第16隻目 正面戦闘を実施せよ!
さぁ、戦闘開始!
長くなったのと、内容的に前半と後半では別物の為、分割しました。
戦闘が開始され、反航戦の様相を呈した。
エクセリオンは戦闘時における最大速度を発揮するため第一戦闘速度に速度を固定した。この速度は光速の10分の3に達する。これは反航戦において、エクセリオンが確実に敵を屠るための、最大速度である。対して紅蓮海賊団は常温核融合炉搭載型航宙艦の最高速度である、光速の10分の2である。彼我の相対速度は光速の約2分の1、秒速換算で約150,000㎞という速度だ。
距離は約500万㎞。とてつもなく遠大のようであるが、光速の10分の5という速度で互いの距離が縮まっていくため、決して遠大とは言い難い速度である。エクセリオンの加速時間も含めて、両者がすれ違うまではたったの40秒。
このすれ違うまでの僅かな時間に、海賊は新たなに現れた巨艦に向かって猛然と攻撃を仕掛ける。エクセリオンも正面固定式レーザーや各種の背負い砲塔の砲口を指向し、攻撃を行っていた。
紅蓮海賊団は射線こそエクセリオンよりもわずかに優勢であるが、命中弾は疎か、夾叉すら得られないでいた。逆にエクセリオンはほぼ一方的に海賊艦艇を沈めていく。
正面固定式レーザーはその特性上、正面以外の敵には命中すらしない。だが、その極太のレーザーは敵を牽制するのには十分な火力である。一方、亜光速である超電磁砲加速砲やプラズマ砲は確実に敵方を指向し、命中弾を重ねていく。
共和国との戦争含め、これほどの相対速度での戦闘は人類初であった。今までの宇宙戦でも反航戦あるにはあったが、それは名ばかりであり、互いに停止もしくは微速状態での戦闘である。共和国も地球帝国も宇宙での戦闘といえば、会戦時に布陣し正対する以外は、もっぱら同航戦か巴戦といった戦闘方法が主であった。
理由は簡単明朗である。反航戦ではまともに命中弾を得ることなど、並大抵のことではないからだ。
例え相対速度を光速の10分の1にしようと、命中はほぼ不可能。であるならば、同航戦がベターであり、巴戦が次点となる。……もっとも、戦艦で巴戦などしようものなら重力制御が間に合わず、艦内は人も物も関係なくカクテルシェイカーに放り込まれたようになる。そのため、巴戦は砲艦や駆逐艦クラスの小型艦に限られる。
現在の相対速度「光速の2分の1」においては命中弾を得るのは不可能に近い。
にもかかわらずエクセリオンが命中弾を得られているのは、81式量子演算機による超高速計算により支えらえている。
この演算能力こそがこの戦いのカギとなる。
そんなことを知らない海賊は慌てふためくが、真空の空間は人の意思はおろか声も通らない。
だが、彼らも引く気はないらしく、僚艦が沈められていく中、距離が詰まったことも相まって、徐々にその砲火もエクセリオンに命中するようになったが、数学的事象変動域形成フィールドと対物・対光学電磁フィールドにすべて弾かれている。
エクセリオン内は命中弾を得られ士気が高揚する中、艦長席に座る男は訓練の結果が結実したことに満足しつつ止めの一手を下す。
「そのままつっこめぇ!」
オガタの号令により、エクセリオンは目に見えて増速し、直進した。
全ての部下が、演習によりオガタが行わんとする作戦行動を理解し、それを達成すべく各々の職務を全うする。機動兵器群は即座に速度を落としエクセリオンに張り付き、エクセリオンは火力投射を止め更に加速する。
その速度、光速の98%。亜光速であった。
そして500万㎞という距離の差はついになくなり、エクセリオンと海賊艦隊が交差。
加速したエクセリオンは、その巨大な艦そのものを巨大な攻城槌に見立て、海賊の艦隊の中心に打込んだのだ。
交差は一瞬だった。だが、その一瞬の一撃で、50隻近い海賊艦艇を屠り去っていった。
エクセリオンに接触したコルベットや巡視船などは、エクセリオンの数学的事象変動域形成フィールドと自己の同フィールドがぶつかる。時間としての単位としての1刹那に、わずかな競り合いが起きたものの、積んでいる演算機の性能とジェネレータ出力の違いにより一瞬で消し飛ばされ、その胴体に直接、エクセリオンのフィールドに触れる。その瞬間、存在そのものの事象を変動された艦艇は艦の大部分が消失し、そのわずかな残渣を宇宙に漂わせるだけとなった。
