第11隻目 エクセリオンの艦長になる!
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皆様、読んでくださりありがとうございます。
今回もまたマニアックなSFで展開していきます!
宇宙歴1183年4月10日。試験艦エクセリオンが竣工した。
兵装関連や戦闘指揮所、機関部などの主要区画の大部分が完成していたが、居住区域の半分近くが工事中となっている。
本来ならそれら工事を完成させてからの竣工となるが、時間がそれを許さない。
この日より1月ほど前、謎の艦隊が超光速航行に移行したという情報が参謀本部に齎された。情報源は小マゼラン銀河中心部のマニュア星系国家である。小マゼラン調査艦隊により地球帝国の傘下に入った国家である。
この情報は他の小マゼラン内の惑星国家からもいくつも齎され。情報の精度は確実となった。
問題は、謎の艦隊の超光速航行速度だ。現在推察される限り、光速の100倍以上200倍未満といった速度だ。
つまり、謎の艦隊は超光速航行が可能な航路を発見したということになる。
さらに残念な知らせが、その航路が地球帝国が使用していた小マゼランへの最短航路だったことだ。
それでも小マゼランから地球が存在する天の川銀河まで16万光年以上。1日に1光年進んだところで、400年以上かかる計算だ。だが、更にさらに残念な知らせが入った。
「空間跳躍だと!!? そんな……まさか……」
「事実であります。アンノウンは空間跳躍を行いました。空間歪曲型か並行宇宙型か、はたまた亜空間に潜ったのかはまだ判別できませんが、彼らは小マゼラン銀河外縁部から5000光年の距離を一挙にワープしました。これにより、太陽系到達までの残り時間は、まったくの未知数となりました」
帝国宇宙軍を支える屋台骨の一つを取り仕切る男は青ざめた表情を浮かべた。帝国宇宙軍参謀本部長であった。
彼だけではない。情報部長や各方面軍司令や参謀本部直属の特務艦隊司令などの面々も同じ表情を浮かべる。
彼らはホログラムにより出席しているメンバーであるが、その表情は金太郎飴のごとく似たり寄ったりであった。
いまのいままで亜光速でのんびりと航行していたアンノウンが、突如として相対性理論を無視した超光速航行を行い、さらには空間跳躍……ワープを行ったという事実に震撼する。
辺境の小国家には目もくれず、ひたすら太陽系へと向かってくる謎の艦隊。それが人類と同等、もしくはそれ以上の技術を有していることを、空間跳躍を行ったことにより証明された。
「我々に残された道は少ない。予定を繰り上げて、2月後には使節艦隊を派遣し、様子を見よう」
司令長官は渋々といった表情で決断した。
謎の艦隊の現在地については、地球帝国側は完全に掌握できている。超光速航行やワープといったイレギュラーが発生してはいるが、辺境国家群に常駐する監視艦隊や監視衛星などにより情報は逐一入っている。現状としてはまだ、余裕があるのだ。
「しかし、まだ試作艦は艤装が92%しか完了しておりません。錬度の問題もあります」
そこにとある男が反論した。
エクセリオンの設計を任された男、オガタ中佐である。
参謀本部長は「オ、オガタ君……」と部下の発言を諫めようとしたが、その弱弱しい声はオガタには届かない。
「ふむ。確かにエクセリオンはまだまだ艤装が不十分だな……ところで、この艦の艦長。いや使節艦隊の艦隊司令を私はまだ決めかねている。バレンタイン准将やプーチン少将あたりが適任だという声も多い。だが、私はもっと相応しい人物がいると考えている」
総司令長官はオガタを注視しながら、顎髭をなでる。
「であるならば、私の階級では分不相応というものです」
「では君の階級が相応しいものであれば、君がなってくれるのかい?」
参謀本部長が「オガタ君。頼むからこれ以上は止めてくれ」と耳打ちするが、もはやオガタの耳は総司令長官にのみ向いている。
各方面軍司令の面々の中でも「若造が」「貴様では荷が勝ちすぎる」と言っている者もいたが、オガタの耳には入らない。
だが、そんな中でも誰一人として大声で反対の声を上げられないでいるのも事実だった。
誰も経験したことのない7㎞超えの戦艦の指揮など、やりたくないのだ。
失敗しても自分の腹は痛まない。ならば誰かがやってくれるならやってほしい。というのが、正直な本音である。
数名の若い司令は目を輝かせ「だったら俺が」と言っているが、それは古参の司令に「お前では無理だ」と間髪挟まず否定されたりしていたが……。
「叶うのであればエクセリオンの指揮を、私が執りたいものです」
オガタはそう言い放つと、いままで小声で批判していた面々は一様に反発の声を大声で上げ始める。
だが、その反発の声を上げたのは中堅クラスの艦隊司令までだった。
古参の艦隊司令は、オガタ中佐の書類上の軍歴と、実際の軍歴が違うことを知っているのだ。
彼が自らよりもはるかに長い軍歴を有する、帝国宇宙軍最古参兵であることを。
