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契約獣頼りの異世界生活  作者: 謙虚なサークル
9/15

召喚師、働く

「いい勝負だったよ。ルーシアちゃん。また挑んできたまえ」

「うぅ……はい……」


 うなだれたままのルーシアに背を向け、ジードはこちらに視線だけを送った。

 挑戦ならいつでも受かるぜ、と目で言っていた。


 アイアントか……かなりの強敵だな。

 ステータスも高い上に風属性の苦手な金属性。

 現状、俺のコチックではダメージを与えられるスキルがない。

 ちらっと腰の袋に入っている、ヒートパウダーの秘術書に視線を落とす。

 こいつを使えば話は別だが……魔石と交換したみたいだし使いたくないな。

 今はまだ、持っておこう。どうしてもという時に使うとするか。

 相手もすべてのスキルを見せてないしな。


「まぁ挑戦するには金が必要だし、対策を考えながら金策をするとするか」


 何せ今の俺は素寒貧だ。

 これではろくに飯や食事も出来やしない。

 ギルドでは常に仕事を斡旋しており、それらの仕事をこなすとそれに応じて賃金が支払われるのだ。

 俺はギルドの入り口に戻ると、カウンターの前にいる女性に声をかける。


「すみません。何か仕事を受けたいのですが」

「いらっしゃい。召喚師の方ですね。今すぐ受けられる仕事でしたら鉱石採掘と薬草採取がございます。鉱石採掘は一日5000セラ、薬草採取は一日4000セラとなります」


 どうやら鉱石採掘の方が給金が高いようだ。

 聞くだけでしんどそうだしな。


「では鉱石採掘でお願いします」


 少し考えた後、俺はそう答える。

 同じ時間を働くなら、給金が多い方がいいという単純な理由だ。


「かしこまりました。ではこちらを読んで了承いただけましたら、サインをお願いします」


 差し出された書類に目を通すと、そこには作業時間や注意書きが書かれていた。

 怪我に注意する事、人に迷惑をかけない事、勝手に抜け出してサボらない事……書かれている内容はごく普通である。

 俺は一読しサインをした。


「宿泊とかも出来ますか?」

「えぇ、広間でよろしければ1泊につき2500セラ。朝と夕の食事付きなら3000。魔獣の治療は1匹につき500セラとなります」


 挑戦権は10000セラ必要だ。

 消耗品に生活用品の事も考えると、3日か4日働けばジードに挑戦出来そうである。

 受付嬢は俺の描いた書類を見て頷くと、それにハンコを押した。


「ではこれを持って街の北側にある採掘場に行って下さい。道具は貸し出してますので、監督の指示に従って、気をつけて作業をして下さいね」

「ありがとうございます」


 俺は書類を受け取ると、ギルドを出て採掘場へ向かう。

 採掘場には何人かの鉱夫に混じり、召喚師の姿も見える。

 そこから少し離れた建物にいた中年男性に声をかける。


「こんにちは、現場監督さんはどこにいるかご存知ですか?」

「あぁ、それなら俺だよ。君は召喚師ギルドから派遣されてきた子かい?」

「はい、ウィルといいます。今日はよろしくお願いします」

「ふむ、礼儀正しい子だ。よろしい。ではそれに着替えて早速働いてくれたまえ」


 事務所で渡された作業着に着替え、ツルハシと工事帽を被る。

 少しぶかぶかだが、動きやすい格好だ。

 外へ出ると、現場監督が待っていた。


「うん、似合ってる似合ってる! よし、それじゃあしっかり働いてくれよな!」

「はい」


 それから俺は現場監督に仕事内容を教えられ、作業を始める。

 基本的な流れは岩壁を砕き、石をトロッコに入れて運ぶ。その繰り返しだ。

 俺は皆に交じり、淡々作業をこなしていく。

 身体を動かすなんて久しぶりで、ちょっと楽しい。


「おい! 魔獣が出たぞ!」


 と、鉱夫の声が響いた。

 見れば崩れた岩石の中に蠢くものが見える。

 石のような姿だが、あれはれっきとした魔獣だ。

 ――イシコロロ。

 石ころに姿を擬態した魔獣。

 転がって移動し、岩石の間に挟まって休憩する。……との事だ。


「おい新入りの召喚師、何とかしてくれ!」


 そう、説明で聞かされていたが、採掘中に魔獣がよく現れるらしいのだ。

 召喚師たちはその際に契約獣を使い、魔獣を倒す事が契約内容となっている。

 一番近い俺がイシコロロに向かっていく。

 こいつも金属性の魔獣だ。コチックの攻撃スキルがどの程度効くか、試してみるか。


「いけ、コチック」

「ぴぴぃっ!」


 杖を振るい、コチックを呼び出す。


「コチック、とびげりだ」


 コチックに命じたのはとびげり。

 金属性の魔獣は防御が高いため、半端な攻撃スキルは効果が薄そうだが、相性の悪いエアショットよりはマシだろうという判断だ。


「ぴぴぴーーーっ!」


 助走をつけてのとびげりを繰り出すコチック。

 かきいぃいん!と鈍い音がして、イシコロロは転がり岩壁に叩きつけられた。

 そのHPバーは2割ほど減っている。

 むぅ、中々硬いな。


「ゴロロ……!」


 イシコロロは転がりながら、タックルによる反撃を仕掛けてきた。

 だが遅い。

 コチックはそれを難なく躱す。

 素早さに差があれば、相手の命中率はかなり下がる。


「コチック、エアショットだ」

「ぴぃーっ!」


 回避行動から即座に反撃を繰り出すコチック。

 風の刃がイシコロロを貫き、HPバーが減少する。

 これで4割、やはり硬い。

 ダメージはエアショットもとびげりも大差ないか。

 金属性は防御力が高いが魔力が低い。

 エアショットは魔力依存のダメージの為、相性の悪さで軽減されても攻撃力依存であるとびげりと同じくらいのダメージなのだ。


「ゴロロロロロ!」


 イシコロロは怯む事なくコチックにタックルを仕掛けてくる。

 今度は躱せず、ダメージを受けるコチック。

 HPバーの減少は2割ってところか。

 ほぼほぼ互角、だが向こうの命中率が低い分、こちらの方が優位に戦闘を進めていた。

 そうして何度か殴り合った後、イシコロロは倒れて街の外へと逃げていった。


「おお、よくやってくれたなウィルくん!」

「中々のもんだったぞ、坊主」


 拍手を受けながら、俺は適当に手を振って返した。

 それにしても回避したのは4回中2回、ステータス補正は入っても当たるもんは当たるんだな。

 だがアイアントの高速タックルは、強化スキルを使ったとはいえHP高めのイルルカを一撃で仕留めるほどの威力である。

 コチックでは強化なしでも一発耐えられるかどうかである。

 さてどうしたものかと考えながら、俺はツルハシを岩壁に叩きつけるのだった。



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