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第二話 異世界の夢と目覚め

 広いベッドで目が覚めた。

 目を開ける前に体全体を使って気配を探ってみるが、何も感じられない。

 薄暗い、夜明け前の空気。静寂が支配している。衣擦れの音一つしない。

 何かの武道を嗜んでる訳でもないので、探るって言っても限度がある。

 色々諦めて、ベッドの中で軽く伸びをしてからそっと体をおこした。

「誰かいらっしゃいますか~…おはようございます…」

 小声で語りかけてみるが応答はない。応答があってほしいのか否か自分でも良くわからない。

 立ち上がり、部屋を見渡してみる。ベッドサイドのランプが淡い光をまとっている。

 なかなかに心地よい清潔なベッドと、整頓された西洋風の部屋。

 家具は寝具と衝立、一人用サイズの簡素な洋服ダンスに、テーブルとクッションのついた椅子が2脚。白い部屋に木の家具。シンプルだが落ち着く部屋だ。

 水?の入った瓶と意匠の施されたガラスコップが伏せておいてある。可愛いなこのコップ。

 のどが渇いて仕方がなかったので晶はコップに水をそそいで一気に飲み干した。案外思い切りがよいのだ私は。

「水は…水だなぁ…カルキ臭いとかは無いけど…」

 別に感動するようなおいしさもない。異世界?とかなら何か水さえも感銘を受けるものかなと思ったがそういうものでもないらしい。というか何を求めてるんだ私は。

 ―異世界かぁ

 空になったコップを持ったまま改めて部屋を見渡す。大きな窓と、ドアが向かい合っている。

 窓には綺麗な刺繍のされた白いレースがかかっていて、外の薄明かりを取り込んでいる。

 重そうな造りの木製のドアをじっと見つめてみる。鍵とか閂で閉じ込められてたりして。

 忍び足で近寄り、とりあえずドアノブを音のしないようにまわしてみる。廻った。施錠されていない。耳を当てて外の様子をまたも伺ってみるが、良くわからない。ゾンビとか衛兵とか何かいたりして。…出るのは後にしよう。

 振り返って窓に近寄り外の様子を窺ってみる。中庭だろうか?整った庭園が柔らかい外灯の光に照らされている。だいたいここは3階くらいの高さだろうか。窓ガラスは観音開きになっていて、それも施錠されてはいない。ガードが緩いのは、何か魔法の何かで封じてたりするからなのだろうか。

 そんな魔法があるのかも知らないし、私にその価値があるのかも知らんけども。

 ゆっくり開けて上半身をのぞかせてみる。立派な館。手入れされた広い庭。さあっと少し冷たい風が、頬を撫でた。窓の周りのレリーフがやたら立派なので空がよく見えない。

 もうちょっと頑張ってお尻を窓枠に乗せて空を見上げてみる。夜明け前の空。しかしー

「月が2つある…青いし…星も多いな~」

「窓枠に乗ったら、危ないですよ」

 唐突に声がした。背後からしたこの謎に呑気な声は、聞き覚えがある。

 ゆっくりと振り返ると、細身で長身の男性がドアの前に佇んでいた。微笑んでいる。

 色白で切れ長の黒い瞳に、金属光沢のような輝きをもった鈍色のストレートの髪を腰まで伸ばして一つに結んでいる。格好はなんというか魔導士?とか神官?みたいな装いをしている。

 こいつかさっきの生首プライバシー土足踏み込み男は。

「名前ながくなってません?僕の。ベーケットって名前があるので、そう呼んで頂けると嬉しいです」

 顔に笑顔を張り付けたまま、生首男はそう言った。やっぱこいつ頭の中読んでやがる。

「名誉の為に申し上げますが、僕は好き好んで読んでいるわけではないですよ」

 そう言って人差し指をくるくる上に向けてまわし、まあお座り下さいと、手で椅子をすすめた。

 片方の手に持っていたポッドとティーカップ、焼き菓子の乗ったトレイを机に置く。

「どうぞ。美味しいですよ、特製のハーブティーと特製のナッツ入りクッキーです」

 私が窓枠から離れ、素直に椅子に腰をかけると、満足そうに頷いてから彼も椅子に腰をかけた。

 笑顔のまま黙って見つめているので、仕方なくハーブティーを口をつけた。優しい味。カモミールティーに近いかな。クッキーもサクッとして美味しい…

 一息つくと改めて奇妙な感じだ。何だろうここ、食べ物とか単語とか知っている物が入るし、そもそも言葉が通じているのがアレだ。西洋ファンタジー恋愛ゲームの世界とかなんだろか。異世界物は詳しくないからあんまりわからん。ふわふわとした益体もない夢の世界を彷徨っている感じ。目が覚めたらいいのに。

