召喚師、決闘を申し込まれる③
「勝っ……た……?」
信じられないといった顔のルーシアに、俺は手を差し出す。
「おう、勝てたな」
しばし、ぼんやりしていたルーシアだったが、ようやく現実味を帯びてきたようだ。
俺の方は向き直り、満面の笑みを浮かべた。
「はいっ! 勝てました! ウィルさんのおかげです!」
「……まぁこうなったのも半ば俺のせいなんだけどな」
それに苦笑を返した。
俺が奴らに喧嘩を売らなければ済んだ話なのだ。
礼を言われる筋合いはない。
だがルーシアは、それは違うと首を振る。
「……私はただ、何も言い返せなかっただけですから。でもウィルさんに勇気を貰いました。私でも勝てると教えて貰いました。だから、ありがとうございますっ!」
そう言って思い切り頭を下げるルーシア。
まぁ感謝してくれているなら、それはそれでよかったか。
「き、貴様ぁ! このクズっ! クズっ! ゴミっ! なぜ言う事を聞かなかった!」
ガイナスは倒れたイシコロロを何度も何度も踏みつけていた。
「やめて下さい! 契約獣が可哀想でしょう!」
「可哀想だぁ? 可哀想なのはこっちだ! 下僕に裏切られたのだからな!」
声を荒げながら、ガイナスはイシコロロを思い切り蹴りつける。
だが力が足りず、イシコロロはビクともしない。
むしろガイナスの方が足を痛めたのか、顔を歪めていた。
「言っておくが普通にやれば我々が負ける事はなかった! 命令を無視したこいつが! 全て! 悪いのだっ!」
今度は反対の足で蹴り始める。
こいつもしかして、撹乱の効果も知らないのか?
よくそんな事で人の戦い方にダメ出しが出来たものである。
「おい、やめろ」
俺はガイナスの肩を掴み止めようとする。
だが勝手にバランスを崩し、地面に転がってしまった。
「ぐぁっ!? い、痛いっ!」
目に涙を浮かべて、痛がるガイナス。
膝から血が滲んでいる程度なのに、大げさな奴である。
俺が哀れみの視線を送っていると、ガイナスはラグナスの手を借りようやく起き上がった。
「貴様……貴様貴様貴様貴様ぁぁっ!! 全て貴様がぁぁっ!!」
なんだかわからないが全て俺のせいらしい。
全くもってひどい責任転嫁である。
「殺すっ!」
ガイナスは血走った目でそう言うと、腰の剣を抜いてきた。
「ひぃっ!」
「ぴぃっ!」
悲鳴を上げて俺の後ろに隠れるルーシアとコチック。
契約獣は魔石により、人間を襲わないように制御されている。
とはいえこのコチック、性格的にもビビりなのだろう。
何となくステータス的にそんな気がしていた。
「殺す……! 殺してやるぞ……!」
「お、おいまて早まるなって」
「うるさいっ!」
説得しようとするが耳を貸そうとしない。
というか目がイってる。
おいおい、やばいじゃねぇかよ。
自慢じゃないが喧嘩なんかやった事ないぞ俺は。
しかも相手は刃物、逃げようにもルーシアは腰を抜かしている。
「お、おいガイナス……いいのかよ? 剣なんか抜いて……こんな事をしてるのがバレたらヤバイぜ……?」
「クヒ、クヒヒヒッ! 構うものか! こんな所には誰も来ない! この場で殺してしまえば、見られたとて関係もないではないか! 故にラグナス、協力しろ!」
「くっ……やるしかないのか……!」
ラグナスまでも、剣を抜いた。
おい、もっと頑張って説得しろよ。
ジリジリと距離を詰めてくる二人に追い詰められ、俺たちは岩に追い詰められていく。
「ウィルさん……!」
「ぴぃぃ……」
「くそ……」
やるしかないかと腹を括り、杖を構えたその時である。
「そこまでだ!」
夜の闇に男の声が響いた。
月の光が遮られ、金属の巨人、アイアントが姿を現わす。
その肩にはジードが乗っていた。
「ガイナス! そしてラグナス! 俺に挑戦もせず、仕事もせず、何の目的でギルドに居座っているのかと思えば、こんな事をやっていたとはな」
「な……じ、ジード!?」
「違う! これはあいつが……!」
「問答無用! 行け、アイアント!」
「オォォォォォ!」
アイアントはガイナスとラグナスの襟首を掴み、持ち上げる。
「く、くそ!離せ!」
「ちくょう! 平民風情がぁぁぁっ!」
アイアントが暴れる二人の頭をごつんと打ち付けると、目を回したのか静かになった。
ふぅ、助かった。
ルーシアはジードに頭を下げる。
「ありがとうございます、ジードさん」
「なに、いいってことよ。それより二人とも、怪我はないかい?」
「はい!おかげさまで!」
「助かったよジード。それにしてもどうしてここが?」
「言い争っていたのが見えたものでね。余計なお世話かも……と思ったが嫌な予感がしてついてきたわけさ。ま、いいものが見れてるよかったよ。二人ともいい戦いぶりだったぜっ!」
ぱちんとウインクして親指を立ててくるジード。
ならもっと早く助けて欲しかったところである。
「特にウィルくん、君との戦いも俄然楽しみになってきたよ。そのうちそのうちと引き伸ばしてきたが、いつやるつもりなんだい?」
さっきの戦闘、見られちまったんだよな。
なら対策される前に早めに戦った方がいいかもしれない。
幸い奥の手はもう1つあるしな。
俺は覚悟を決める事にした。
「わかった。では明日にでも俺との試合、受けてくれるかい?」
「望むところだとも!」
ジードは笑顔で快諾した。
そんなに楽しみにしてたのだろうか。
「いやぁここに来た召喚師はすぐに俺と戦おうとするからね。ウィル君のように焦らしてくるタイプは初めてだったから、俺の方がヤキモキしちゃったんだよ。ははは!」
「なるほど、ウィルさんの作戦だったんですね!」
それに関しては全くの誤解なのだが。
のんきな二人を見て、俺は乾いた笑いを返す。
「おっと、この二人に色々事情徴収をする為にギルドへ連れて行かないとね。では俺はお先に失礼するよ。行くぞ、アイアント」
「ゴォォォォォ……!」
ジードの命で、アイアントはのしのしとギルドに戻っていった。