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必中!フリスビー

 食後に、温かいコーヒーが差し出された。ミルクと角砂糖の入ったカップも。

 独特なデザインで可愛らしい、猫モチーフ?

 カップを置いて後ろに控えたメイドさんは、ウサギさんの耳と尻尾がついている。

 ファンタジーかつファンシー。ザ・異世界。

 名前はソ・フランさん。私付きのメイドさん。身長は150くらいだけども、ヒールのおかげで170近くある。透き通った金髪のボブで前髪ぱっつん。大きな瞳の色は空色。

 ふわりとしたエプロン付きミニスカートで、ピンヒールを履いているけども、うさぎさんだから体幹だか足の造りだかが違うのか、彼女個人のスキルなのか、美しく長い足を優雅に揃えて微動だにせず控えている。じろじろ見たら変態ぽい。が、つい視線を送ってしまう…。いやいかん。

 コーヒーに角砂糖3個を放り込み、ミルクをたっぷり注ぐ。このミルク味が濃くて甘くてすごい美味しいんだよなあ。この家が金持ちだからなのか、この世界が異世界だからなのか謎。

 …尻尾と耳を触らせてっていったら、やっぱセクハラなんだろうかな。パワハラ?ケモノハラスメント?

 そんな言葉はないか。多分しらんけども。

「失礼いたします」

「はいごめんなさい!すみません!さわりません!じろじろ見ません!」

 思わず手で頭を抱えて謝ってから、はたと気が付く。そうだ、もう脳内電波漏れは終わったのだ。

 別に頭にアルミホイルを巻いたわけではない。毛糸の帽子でもいいのかな、この世界だともっといい素材実際にありそうだけど…いやいかんすぐ思考が飛ぶ

 私に声をかけたフランさんは、いつの間にか私の真横にまわって、私が返事するのを静かに待っている。

「いや…ごめん。なんでしょう」

 フランさんは長い睫毛を瞬いて、にこっと微笑んだ。

 大きな瞳で私を見つめてきたので、私もついまじまじと見返してしまった。

 肌が柔らかそうな綺麗な金の毛で覆われている。めちゃくちゃ撫で心地よさそう…。

「めちゃくちゃじろじろ見てるじゃないですか」

「ギャー!」

 いないはずのあの生首の声がした。近い、近いぞ!どこだ曲者!声はすれども姿はみえず

 上下左右を見渡すが、フランさんしかいない。

 机と椅子の下を思わず覗き込む。フランさんのおみ足しか見えない。すごい曲線美。足首細。スカートの中とかではないだろうからして…いや知らないけど?めくったらあのピンヒールで顔に穴があくんだろうな。

「なんでいちいち思考がおっさんなんですか」

「いやなんで思考読んでるの、もうリンク切った言ってなかった…というかどこ?」

 アキラさま、肩です肩。そう言ってフランさんは笑顔で右肩を叩いた。

「肩?」

 素直にフランさんに合わせて無造作に右肩を叩いた。ふに。

「ちょっと丁寧にしてくださいよ。デリケートなんですから」

 デスクワークに疲れたおっさんみたいに、肩をポンポン叩く。ぷにぷに。ぷにに。ひんやりぷよん。

「…?」

 姿見までおそるおそるすすむ。鏡に映る右肩には、確かに何かがちょこんと乗っていた。目がある目が。

「す…すらいむ!いや肉まん?スライム…スライム肉まん」

「え~召喚獣の一種でして、自らの意思を持ってます。まあ万能通訳遠隔通話機能付ガイドマシンみたいな物とおもってください。」

「初めまして。ナレンドラとお呼びください、トリカイ」

 肩にのったスライム肉まんが、低い男性のような…抑揚の無い機械音声めいた声で自己紹介した。

「ナレンドラはアキラさんをマスター登録してますので、自動的に翻訳を行います。また、僕の杖とリンクを改めて行いましたので、いつでもどこでも無料通話できますよ~便利ですね!」

