召喚師、いろいろ試す③
街を出た俺は、草原をまっすぐに進んでいく。
先日の探索中に少し遠出をしたが、人の進む道はある程度整備されており、ここを進めば次の街に着きそうだ。
草むらから離れ、道なりに進めば魔獣もあまり出てこないしな。
「……とはいえ、出てこないわけでもないか」
歩いていると道から少し離れた草むらから、ローリスが飛び出してきた。
俺はすかさず杖を振るい、コチックを呼び出す。
「いけ、コチック」
「ぴぃーっ!」
まばゆい光と共にコチックが姿を現わす。
戦闘開始だ。
「コチック、エアショット」
俺が命じると、コチックはローリス目がけエアショットを放った。
命中、そしてHPバーが削れ、ゼロになる。
「シャッ!?」
ダメージを受けたローリスは慌てて逃げていった。
レベルが上がった事でコチックのエアショットは、ここらの魔獣なら一撃で倒せるようになっている。
素早さは当然こちらが早いため、反撃は受けない。
「戻れコチック」
俺は杖を振るい、コチックを魔石に戻した。
「コチック、エアショット」
魔獣を見つけるたび、俺はコチックにエアショットを撃たせる。
「エアショット、エアショット! エアショット!!」
連打、連打、連打。
俺は出てくる魔獣を全て一撃でのしていく。
だが順調と言われると、そうでもない。
そう、エアショットの使用回数には限度があるのだ。
「一撃で倒せるとはいえ、20回しか使えないからなぁ。しかももう5回使ったし」
エアショットを使い切ると、羽休めしか使えるスキルがなくなってしまう。
防御スキルで魔獣と戦う事は出来ないからな。もう一つくらい攻撃スキルが欲しいところだ。
「とりあえず使用回数が10回切ったら少し休憩しよう……む、そんな事を言ってたらまた魔獣か」
出てきたのは黒と黄色の縞模様をした蜘蛛の魔獣、スパルコだ。
強力な粘着力を持つ糸を吐き、獲物を絡め取り体液をすする……との事だ。
出てくる魔獣が少し変わったが、こちらのやることは変わらない。
「いってこい、コチック」
「ぴぃっ!」
いつものように命令を出し、コチットにエアショットを撃たせる。
スパルコに風の刃が命中するが、HPバーを7割ほど削っただけだ。
ちっ、このスパルコは少しレベルが高いのか。
「キチチチチ……!」
スパルコはカサカサと移動してくると、鋭い牙で噛み付いてきた。
無属性スキル、ファングだ。
鋭い牙で噛みつかれたコチックのHPバーが2割ほど削れた。
本日初めてのダメージだ。
「ぴぃーーー!」
それでもひるむ事なく、コチックはトドメのエアショットを放つ。
風の刃を喰らい、吹き飛ばされたスパルコは慌てて起き上がると草むらに逃げていった。
先刻の戦闘で経験値バーが上昇し、マックスになる。
レベルが上がったな。
コチック
レベル6、風属性
HP75
攻撃26
素早さ30
防御16
魔力24
所持スキル
羽休め15/15
エアショット7/20
とびげり30/30
「ぴぃーよ!」
誇らしげに鳴くコチック。
どうやら新しいスキルを覚えたようだ。
とびげりは無属性の攻撃スキルで、威力はエアショットに劣るが使用回数が多い。
これを使えば少しはエアショットの使用頻度も抑えれるか。
「どちらにしろ、少し休憩したいな」
コチックを魔石に戻した俺は、安全に休めそうな場所を探す。
見晴らしがよくて、草むらから遠い場所がいいんだが……と、探していると一本のヤシのような木を見つけた。
丁度草むらから離れているし、ヤバくなったら木の上にも登れそうだ。
根元は木陰になっていて気持ちよさそうだし、あそこで休むとしよう。
木の根元に行って見上げると、大きな木の実がいくつか生っている。
「ん……もしかしてあれ、チコの実じゃないか」
チコの実は魔獣が好む木の実で、食べさせてやるとHPとスキル使用回数がわずかに回復する効果を持つ。
丁度良い。コチックに食べさせてやるとするか。
俺は助走をつけて思い切り木を蹴る。
するとゆさゆさと木が揺れ、チコの実が2つ落ちてきた。
「出てこい、コチック」
杖を振るい、コチックを呼び出すと、俺はチコの実を与える。
「そら、たーんと食べな」
「ぴっぴー♪」
コチックは嬉しそうにチコの実をつつき始める。
それにより、減っていたHPとスキル回数が少しずつ回復していく。
コチックのステータスを見ると、信頼度がわずかに増えている。
木の実には信頼度を上げる効果があるんだっけか。
美味しそうにチコの実を食べるコチックを見ていると、俺の腹がぐぅと鳴る。
「……腹減ったな」
ゲームではこの木が生えているのは街と街の中間地点にある場合が多い。
という事は、もうすぐ次の街に着くわけだ。
丁度いい、昼食にするとしよう。
俺は腰に下げた袋から、母さんに持たせてもらった弁当を取り出す。
中には野菜と卵、ベーコンのたっぷり入ったサンドイッチが二つ入っていた。
うん、美味そうだ。
「いただきます」
中の具が溢れないようにサンドイッチを両手に持ってパクリと一口。
噛み切れないほどの分厚さのサンドイッチを何とか口に入れ、噛みしめる。
母さんのサンドイッチは食べ応え抜群で、二つ食べ終わる頃にはお腹いっぱいになっていた。
「ぴふぅー」
コチックも満足したようだ。
食べたばかりだし、少し休んで行くか。
俺はコチックを魔石に戻し、木にもたれかかる。
「む……?」
しばらくゆっくりしながらコチックのステータスを眺めていると、エアショットの使用回数が回復している事に気づく。
食べ終わった直後は15/20だったのに、今は16/20だ。
「休んでいたのは10分くらいだっけか。……ちょっと待ってみるか」
俺は頭の中で数字をカウントしながら、しばし待つ。
と、591を数えた辺りで更に1回復した。
もう一度やると、今度は605で回復した。
「大体10分で1回復するみたいだな」
移動しながらだと回復はしなかったし、止まっている状態で10分待つ必要があるようだ。
ともあれスキル使用回数も十分に回復したし、そろそろ移動再開とするか。