第8隻目 艦内空間配分で悩む!
週間PV(実質ここ4日で……)1万を超えました!
読んでくださりありがとうございます。
あまりにも嬉しいので、少し予定より早いのですが投稿します
(誤字報告ありがとうございます><)
試験艦エクセリオンの建造が進められる中、オガタは3Dホログラフィックの立体図面に向かって頭を悩ませていた。
立体図面とはありとあらゆる方向から外観や内部を拡大・縮小して、設計したものを「見える化」したものだ。
これは最初に大まかな設計を書き上げ、それを3Dホログラフィックにて表示することで、各種外観のディテールや内部の設計を煮詰めやすくするというのが大きな目的だ。これは宇宙戦艦に限らず、航空機や機動兵器、戦車、銃。民生では車や建築物の設計。個人単位では部屋の家具などに上掛けしたり、服飾の変更などにまでも用いられている。
ただし、服飾に関していえば、顔までも3Dホログラフィックで覆うなどして悪用した事件が多発した。酷い物だと成済まし殺人事件やテロ事件まである。そのため、現在は厳しい審査を通過した人だけが利用可能だ。
それらは兎も角、彼は艦内空間配分をどうするかで非常に悩んでいた。
これほどの巨艦を運用するともなれば、必要人員は3万人は下らない。全長7㎞を超える巨艦にも拘わらず、利用できる居住空間は限られたものになっている。
似たような問題は、彼の前世時代の地球でもあった。
潜水艦である。
潜水艦はその性質上、艦の兵装やエンジン、バラストタンクなどに非常に大きな容積を必要とされる。その結果、乗り組員は極小の天井高の3段ベットか魚雷の上に設けられたベットで寝るという過酷極まりない生活を余儀なくされた。
現在の宇宙軍の航宙艦では、下士官は12人一部屋、将校は4人一部屋(少佐階級以上は2名一部屋)と居住性は比べるまでもない物となっている。
だがこの試作艦では、そうもいえないのが実情だ。
ざっくり言えば、兵装関連の保守点検・整備・使用に不可欠な火器管理員。機動兵器のパイロットと整備士。艦内を速やかに移動するために運行されるリニア線に携わる整備士・運転手。戦闘指揮は艦橋兼CICで執るにせよ、各種兵科の専門知識を有する兵員。さらにはそれらを支える給仕や補給を行う支援部隊。そしてそれらをローテーションするための予備人員。そしてそしてそれら人員が休養をとるための休養施設の管理人などなど……。
つまるところ、これら膨大な人員の居住区域を確保することが困難な状況になっている。
既に武装の配置、そのための弾薬保管スペースや機動兵器の格納庫などは概ね完成し、残すは艦内になっているからだ。防護力を上げるために垂直照射式レーザーや、垂直式誘導弾発射装置などを主装甲の外側に設置したことが艦内容積の低下につながった。
3万人近い人員がただ寝て起きるためだけの居住空間を作るだけなら容易だが、そういうわけにもいかないのだ。
宇宙空間という隔離された環境で、体感時間にして数カ月。長ければ数年以上という長きにわたる航海を行うためには、一人一人がある程度のプライバシーが保証された上でストレスを発散できる空間でなければ耐えられない。先に上げた潜水艦であれば、長くて1年の航海とされている以上、我慢できるというものだ。だが、そうもいかないことが既に判明している。
それは銀河調査艦隊の報告書だ。
彼らは体感時間30年という人類未経験の超長期間、宇宙での生活を送った。
人が隔離された環境でどうなるかは、彼らの経験を以って人類は知ることになった。
まず、航海2年目で一部の兵員がストライキを起こした。理由は「プライバシーを保証せよ」というものだ。このストライキを起こした集団は若年層で、蛸部屋と称される一室12人という詰め込み部屋だったのだ。3段ベットで、個人の自由が著しく制限されていると主張した。彼ら自身が志願して調査艦隊に入ったわけだが、それでも我慢の限界だったようだ。その解決策が一人当たり、高さ1.3m×横1m×長さ2mの間仕切りで簡易個室化するというものだった。一部では不満がでたものの、どうにかストライキは終息した。
次に服飾の不満がでた。これは女性陣から多かったとされる。年中、仕事中だろうが休日だろうが同じ服装をしているのは自由への侵害だ。というものだ。その意見から、勤務時間外と休日に限り私服の着用を許可された。また、服飾センスのある有志がデザインをした普段着を、艦内売店にて販売された。
それらから数年が経過し、娯楽施設の拡張申請が出た。これにより、プールやスポーツジムが開設された。