 便利ですね!ってなんだよ通販番組みたいな語り口して

「いやリンク切ってっていったよね?馬鹿なの?!」

 私は天を仰いでラジオ体操第二の出だしのポーズをして怒りを表した。

 しーん。

 あれフランさんもいないし。私のオアシス。


 ー

 話は未明にさかのぼる。

「要するに金持ちのぼんぼんが興味本位で他国の人に依頼して私を召喚したんだよね?」

「めちゃくちゃ要約しましたね」

 小指を立てて朝食後の紅茶をすするバケラッタ。

「バケラッタってなんですか。いい加減名前覚えていただけませんか」

「うるさいな、名前なんて自ら勝ち取ったもんでもないんだからそう大事にするなよ。わかりゃいいだろ」

「えぇ…捻くれてますね…」

 笑ってるんだか困ってるんだか判別し難い表情で腕を組む。

 私は向かい合っていた椅子をぐっとバケツに近づけて、彼の両肩に手を乗せてぐらぐらゆらしてやった。

「あ~やめてください紅茶がこぼれます~」

「それよりも!私は戻れるの?あと記憶がなんか曖昧なんだけど何なの?これも戻るの?というかなんで手縛られてたの?なんなん?答えてとりあえず全部答えて!」

 バケツは紅茶を一気に飲み干し、カップをそっと机においた。

「なるほど、そのご不安ごもっとも。ではご返答させていただきます」

「もったいつけないで、はよいえ」

「まずひとつめ。元の世界へ戻る方法は…ございます。ただしこれも呼び出し同様、昔の封印された方法を取ることになりますので、準備に相応のお時間を頂くことになります。が、不可能では無いです」

「相応のお時間ってどのくらい?ざっと、目安でいいんだけど」

「…相応のお時間です」

 両手でハの字を作って笑った。

「……」

 沈黙。

「まあ。それはおいおい吐かせるとして、じゃあ次は?」

「えー次はですね、記憶曖昧に関しては、手を縛っている件と話がつながっておりまして」

「うん?」

 バケツはすっと立ち上がり、姿勢よくゆっくりと部屋を移動した。足音のしない歩き方。

 私に背を向けて、窓から庭を眺める。

「さくっと包み隠さず申し上げますと~」

 何気に私と距離をとっているようにもみえる。

「今回僕はとある古の召喚術を元に今回行いまして。その方法っていうのがまあ、異世界の情報を召喚した人から根こそぎ頂くという代物です」

「…?」

 根こそぎ?

「根こそぎです。異世界から人間を呼び出して、その方の知識や技術を魔法水晶や宝石、魔法人形などに移動して、で人間自体はアフターサービスとして元の世界にもどすという」

「あふたあさあびす」

 なぜか得意げに指をふる。ぼきっとおりたい。

「色々吸出した後の人間を戻すのに、まあわざわざ説明するのもめんど…難しいですし、仮死状態にしまして万が一目覚めてどこかに移動しないよう縛っておいて、帰還術が完成するまで魔法陣にいてもらうと」

「すいだし、かしじょーたい」

 どこを眺めてるのかうんうん頷きながら話をすすめる。

「もともとは、異世界から呼び出した方を賢者や軍師、学者待遇でもってまあそうでなくても賓客としてもてなしていたんです。大昔ですね」

「はあ」

 我ながらさっきからバカみたいな返事しかできない。

「でも時の権力者や逆に反抗勢力と結びついちゃったり、変な組織とかつくっちゃったり、また大量に呼び出してた時期もあったようで国の負担にぶっちゃけなったみたいなんですねえ、そこらの村人みたいな役に立たない人間とかもうじゃうじゃ呼んじゃったみたいで」

「あ~うじゃうじゃ…」

 まあ、大量によんだらそらそうだな。知識人ならいいけど女子高生とかうじゃうじゃ呼んでもな。

「なので後期には召喚術ガイドラインみたいなのができまして。呼んで知識コピーしたら元に帰してあげましょう。これが鉄則となったんですね。あはは」

 宇宙人にさらわれた人みたいなノリだろうか…。ファンタジーじゃなくてSFだなこれじゃあ。

「合理的だね…?」

「でも本人の情報そのままにコピーする技術ってかなりの高難易度でして、わかりますでしょ?吸いだして移すだけなら簡単なんですが」

 わからねえよ

 バケツは目を閉じてうんうんとまた一人でうなずく。そういう机の上の人形があったきがする。

「でも現場の魔術師達からしてみれば、ぶっちゃけもとの世界に帰しちゃうなら、知識しぼりとって、抜け殻は送り返しちゃえみたいな。どうせわからないからいいだろっていう…。…いやこれは私でなくてその当時のですよ?まあそんな感じだったようですね。上は綺麗事いいますが下はねえ納期ありますからねえ」

 現場が勝手にやったんだっていいはる下請けに丸投げした会社のよーなことをいう

「で、今回モデルにしたのもその方法でした、簡単だったんで。いや~あはは。それで記憶が飛んでるんです。おわかりいただけましたでしょうか」

「結局それもおのれが悪いんかい!」

 私は机の上にあった紅茶の乗っていたお盆を、バケツにフリスビーの様に投げつけ、

 そして彼の後頭部に見事に命中した。









うさぎさんはセクシ~

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