチが開き、パイロットがロープを辿って床に降りる。

その様子を先に帰って来ていた上官や先輩等は笑って出迎えた。


「新人ならではのミスだが、生きて帰ってこれただけ上々だ」


「ですね。新人の二人に一人は初陣で死ぬって言いますからね」


励ましの言葉だが、いま帰ってきたパイロット、ニア・サーチェス軍曹は今にも泣きだしそうに、目じりに涙を浮かべていた。

その表情を見て、周りはどよめく。

まさか泣くと思っていなかったというのもあるが、彼らからすれば別の事情がある。

なぜならこのパイロットはまだ未成年であり、もしこれを艦内警務隊にでも見られたら誤解されると思ったからだ。

軍としての規律はやや緩い気風のエクセリオンであるが、艦内風紀に厳しい。

いままでM-9Aパイロット20名中8名が既に注意か警告を食らっているほどだ。それは模擬戦の勝敗でビール一本を賭けたことや、艦内で若い女性士官に『ナンパ』したこと、女性整備士などにセクハラまがいの挨拶(この訓練終わったら抱かせてくれよ……とか)をしていたためだ。自業自得ではあるが今までの艦艇勤務ではありえない程厳しいとパイロットは口々にする。

ただし、オガタにいわせれば「他所が緩すぎる」そうだ。

兎も角、この場で泣かれては未成年者への虐めとか、下手すれば淫行未遂などでしょっ引かれかねない。

ただでさえ目を付けられているという自覚がある以上、宥めすかそうと各々が声をかける。

だが、それも逆効果でとうとうニアは泣きだしてしまった。


「おいおい。軍曹どうした。生き残れたのがそんなに嬉しいのか」


「違う。違うんです。あたしのミスで、またあの地獄みたいな訓練をさせられると思うと、死にたいくらい辛いのです」


その言葉に、皆が思いだす。艦長がワープアウト前に言っていたことを。

と同時に安堵する、警務隊に見つかっても誤解されずに済みそうだ。と。

ただし、一人だけは違った。


「あー……あれか。まぁ、仕方ない。それが連帯責任ってやつだ」


第47機械化空間機動歩兵連隊第一中隊長であるマッカラン大尉は、ギャン泣きを始めてしまった部下を宥める。ニアだけのせいじゃない。俺たちがカバーできなかったのが悪い。一緒に訓練をやってやるから元気を出せ。という意図を込めて、彼なりに慎重に言葉を選んだつもりだった。

とはいえ、言葉足らずなうえに、髭面強面の中年の顔では効果は薄く、さらに笑い方が裏稼業を生業にしている人のようであり、全くの逆効果となってしまった。


「参ったなこいつは……」


頭を掻くマッカランだが、こうなってはどうしようもないと半ばあきらめた。

マッカランもあの訓練は最悪の一言に尽きるほど過酷であった、という点においてはニアと全くの同意見である。しかし、まさか死ぬことよりも訓練のほうが怖くて泣くとは思っても居らず、用意していた慰めの言葉は全て意味をなくしていた。

その様子を見ていた部下数名は「隊長怖がられてやんの」「やっぱ髭くらいは剃ったほうが良いじゃないですか?」などと囃し立ててきたので、マッカランは軍的指導を頭部に一発ずつ落として沈黙させる。


「マッカラン大尉。なにかありましたか?」


「これは艦長」


タイミングを見計らったかのようにオガタが現れ、総員が敬礼を行う。

ニアは緊張のあまり涙は一瞬で止まり、充血した目でオガタに敬礼していた。

オガタは軽く答礼し、楽に休むよう指示する。本来なら将官クラスの「楽に休め」とは基本教練における「休め」の姿勢を取ることを指すが、オガタがそのあたりを緩いことを知っている面々は、思い思いの姿を取る。


「実は、その……艦長の脅しにうちの新人がビビりまくってて」


「君が、対艦ミサイルか光子魚雷から分離したブースターにぶつかって、右腕を損傷した機体のパイロットかな?」


オガタの的確な指摘にニアはびくりと肩を震わせる。

一体どんなお咎めを食らうのか。オガタの言葉に戦々恐々とする。

出撃前に戦場が怖くてアンプル片手に震えていたが、彼女はオガタの言葉を思い出して震えだす。


「安心しろ。あくまで発破をかけただけだ。ただ、今後は空間把握能力向上に努めるように。マッカラン大尉に指導を仰ぎなさい」


予想外な言葉に、ニアは一瞬だけ自失するが、すぐさま意識を取り戻して言葉の意味を理解し、返事をするべき口を開いた。


「は、はい。精進します!」


ニアは安心して、大きな声で返事する。


「それと、女の子は人前で簡単に泣いちゃだめだ。男は簡単に絆される生き物だからな。な?」


オガタの言葉に数名のパイロットがそっぽを向く。

ニアからすれば怒られるとばかり思っていたが、まさか准将という雲上の人が自分に対してねぎらいの言葉を掛けてくれるとは思いもしていなかった。


「では自分は業務に戻る。とりあえずは第2種戦闘配置のままだが……ゆっくりしてくれ」


そう言い残してオガタは第4格納庫を後にする。

残された空間機動歩兵第47連隊第一中隊の面々は、生き残ったことを喜び、千年以上親しまれているコーラで祝杯をあげることにしたのだった。




「オガタ准将。彼女の戦闘記録見ましたか?」


「あぁ、今さっき見た。これは……すごいな」


彼は艦長室でゆっくりとコーヒーとタバコを愉しみつつ、サイジョウが言わんとすることを、小学生が使うような感嘆詞一つで表した。


「強襲直後にデブリにぶつかって右腕が動かない状態で、撃墜数7。おまけに軽巡クラスのメインスラスターを超振動単分子カッター(ナイフ)で破壊って……エース級じゃないか」


「戦闘に集中しすぎて中隊とはぐれた上に母艦も見失って、一時戦場行方不明者(MIA)になりかけですがね」


サイジョウはそういいつつ、コーヒーを啜る。

砂糖を入れすぎたらしく、「あっまぁ」と呟いた。


「それはこっちがちゃんと捕捉してたからどうにかなったけど……今後に期待だな」


「かなりドタバタの戦場でしたから、たまたまかもしれませんぜ」


「かもしれないな」


二人がまったりする中でも、エクセリオンは進んでいく。

現在の目標はラグーン宙域方面軍司令部がある惑星レンミッタに向かっていた。

ゆっくりとした時間。されどエクセリオンは光速の99%、亜光速の通常巡航速度である。

事象変動形成フィールドによる速度の書き換えを使用すれば光速の100倍で巡行可能だが、この速度は、限られた航路でしか発揮できない。

さらに言えば、距離はわずか30au。㎞換算で約45億㎞であるが、亜光速であれば4時間ほどである。

鉄火場を潜り抜けてきた彼らは、事後処理と補給と、なによりも休暇を求めてレンミッタにいくのであった。

次の更新予定は4月26日金曜の夕方ごろです(あくまで予定です)

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