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第0話 宇宙戦艦を創る者

宇宙歴1182年4月10日

地球を母星とした地球帝国小マゼラン銀河調査艦隊は、180年にも及ぶ長き時間をかけて、小マゼラン銀河内の調査を完了した。

調査の結果、知的生命体の存在する惑星が多数存在することが確認された。しかしながら人類とは共に歩むことのできない独自の生態を有する種族も多くある一方で、一部種族においては人類よりも千年前後遅れるものの、高度な文明を形成していることが判明した。

発見された種族の中には水棲生命体や植物型知的生命体が存在し、人類の今後の進化の方向性を一定の形で示す指針となった。

いまだ地上に縛られる種族が多い中、少なくない生命体群が地球帝国よりもはるかに遅れているものの、宇宙進出に成功していた。しかし、それ以上の宇宙進出を行わず、各々の母星にて更なる繁栄を謳歌するための発展がみられた。これらの文明圏においては、友好的な交遊が進められ、地球帝国の庇護下に入ることとなった。

そんな中でも突出した科学力を有する文明があったものの、敵対行動を取ったため、調査艦隊はそれらを鎮圧し地球帝国の傘下国になるよう条約を交わしていた。

他多数の調査報告結果を旧時代の統治者だった、旧日本国の天皇や旧英国の王などに報告された。それを以て銀河調査艦隊の主たる活動は終了した。

地球人類におけるその多大なる功績は末代まで讃えられるほどの偉業であるのは、誰の目から見ても疑いようのない事実だった。

180年という人類がいまだかつてない超長期間の地球外活動であるが、彼ら自身の体感時間は30年というものであった。


だが、収集された情報を精査する間に、一人の技術将校が異常を発見する。

それは200倍の速度で再生されていた動画データを脳内で投影していた時だ。

彼が宇宙の神秘と、人類がいかにちっぽけな存在なのだろうかと考えていたら、映像の端に複数の影が高速で通り過ぎたように感じた。

違和感を感じて、彼はそれを通常再生速度でもう一度見ることにした。

それは、やはり高速で移動する人工物のように見えたのだ。

彼は今度は100分の1の速度で、そこを拡大して再生する。

見間違えだろうという疑念は、すぐに消し飛んだ。


「な、なんだこれは……!」


おびただしい数の人工物……航宙艦の大艦隊である。

彼が初めに見た複数の陰というのは、大艦隊の一部集団の群れが複数あるというものだった。

彼自身の脳を媒体とした生体電算機はこのことをすぐさま保存して、地球帝国軍参謀本部特務室に送信した。

その大艦隊。彼の見立てでは3000mクラスの艦が1万はくだらないというものだった。

小型といえるか怪しいが、1000mクラスが5万隻以上である。

他の艦に隠れて視認できない物も含めれば、総数は20万以上。

映像データだけのため確信に至る自信がなかったが、彼は自らの行いを間違いなく正しい選択だったと考えている。

なぜならば、彼は技術将校とはいえ、現在は情報収集の魔窟と言われる情報部の所属でもあるからだ。

今までも、幾多の反乱を彼はその生体電算機と彼自身の行動力により退けてきた実績があったからだ。

だからこそ彼は酷く狼狽した。

今までとは全くもって比べ物にならない謎の艦隊は、彼を酷く弱らせるだけではなく、帝国軍の屋台骨を支える参謀本部さえも参らせた。

故に彼らは、今まで自ら封じてきた軍の拡張に着手する。

またかつては敵対関係にあり、現在は同盟関係を結んでいる大マゼラン銀河共和国に情報提供を行うなど、打てる手をすべて打った。


帝国軍参謀本部

帝国軍の魔窟城。とも称される参謀本部は、質素堅実をモットーとした造りだ。

外観は軍事施設ではなく「これはどこの省庁のビル?」と、軍事に疎い人間だけでなく、そこそこ軍事オタクと言われるものでも初見で言うほど、質素なつくりだ。

一切の遊びがない作りは、堅物の役所勤めが出入りしていると思うだろう。

だが見た目はどうであれ帝国軍参謀本部。一歩敷地に入れば、動体感知レーダーとスキャナーにより全身を隈なく調べられ、顔骨格認証、網膜認証、指紋認証まで自動で行われる。

もし関係者でなければ、MPミリタリーポリスがすぐに詰め所から全身武装で出てくる。

関係者であれば、そんなことにはならず、普通に入れる。

そんなことまで知っている人間は参謀本部勤務の将兵は少ない。知っているのは上層部のみである。

さて、そこで働く彼らは手当たり次第に大量の動画を視聴していた。

謎の大艦隊の動画? いや違った。彼らが見ているのは、それらが敵対的な相手だった場合に備えるための過去千数百年にも及ぶSF系アニメである。

何を馬鹿なと思うかもしれない。

だが、彼らは必死なのだ。もはや並みの発想では、謎の艦体を打ち破ることなど到底不可能なのだから。

故に、過去千数百年にもわたる人類の想像力から、現状に近似した作品を抜粋し解決策を見出すというものである。

だが、当たり前の話だが、数時間もしないうちに全員が「これはダメだ」と映像の再生を止めてしまった。

アニメなど、所詮は製作者の都合でどうとでもなるものだ。

たとえ、ストーリーの類は一切追わず、戦艦や機動兵器の類の発想だけでも頂戴しようとしたが、「これらだったら我々の軍の方がよほど優れている」という結論に至った。

だが、そんな中、一人の男は再生を続けていた。

その男こそ、最初に謎の大艦隊を発見した技術将校マサヒサ・オガタである。

彼は時代錯誤極まりない、一本の紙巻煙草から煙をたなびかせ、珈琲を啜っていた。


「参謀長。このアニメにでてくる兵器ならば、我が軍の戦艦よりも遥かに有意義かもしれませんよ」


「それはどういう……」


参謀長が言うよりも早く、マサヒサは見やすいように編集したデータを参謀長に送る。

それを参謀長も即座に再生したのだろう。数秒としないうちに朗らかな表情を浮かべた。


「素晴らしい。当時の人類の発想力には感服するな……」


それはとあるアニメ会社が、破産寸前の大博打で作ったOVAであった。

そのアニメは萌え要素や、他会社のアニメからのオマージュやパロディはあったものの、細かい設定と後半にかけての熱い展開により、アニメ会社を救ったアニメだった。


「私であれば、このアニメにでてくる戦艦の設計と建造をやって見せましょう。尤も、もっと実用的な物になりますがね」


「うむ。ではマサヒサ・オガタ技術中佐。貴官に、仮称名「江計画」を遂行してもらうおうと思うが、異議のある者は?」


参謀長の声かけに誰も拒否の姿勢を取らない。むしろ、多くの者が賛同している。

だがそれは、あくまで自分がその大任を任されたくないという逃げ腰の感情に起因するものであって、オガタに心から賛同する者など、初めから居ないだけだった。


「異議はないようだな。では、オガタ中佐、よろしく頼む。人員と予算はいくらでも工面しよう」


その言葉にオガタは歓喜する。

まさか自分があの憧れの戦艦を作れるとは!


そう彼は、前世の記憶を有して千年以上も未来に生まれた男なのである。

この話は、この男が掛ける宇宙戦艦への情熱と、戦争に飲まれていく世界を描く物語である。

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