第14隻目 戦闘準備を実施せよ!!!
月間SF(宇宙)で3位。総合PV6万突破。総合ユニーク16,000突破。
本当にありがとうございます><
そしてお待たせしました!大好き艦隊戦!!!
の前段階です。
今回は少しだけ新キャラが登場します。名前はまだ出ません。
地球から共和国までの距離は約16万光年という途方もない距離がある。
ではその途方もない距離を、一体どのようにして通信しているのか。
それは亜空間を通して行われているのだ。
この技術そのものは共和国との戦争時に、共和国の艦艇を鹵獲した時に地球帝国にもたらされた。
量子テレポーテーションの類ではなく、亜空間を通して任意の地点に『電波のようなもの』を飛ばす方法であった。当時の地球帝国ではこの『電波のようなもの』を『超電波』と呼称していた。
それは当時の技術では解析不能に近く、そう呼称する以外に適切な呼び方がなかったのである。
原理はよくわからないでいたが、地球帝国はこの通信機材を『恒星間多目的無線機』。略称『恒多無』として全艦艇への配備をすることになった。
余談だが、オガタの前世での日本、陸上自衛隊で配備されていた野外通信システムにおける部隊装備品の名称は広帯域多目的無線機であり、略称は『広多無』である。更にさらに余談だが、部隊配備直後は些細なことでの故障などにより、部隊からは耐久性が低すぎるとして反発があったとされる。
話を戻し、共和国との講和により現在ではその全容が解明されている。
情報を付与したタキオン(超光速粒子)であるコランラド(共和国名称 直訳「光を超える粒子」)を亜空間内に流し、任意の地点で3次元空間に復帰させることで光を超越した通信を可能にしている。
その通信速度は地球と共和国本星までをタイムラグ1秒という驚異的なスピードである。
人類がなぜこれを解明できなかったのかは、タキオンを検出できる装置がなかったためである。
人類は亜空間を通してワープを行っていたにも関わらず、検出できなかったというのは当時の科学者達は揃って歯噛みした。
そしてこの通信の最も優れた点は、3次元空間でも亜空間でも通信可能であるということだ。
そこでオガタらは、その亜空間内でとある通信を傍受したのだ。
「艦長。ラグーン宙域方面軍所属艦艇からの救援要請を傍受しました」
「どういうことだ」
艦長席でブロック状の固形栄養食を齧っていたオガタに、嫌な予感がする報告が入れられた。
メープル味のこの菓子にも似た栄養食はオガタにとって懐かしい味だったのだが、それを齧るのを見ていたサイジョウは「艦長、そんなレトロな物を……」と、訝しい目で見ていた。
その固形食を食べるのを止め、オガタは救援要請のあったポイントを見る。
場所的にはオガタらが試験を行う予定の宙域よりも100光年ほど手前にある、辺境の中でも辺境の宙域であった。
「どうやら交戦状態のようでしてかなりノイズが酷いのですが、軍の緊急通信が使われています。状況からしてもかなり不味い状態のようです」
報告を上げる通信士はオガタを見て「この人、一体いつの時代の人?」と内心で疑問に思ったが、それどころじゃない状況なのでそれを胸に秘めた。
周りの視線にバツが悪くなったオガタは咳払い一つして、通信士に近づく。
彼の背もたれに手を置いて、通信士を見下ろす。
「その宙域か……どこがどいつと交戦してるんだ?」
「えっと、ラグーン方面軍第16艦隊が海賊と交戦しているようです」
「海賊? 海賊に手を焼いているのか?」
「いえ私は、情報を読み上げただけですので……」
オガタの気迫がこもった呼びかけに通信士は若干怯えていた。
さっきまで呑気な雰囲気で栄養食を齧っていたオガタが、一瞬にして老練の古参兵になったのだ。
入軍から10年となる通信士も、何十年もの長い間を軍に籍を置いて老獪な参謀に揉まれたオガタの気迫に気圧されたのは無理もないだろう。
「なに、たんに確認をしただけだ」
そういって通信士から離れ、脱いでいた軍服の上着を羽織る。
それにすっと腕を通し、軍帽を被る。
ただそれだけの動作だったが、周りの者はそこに居る男がこのエクセリオンの設計者であり艦長であり、自らの上官であることを理解した。
オガタはそのまま艦内放送の送信機を握り、通話ボタンをプッシュした。
「こちら艦長のオガタ准将だ。諸君。エクセリオンに集まった若人諸君。今、ラグーン宙域にて我らが同胞が危機に瀕している。これより、宇宙軍法第13条第2項における『友軍救援の義務』に従い、予定を変更して友軍の救援に向かう。諸君ならば、そこらの海賊など一捻りにできる実力を既に持っている」