それを知る彼らは、決して異を唱えられない。軍隊の特性上、階級といった序列が唯一の序列とされているが、それと同じくらい重要視されるのは軍歴の長さである。
着任したての若い少尉よりも、軍で何十年も飯を食っている下士官のほうが権力も地位も高いことがままあるのが、その証左である。
古参といわれる艦隊司令も年こそ60歳を超えているが、オガタに比べれば「やっと若鳥になった」という程度だ。
そのことを知っていることを、他者に知られること自体が軍機に触れるため、古参の艦隊司令達は反発する中堅以下を黙って横目でみるのみだった。
「よかろう。では、オガタ技術中佐を現時刻をもって大佐とする。また、エクセリオン艤装長の任を正式に委ねる。これは私、総司令長官の決定事項である。反対するやつはおらぬか?」
総司令長官の決定とあらば、いままで反対を唱えていた者たちも閉口せざるを得なくなる。
軍としての規律が行き届いた帝国宇宙軍では、上位者への反抗は誰もできない。上位者への反論や意見具申ならば兎も角、個人的感情で反対を唱えるなどすればよくて軍法会議。最悪、その場で命令不服従の罪で射殺されるのがオチだからだ。
この時だけは、軍の厳しい戒律にオガタは感謝した。
現世界に転生し、100年と少し。軍の規律の厳しさを恨んだことは多々あれど、感謝したのは初めてだった。
かくして、オガタは「技術」が抜けた大佐となる。技術士官は一個下の階級として扱われる性質上、実質、2階級特進となってエクセリオン艤装長の任を拝命した。
この昇進に沸き立ったのは帝国宇宙軍技術開発局第2研究室の面々であった。彼らはオガタの昇進にかこつけて宴会の準備を進めていたが、艤装長に就任したことにより多忙を極めるオガタがなかなか宴会に参加する時間すらも惜しい状況となって行った。
一刻も早い戦力化を望む上層部からの圧もあり、不眠不休で陣頭指揮を執り、艤装を進めていく。
とはいえ、設計の段階からオガタの意向を色強く反映していたため、オガタ自身は艦内を歩き回り、不備がないかのチェックをしていくのみだった。だが、7㎞以上の巨艦となればそれだけでもなかなかに時間がかかった。
だが、それらを一月ほどで終わらせて、残りの艤装は試験航海を実施しながら行うことを決定した。
かくして、4月10日に竣工したエクセリオン。艤装長としての功績を讃え准将へとオガタは昇進し、初代エクセリオン艦長の任を拝命することになった。
艦内の居住区の工事を進めつつ、定数の半分近い9740名の部下となる者たちが、エクセリオンに乗艦し、試験航行を行うことなった。
「こんな巨艦を、本当に俺の手で……」
オガタは真新しい艦長室の椅子に腰かけ、感動のあまり俯き加減で涙していた。
長年の夢がついに実現し、ようやく一息いれられた瞬間にとうとう感情のメーターが振り切れて、感動と喜びが涙という形で溢れてしまったのだ。
コーヒーを持ってきた副官は、これ幸いとばかりにそばに駆け付け、オガタの頭をなでる。
「オガタ准将。こんなことでなかんとってください。男なら、泣いたらあかんですぜ」
「そうですわ。オガタ准将の躍進はここでとまるわけでございませんもの」
サイジョウは自らの上司が男泣きするのを独り占めしようとしたが、金髪碧眼ナイスバディーのミッシェル中尉が開いた扉からこちらを目ざとく見つけ、割って入ってきた。
「あらあらミッシェル中尉。あなたはオガタ准将のことを『エロ親父』だとかなんとか悪態ついてたんじゃなかったかい?」
「おほほほ。それは気のせいですわ。それよりも男の涙を鎮めるには女の抱擁こそが一番ですわ。尤も、大尉に抱擁されても骨のゴツゴツとした硬さで余計に泣いてしまいそうですわね」
「准将。上官侮辱罪で射殺してもよろしいですかい?」
ショルダーホルスターから拳銃を抜き、スライドを引いて薬室に弾を込めつつ物騒な発言をする部下を見て、含んでいたコーヒーを噴き出す。
「受けて立ちますわ大尉」
それに対抗しようとレッグホルスターからリボルバーを抜こうとするミッシェル。
両者が凄腕のガンマンの如き雰囲気を醸す。しかしながら部下の流血事件は見たくもない。ましてや出来立てほやほやのエクセリオン初の死傷者が私闘でしたというのは、あまりにも滑稽すぎる。そのため、オガタは感動の涙を流すのを止めて、2人の乙女の見苦しい姿を止めることにした。
二人の拳銃を素早く叩き落として、二人の手を捻って宙で一回転。そのまま床に落下させる。それでようやく収まったので、改めてコーヒーを啜り「このコーヒーはMOTOKOだな」と呟くと、「モトコ? 一体どこの女ですの!?」と、失っていたはずの意識を一瞬にして戻ってきたミッシェルが食ってかかってきたのはまた別の話である。
清楚系黒髪貧乳かお嬢様系金髪巨乳か……え? あ、どっちも作者の趣味です(キリ
「見せてもらおうか。帝国の新型戦艦の実力とやらを」 by赤い彗星さん風