第一話 はじまり
ピィピィという鳴き声が、視界のすみっこにうつる青い小鳥から聞こえる。
丸っこくてとっても可愛い。見たことがない。というか私の人生ではTVでも本であっても見たことが無いし、私の居た世界?では存在自体しないのではないだろうか。知らないけど。
なにせその小鳥はトンボのように透き通った羽で、そのお尻には黄色い猿のような長い尻尾がはえていて自在に操っている。あ、木の実をうまくもいだ、カワイイナー。あー、飛んで行った。あー。
私、鳥飼 晶は背中の痛みを感じながら、視線をゆっくり上に戻した。
綺麗な青空で日差しもやわらか、やわらかい風が気持ちいい感じ。……何か食べたい。
というか、仰向けの挙句両手両足を繋がれて、白い台座のようなものに括られているのでそれしか感じられないし、首をぐりぐり傾けても木の枝と空しか目にうつらない。
こんな状態で私の体内時計では小1時間はたっている気がする。多分。知らないけど。
「あの世にしては意味不明だしなぁ~…何じゃろな~まいったな~どなたかいますか~」
気持ち大きめの声を出してみて、周りの様子を窺うが、風が頬をなでるだけ。ため息が一つ漏れる。
いわゆる異世界転生とか転移とか?何かだろうか。本日二回目の回想をしてみる。
私は平和な日本人で、今日は誕生日だった。3月3日ひなまつり。ケーキを買って帰るぞ!とごきげんで道を急いでた。そして……
……でも何の帰りなのか、どこに帰るところだったのか、記憶が曖昧だ。状況もあかんが自分もあかん。
「頭打って記憶喪失とかなのかな~…めんどいな~」
そもそも転生だのにしても、このTheイケニエみたいな状況は何なのか。勇者とか何たらの乙女とかだったら、神官だの王国のなんたらだのエルフ族だのがなんか傍に控えていて、
『〇〇様!(勇者とか賢者とか)お待ちしておりました!我が国を(世界をとか種族を)救って下さい!』
みたいなアレがアレしてあーなってこーなるんじゃないのか。
だんだん腹がたってきた。
そもそもさらにそもそも、もはやもそもそだが、両手両足の自由もないから、自分がどういう格好なのかもわからないので、まあ金髪の耳のとがった美人になってるわーやったーだの、緋色の髪をたなびかせたカッコいい種族になってる~イェ~みたいなのもわからない。わからないったらわからない。
要するに転生だのして何か変化してるのかもわからないし、元の世界から飛ばされたのかもわからない。
わからない国からきたわからない人選手権があったらベスト10は狙えるくらいわからない。
「何です、もそもそって」
突っ込みが入る。
「そもそものもっとそもそも状態のことだよ…知らないけど」
「そういう言い回しがあるのですか、そちらでは」
「無いよ無い。適当に今作ったんだよ脳内適当語録だよ」
「ですよねえ、聞いた事が無いです」
というか私今口に出していたっけ。そして私は誰と話しているのか。
右にゆっくり首を動かすと、生首が生えていた。台座から首がにょきっと。
なにかの文様の入ったマスクと布で隠されていて、声から男性であるとしかわからない。怪奇生首男。
「初めまして。怪奇生首男です」
顔のすぐソバで話しているのに、息遣いは感じられない。激しい違和感。
「……」
「冗談ですよ、ウフフ。わたくしはシズ種テフの息子、ベーケットと申します」
「……」
「以後お見知りおきを。ではちょっと静かにしていてくださいね。今……」
「ギャー!!生首がしゃヴぇったーぎゃー!!きゃー!!わー!!きょえー!!」
「ちょっ」
私は冷静な判断により、事態が動き、この男に敵意が無いことを確認した上で、意識を暗転させた。
おなかの底から叫びわめいてからだけども。