艦内放送は全てに流れ、食堂室、機関部、格納庫、兵器貯蔵庫、そして便所まで。
艦内に余すところなく流れ始めた放送に、作業の傍らで、手隙の者も、便所で用を足していたものまで、耳を傾ける。
「そして諸君。この艦はまず沈まない。沈める手立てが俺でもわからないくらいだ。だから、安心しろ。少々のへまは連帯責任で前以上の演習を、そうだな。3日ほどで許してやろう」
この瞬間、艦内は「絶対にミスしてたまるか」という気持ちで統合された。
同時に「パワハラで訴えてやる!!!」という気持ちも同時に芽生えたのは必然かも知れなかったが、軍の規律上「違法ではない」ため、彼らの情熱は全くの無駄ではあるが。
ただし、オガタ自身もこれがパワハラすれすれなのは理解していたので、追加で「飴玉」も投下する。
「ただし、全くのノーミスでこなせれば諸君ら全員に帝国救援銅記章の上申と、方面軍持ちでの慰安旅行くらいは捻じ込んでやる。何、あの訓練に比べれば海賊相手の実戦など、寝起きの欠伸より簡単だ」
軽い笑いが起きたが、彼らの目には仄暗い炎が灯る。
ミスをすれば地獄だが、ミスなくこなせば天国がある。
「では命令を下す。ワープアウトを艦内時間で2分早める。海賊と第16艦隊の中間地点にワープアウトせよ。機関部、調整を実施。総員、第一種戦闘配置。即時戦闘行動を実施できるように、備えよ」
オガタの声が艦内に響き、再び慌ただしく動き出した。
レーダー班はいつでもワープアウトできるように全センサー系をアクティブにする。
機動兵器は総数僅か100機。各種20機ずつのごく少数だが、全機に武装が施される。
F-77戦闘機のハードポイントには78式長距離空対空誘導弾が取り付けられ、可変スラスターの稼働を確認していた。対空戦闘に特化した機体には20発もの長距離誘導弾がハードポイントに、胴体内のウェポンペイには12発の79式中距離対空誘導弾と4発の77式短距離空対空誘導弾が収められている。まさに戦域制圧戦闘機の異名を持つ機体だった。
F/A-50F戦闘攻撃機には長距離誘導弾の代わりに対艦誘導弾が翼の上下のハードポイントに付けられ、厳めしい見た目になっていた。
B/A-101雷爆機には近距離ミサイルを2発以外には光子魚雷と対艦誘導弾を計28発という対艦攻撃に特化した武装。
人型機動兵器である「M-9A」には対艦攻撃用の大型キャノンとバトルライフルという中遠距離型、「閃撃Ⅱ型」はバトルライフルと長身ブレードという近接特化型である。
各機が戦闘準備を完了させる中、パイロットたちも軽食を済ませるなどして、戦闘準備を整えていく。
パイロットのなかには初の実戦というものも少なくないが、それでも十分な訓練を積んだという中堅パイロットだ。
問題は、まだまだ経験の浅い初心者パイロットであった。
戦闘前用に撃つことが許可されている身体強化用のナノバイオマシンのアンプルを片手に、震えている新人がいた。
彼女はエクセリオンが初の艦隊勤務であり、不安で胸が押しつぶされそうになっていた。
そんなときに、とある自律思考型ロボットが歩み寄っていった。
「貴女は、怖いのですか?」
「えっと……はい。こわいです」
ロボットは優しく言葉を掛けた。
新人パイロットはそれに率直に答えた。
「私はロボットです。ですがそれでもわかることがあります」
「何がわかんのよ……」
「オガタ准将がキレたら、ヤヴァイです」
「あ……え……?」
彼女は初めてロボットを見た。
表情はわからないが、その声には真実味があった。
「だから生き残ってください。貴女の機体のメンテは私がしています。完璧です」
「わかった。わかったから、アンプルをぶっさそうとすんの、止めてくんない?」
ロボット……PAZUはアンプルをそっと返して、他の機体のメンテに向かった。
返されたアンプルを、今度こそ自ら意思で自らの腕に打ち込み、前を向いた。
新人パイロットはとあるアニメに憧れた。200mを超える鈍色に輝く人型ロボットに夢中になった少女は今、一人のパイロットとしてM-9Aに乗り込んだのだった。
各所で戦闘準備が終わるころ、試験艦エクセリオンはワープアウトする。
オガタはエクセリオン初の艦隊戦に、絶対の自信を持って臨むことになる。
200mを超える鈍色に輝く仁王立ちするマシーン兵器……作中での登場は、やっぱりありません。
というより出来ません……それをしたらマジでヤヴァイです。
また戦闘描写には自信がないので、次話で描く予定の戦闘シーンでは意見や感想が御座いましたら、遠慮なく感想で知らせていただければ幸いです><