航海が始まり7年目が過ぎたころ、多くの者が危惧していたことが起きた。「妊娠」である。男と女が同乗する以上、起きる可能性はあった。だが、本当に起きるとは思わなかったわけだ。それも年を重ねるごとに出生率が上昇していくありさまだった。艦隊司令は「やるなといってもやってしまうのだから仕方がない」と開き直り、完全予約制ながらホテルを設置した。さらに、生まれてきた赤ちゃんのためにいくつかの余剰空間を利用した託児施設的な物や、子供が艦内で成長する以上必要な教育施設の設立などを行った。更には家族部屋と称される居住区も設けた。こうした結果、帰還時には延べ1000人近い宇宙戦艦産まれ宇宙戦艦育ちの子供たちが地球の地に降り立ったのだった。
まだまだ細々とした問題や不満も多かったわけだが、こういったことが超長期間も宇宙空間に拘束されることにより生じることが判明している。
それでもこの程度に収まったのは、各艦がもともと航行中に機能拡張などのための余剰空間が広かったこと。乗り組員等が余暇の時間を利用して作成した映画やドラマ、小説、漫画、音楽、ゲームなどの作り手も、利用した兵員からも喜ばれる娯楽があったからかもしれない。
余談だが、それらの娯楽は地球圏では「アダイブ文化」として、今話題の注目作の数々となっている。
こういった教訓を生かした設計を、オガタはしなければならない。
「アンノウンの推定位置は割りだせてるから、航行期間は最大で3年内として……必要な物資の保管場所は余裕を持ってこれくらいで、ストレス発散のためにも運動施設や娯楽施設もこれくらいの規模は必要で……あーダメだ。これじゃ将校クラスまで蛸部屋だ!」
どれかを立てればどこかが立たない。それが艦内設計のジレンマだった。
戦闘力を重視した結果、それを運用するための兵の居住区域に支障がでてしまったのだ。
これが太陽系近傍で運用するならば、ここまで頭を悩ませる必要はない。長くても数カ月の航海。それでならば、兵も我慢できるから娯楽施設などをかなり割り切った造りにできる。
そうもいかないから、彼は咥えタバコで立体図面を睨んでいた。
紫煙が設計室を満たす中、サイジョウは珈琲を持ってくる。
「煮詰まってますね。なにか手伝えることはありますかい?」
「煮詰まっているというより行き詰っているって感じだよ」
彼は苦々しい表情で吐き捨てながら、香しい湯気を吸いこみ肺腑に行き渡らせてから一啜りする。
「うまいな。また腕を上げたんじゃないか?」
「中佐は世辞がうまくなっているようですぜ。ですが、私は淹れておりません」
「じゃあ、誰が淹れたんだ?」
彼は言いつつもう一啜りする。
確かに、うまいのだ。明らかに珈琲の淹れ方に心得がある人間が淹れたとしか思えないほどに。
彼が3口目を啜るときに部屋の扉を開ける音がした。
「中佐殿。その珈琲は私が淹れました」
その声音で彼は振り向く。そこには1体の自立思考型修理ロボットがいた。
胸部に「MOTOKO」と書かれている。それがサイジョウが命名した名前であった。
「……君が淹れたのかい?」
「肯定です」
表情筋などないロボットはいつも通りの顔。だが、声音には溢れんばかりの自信が乗っている。
その隣で「私が教えたんですよ」と胸を張るサイジョウだったが、オガタの目には映っていなかった。
「一つ聞くが、君は、いや君たちは新しいことを覚えて、それを実行できるということなのか?」
「肯定であります。私たちは新しいことを覚え、実行できる思考回路が存在します」
「……この珈琲みたいにか?」
「肯定であります。他にも、現在ではこの建物の保守点検や、清掃業務、一部の者は給仕業務にも従事しております」
オガタはここで一つの解決策を見出した。
だがそれは、彼にとって不安感を禁じ得ないものだった。
「もし仮にだが、戦艦に乗って、人間の兵士が行うようなことも、同じようにこなせるか?」
「肯定です」
戦艦で占めるスペースの約3割が兵員の居住区域である。これを圧縮しつつも、そのクオリティーは高い水準でなければならない。
だが、彼らが閉鎖環境で人と同じように業務を行いうるとなれば、話は変わってくる。
「10体ほど仲間をここに呼んでくれ。実験がしたい」
珈琲をくいっと飲み切り、タバコを灰皿に擦り付ける。
彼の頭の中で、画期的な人員削減術が浮かび上がっていた。
無限〇路で火力や装甲など重視したカスタマイズにした結果、必要人員が確保できなかった教訓を生かしています。(必要最低稼働人員1800人なのに1400人しか人員がいないとか…2直体制かな?)
はやく続編でないかな……(遠い目