重巡クラスではどうにか即轟沈は免れたものの、大破状態であり、巨大な穴から貴重な空気が排出されていき、生き残った者は皆無であった。
更にはこの擦れ違う瞬間に、垂直発射式レーザーは全砲を一斉射した。エクセリオンが持つすべての垂直発射式レーザーのハッチが開き、800本の白色の線を宇宙にまき散らす。その線に触れた哀れな20隻ほどの艦艇を宇宙屑へと変貌させる。擦れ違い様だったために命中率こそかなり低いものの、帝国の主力戦艦の主砲の約8倍という大口径のレーザーは、重巡クラスの量子コンピューターでは処理不可能な負荷を数学的事象変動域形成フィールドに与えた。更に対物理・対光学電磁シールドさえも敢え無く貫通させ艦に直接刺さり、貫通し轟爆せしめる。
一方的な戦いは、これだけでは終わらない。
この状態で混乱をきたす海賊の艦艇は、各艦が好き勝手に動きだし、統制が取れなくなったのを見計らったかのように、それは襲ってきたのだ。
機動兵器群による強襲だ。
エクセリオンと海賊艦隊が交差するほんの3秒前に、彼らはエクセリオンから離脱し、エクセリオンが海賊を蹴散らした後の残党狩りのために滞宙していたのだ。
露払いとしてF-77戦闘機が先陣を切り、もともと少数だった海賊の対空用機動兵器はあらかた破壊される。
F/A-50F戦闘攻撃機とB/A-101雷爆機による対艦誘導弾と光子魚雷による攻撃は、烏合の衆と化し横っ腹をさらす海賊艦隊に、吸い込まれるように次々と命中していった。
さらには誘導兵器群などのあとを追随する人型機動兵器の切り込み隊による肉薄戦により、海賊に残されたごくごくわずかな艦隊直掩の機動兵器は一瞬にして壊滅し、生き残った艦艇には降伏を呼び掛けた。
演習時にオガタが良く行う「シップデサント」という機動兵器用の戦闘技法だ。
飛行機型はアンカーを打ち込み艦に固定し、人型は突起物などにしがみつく。一瞬でもタイミングを誤れば、宇宙に置いてけぼりにされる。だが、機動兵器のパイロットたちはそれに成功した。
シミュレーターとはいえ演習では、光速の90%で航行するエクセリオンにそれを行っていたため「演習よりも簡単」というのが、パイロットたちの感想であった。
これらの今までの常識を覆すような戦術により、海賊艦隊は滅びたのだ。
文字に起こせばなかなか文量となるが、降伏した宇宙海賊艦7隻を残し壊滅するまでの時間はエクセリオンが亜空間から現出後、わずか57秒という早業である。
この1分とかからない時間の戦闘は、軍の公式記録として残されることになる。
1分間撃沈数107隻
この記録は当面塗り替えられることはないと軍内で呼ばれると同時に、試験艦エクセリオンの凄まじい戦闘能力の一端を垣間見る記録である。
生身の人間にすれば、文字通り57秒間の戦いである。航海長やレーダー班などの面々は、本当に一瞬で戦闘が終わったように感じるほどだ。しかし、オガタやサイジョウといった自分の脳を生体コンピューターに置き換えている人間は、目で得た情報を超速で計算し、脳内でスロー再生のようにして状況を理解していた。
そこには常人では理解できないような、ごくわずかな、たった一個のミスを発見していた。
そのことを両者は脳通で情報を擦り合わせると共に、「演練の必要あり。されど、今後の成長に期待する」という認識である。
そのミスはたった1機の人型機動兵器であった。
「総員、戦闘終了。第2種戦闘配置に切り替える。あとの処理はラグーン宙域方面軍に任せる」
オガタが艦内放送を流し、この1分に満たない戦闘は終了したのである。
艦内は歓声に沸く中、唯一のミスをした人型機動兵器のパイロットは、第4格納庫に着艦したのだった。
あっけなく、終わるもんですね……
もしも映像化されたら、「オガタの脳内で見ている」っていうふうにしないと、何が起きているのかわからないうちに無駄に映像技術が使われて、無駄に金が掛けられて、そして見ている側は全く何が起きているのかわからない。っていう状態になるのでしょね……最近、そんなアニメ増えてるけど、あれはスロー再生しないと分からない=円盤買え!ってことなのかな?
と妄想してみる。
次話掲載予定は4月24日水曜日です。次回もサービスサービスぅ!