「現実ですよ。そう睨みつけないでください、僕は敵ではないんですから」

 自分で敵ではないですとか。逆に怪しい。

 いつの間にか睨みつけていたらしい。眉間に寄った皺をのばす。しわになるじゃないか。

「もうすぐ朝です。本当は詳しい説明は身だしなみを整えて頂いたうえ、朝食後にお話ししようと思っていたのですが」

 椅子から伸びた長い足を組み替えて、バケツは目を細めた。動きがゆったりとしていて、品がある感じ。

「放っておいたら、窓から落ちてしまいそうでしたので…失礼を承知で無断でお部屋に入らせていただきました」

 バケツはそこで微妙に眉をしかめて台詞を続けた。

「バケツ?僕のことですか?」

 バケツマンとかカーペットみたいな名前じゃなかったっけ、知らんけど。ファンタジーな名前とか覚えきれないんだから、いちいち突っ込まないでほしいな脳内のコメントに。やりにくい、わたしの考えが読めてるんだろう…やめてくれ!私にかまうな…!みたいな。

 というか、なんか電波を受信してる人みたいだなこの脳内台詞。変なの。マジでやめてほしい。

「その件の説明なんですが」

 ここでちょっと困った様な表情をみせた。目を閉じて微かに顎を動かす。

 謎の沈黙。

 仕方ないのでクッキーを齧る。少し物を食べると、逆にお腹がすいているのを実感する。

 自分で思っている以上に緊張しているんだろうな、多分。

「美味しいですか?」

 ずいっと顔を寄せて、覗き込んできた。

「ああ、うん、サクッとしてて美味しい」

 パッと明るい笑顔になる。

「よかった。これ僕のお手製なんですよ。良ければまたつくりますね」

「ああ、ええと、ありがとう」

 なんだか押されてお礼を言ってしまった。なんだこの会話。

「でですね、説明もまあ朝も早いので、サクッとしますねサクッと」

「はぁ」

 なんだか殺人事件が起きた村落に入り込んできた、見ず知らずの探偵の説明を無理やり受けている登場人物みたいな応答をしてしまう。最後になんだか変わった奴だなと…かいって〆れば完璧だ。

 私の考えを読んでるのか読んでないのかわからないが、素知らぬ顔でバケツは話を続ける。

「アキラさん、とお呼びしてもよろしいでしょうか。はい、ありがとうございます。ではまず、いまおかれている状況について手短にお話しさせていただきます」

「異世界。そうですその通り、アキラさんは他の世界から召喚術によって呼び出された存在です。召喚術の主目的は、異世界の技術等を得ることによってもたらされる、軍事技術等の向上であったようです。そうです過去形です。異世界の度を越した技術は果たして世界の破滅をもたらす程であったようで、現代では禁忌術として召喚術自体がタブー視されています。最後に召喚術を行った公式記録はもう千年以上昔ですね」

 私の目をじっと見つめてから、また目を閉じて微かに頷くしぐさをする。癖なんだろう。

 自分で自分の話に聞き入って頷いてるようにも見える。省エネなやつ。

「では何故アキラさんがこの場にいるのか。それは隣国とある部族によるものです。他では絶えて久しい召喚術も、彼らの間ではまだ細々と伝わっておりまして」

「で、僕が研究の為にですね、とある場所から入手しました本を元に召喚術を行ってもらいまして、で、今回成功してアキラさんはこの世界に呼び出された訳です!すごくないですか?千年ぶりですよ?」

 私は無表情でうつろな視線を彼に向けた。

 その視線に怯むことなく、バケツはやや興奮した様子でしばらくいかにこの実験の成功は偉大かを語り続けた。

 私はとりあえず聞き流して、お茶をすする。おいしいなあ。ハーブティーって苦手なんだけどこれは良い感じで好きだなあ。でもやっぱコーヒー飲みたいな、この世界あるのかなあ。

 まだなんか喋っているのを見つめつつ、こいつ私の頭読んでんだろうかと思いながら、ぼんやり考える。

 なんか呼んだの召喚?オタクぽいこいつだし、呼び出す事自体が目的でやったぽいし、わたしに課せられた使命とかなさそうだし、こいつ金に困ってなさそうだし、またとある部族とやらに依頼してもらって返してもらえれば万事解決なんじゃないのかな。知らんけど多分。











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