召喚師、街に着く
「ま、負けた……」
レヴィンは俺に負けたのがショックだったのか、がっくりと肩を落としている。
「お疲れ様だったな。戻れコチック」
「ぴぃー!」
コチックを魔石に戻した俺はレヴィンに歩み寄り、手を差し伸べた。
当然立ち上がる為の、ではない。
「約束だ。俺の手に入れるはずだった魔石を返してもらうぞ」
「ぐ、ぐぐぐ……」
レヴィンは自分の杖を大事そうに抱えたまま、後ずさる。
そしておもむろにしゃがみ込んだかと思うと、ヒノウマに手をかざした。
「おい、いつまで寝てるんだヒノウマ! 起きろ!」
レヴィンのかけ声と共に、ヒノウマの身体を淡い光が包む。
回復石だ。ヒノウマはブルルと身震いをして、立ち上がった。
レヴィンは回復したヒノウマの背に跨ると俺に背を向ける。
「よっ! ……ちっ、ウィルのくせに中々やるじゃねーか。だが今回は運が悪かっただけだ! 言っておくがお前のチンケな契約獣じゃあこの街の召喚師長には勝てないぜ!」
「なんだと?」
「俺もさっき戦ってきたがよ、この街の召喚師長は金属性の使い手だ。お前の契約獣は風属性だろ? 相性最悪だもんな!」
召喚師長は各々得意な属性があり、その属性の契約獣を使ってくる。
だがよりにもよって風の苦手な金属性か。
ちなみに有利属性は風→土→水→水→金→風、である。
他の街に先に言ってもいいんだが、それも面倒だ。
金もないし、回復石も補充しないといけない。
どちらにせよこの街に行くのは確定だ。
どうしても勝てなければ他の街に行けばいい。
考え込む俺を見て、レヴィンはにやりと笑う。
「まっ、俺は勝ってきたけどな! ……へへっ、困っているようだじゃねーか。ならこいつをやるよ。魔石の代わりだ」
そう言ってレヴィンは何かを投げてよこしてきた。
受け取ったものは古びた本。……ていうか魔石の代わりだと?
俺が気づいた時には、レヴィンはヒノウマの鬣を掴み走らせていた。
「こら、待ちやがれ! こんなもんじゃ納得しないぞ! 魔石を返せ!」
「やーだね。あばよっ! いっけー! ヒノウマ!」
「ヒヒィィィン!」
ひときわ高く鳴くと、レヴィンを乗せたヒノウマはすごい速さで走り去っていった。
……あっという間にもう見えなくなっちまったか。逃げ足だけは早い奴だ。
「あの野郎……」
舌打ちをしながらレヴィンの走り去った方を睨みつける。
だがそうしていても仕方ない。俺は視線を書物へと落とす。
「これは……秘術書だな」
この古ぼけた書物は秘術書と呼ばれ、契約獣に新しいスキルを覚えさせる事が出来るというものだ。
覚えられるスキルはヒートパウダー。
金属性相手に効果抜群の火属性攻撃スキルだ。
確かにこれを使えばコチックでも戦えるかもしれない。
だがこれを使うと後で難癖付けられそうだな。
秘術書は高価で結構貴重なアイテムだが、道具屋にも売っているし手に入れる手段はそれなりにある。
魔石とは全然釣り合わない。
使用すればなくなってしまうしな。
今度会ったら秘術書を突っ返し、魔石を返してもらうとしよう。
「とにかく街へ入るとするか」
俺は秘術書を腰の袋に仕舞い込むと、街へと向かった。
入り口にある看板には、ストンロクの街と書かれている。
街中は活気に満ちており、ツルハシを持った鉱夫が多く見られた。
北側の岩石地帯からは金属音が断続的に聞こえてくる。
街に着いたし、まずは一息つきたいところだ。
今まで歩き通しだったからな。コチックの回復もしておきたい。
「まずは召喚師ギルドを探さないとな」
召喚師ギルドは各街に一つ支部が置かれており、そこでは契約獣の回復や、旅の召喚師がゆっくり休めるよう、寝床を用意したりといった支援が受けられるのだ。
「……ここか」
街を歩いているだけで、すぐにわかった。
磨き上げた金属で建てられた、巨大な建物。
俺は入口の扉をノックをし、中へ入る。
「失礼します」
中に入ると広間があり、何人かの召喚師たちがたむろしている。
まっすぐ進むと受付のカウンターがあり、そこにいた男と目が合う。
「おっ、もしかして君がウィル君かい」
「は、はぁ……」
いきなり声をかけられ戸惑っていると、男は立ち上がり近づいてくる。
黒髪で年齢は20歳くらい、気のいい兄ちゃんって感じの男だ。
「やっぱりそうか! いやぁアシムの街の召喚師長に連絡を受けていてね。そろそろ来る頃かと思っていたんだ!」
どうやらあのおっさんが連絡してくれていたようだ。
あ、ちなみに俺が出発した街の名前がアシムである。念のため。
男は俺に右手を差し出し、握手を求めてくる。
「俺はジード、金属性使いのジードさ。この街の召喚師長をしている。よろしくな!」
「……よろしくお願いします。ジードさん」
俺はジードの差し出した手を握り返した。
レヴィンとの会話でも出たが、ギルドにはまとめ役である召喚師長がいる。
各々一つの属性を得意としており、街やギルドにもその特徴が現れるのだ。
「他人行儀なのは苦手でね。気軽にジードと呼んでくれて構わないぜっ! なにせ今から俺たちは戦うライバルなんだからな!」
彼らと戦い勝利する事で、新たな魔石を貰えるのだ。
魔石を手に入れる機会はこれを除けばほとんどない。
魔石の多さは召喚師としての強さに直結する。
大召喚師を目指す俺としては、倒さねばならない相手である。
ならば確かに、呼び捨てで構わないか。
「ではよろしくジード」
「おうっ!」
俺の視線に気づいたのか、ジードは俺を見下ろしにやりと笑う。
「……戦意に満ちたいい目だ。しかしウィル君、長旅で疲れただろう。それに腹が減っているんじゃあないかね?」
「あ……」
まるで示し合わせたかのように、俺の腹がぐぅぅとなる。
そういえば昼から何も食べてなかったっけか。
「ははは、正直なお腹だな。よし、俺が奢ってやるよ。飯にしようぜ」
「……ありがたい」
ジードは苦笑を浮かべながら、俺を食堂へ連れていくのだった。