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29、獣人の子供達



 エイナに案内されて物陰の奥にあった、今や誰も知る由もないだろう、この街の地下へと俺達は足を進めていく。そこは下水道とかではなく、どういった用途で作られたのか判然としない道が、明かりも無く続いていた。

 暗がりでよく見えないがカツンカツンという足音と、手に当たる冷たい石のような触感から察するに、ただ掘って造った訳ではなさそうだった。道幅も2人が並んでも通れるくらいで、俺を盾にセズとウェダルフは、手をつないで仲良く歩いているみたいだった。


 道がいくつか分かれているようで時々エイナから右、左などの単語がぶっきらぼうに伝えられ、そのたびに手を前に突き出し左右に振っている。獣人の子達からみたら面白おかしい姿になっているはずだが、笑い声ひとつあがらず、むしろそっちの方が恥ずかしかった。


 数分くらい歩いただろうか? 突然の光に目がくらむ。

 目を瞬かせて見えた場所は、円形状に開けた日の光あふれる庭園のようなところだった。地下なのにも関わらず光が差し込むため、この場所には畑が作られており、その高い天井にはガラスではない薄い膜のようなものが張ってあるようで、光の加減で煌いていた。こんな場所があったなんて、街を歩いていたときには気付かなかった。

 先程エイナと話していた子達だろう、小学校高学年くらいの子達が、それよりも幼い子達を背中に背負って、最大限の威嚇を俺達にむけており、その目には怯えが見えた。

 道案内を終えたエイナはかったるそうに振り向き、立ったまま話し始める。


 「ここならあいつらの耳や目は役に立たない。皮肉だよな、大昔自分達が造った事を忘れて、いまやここは俺達の根城になってるなんてな。コレのおかげで俺達の居場所はばれてないし、何をしてるかも気付けないんだ。へっ、ざまあねえや」


 親指で天井を指しそう俺達に告げるエイナの目には、逃げ場が無い事を暗につげていた。脅しのつもりだろうが、逃げも隠れもするつもりが無いので、素直に疑問をぶつける。


 「天井の膜みたいなやつが原始種属を弾く効果があるってことか?」


 「俺もそこまではしらねえよ。ただ昔、風の種属とのハーフだった親父の親友が、あの膜には一方通行にする効果がアレにはあるって言ってたんだ」


 風の種属とのハーフ? という言葉も驚きだが、大昔に造って放棄したってことは、前にアルグが言っていた戦争時の本拠地的役割をしていた場所ってことか? それを戦争が終わったからといって放置するとは間抜けすぎないか、エルフよ……。いや、それともエルフのなかでも極一部の者しか知られていなかったため、忘れ去られた場合もあるのか……。


 「それで? 俺がお前に冷たくする理由が知りたい、だっけか? それはお前のほうがよく分かってるんじゃないか? ウェダルフ」


 「僕がなにか君にしちゃった……ってこと? それなら言ってさえくれれば、ちゃんと直すように頑張るから………言ってほしいよ!」


 涙ながらに話すウェダルフに動じる事無く、腕を組み態度を変えないエイナ。


 「……お前がなにかしたんじゃねぇよ。だけど……ここじゃあ、お前みたいなのは"特別"だってことは、わかってるよな?」


 「それは…………つまり、僕の出生が問題になりえるってことなの?」


 息を呑みエイナを見つめるウェダルフ。何か心当たりがあるウェダルフの言葉に、エイナは口を閉じお互い見つめあう。答えないということが答えなのだろう、そのまま俺たちに背を向けてしまったエイナは、獣人の子達になにやら指示を飛ばしていた。


 「話し合いは……もう大丈夫なんですか? ウェダ君はそれで納得したんですか?」


 ウェダルフの手を握り静かにたずねるセズにウェダルフは俯いたままで、こくんと頷く。わずかに見える顔は青ざめており、口は硬く閉じられていた。


 「そうですか………では、次は私がエイナさんとお話しする番ですね」


 てっきりそのまま帰るのかと思った俺は、セズの大胆な行動と発言に小さくえっ、と声が漏れてしまう。普段は内気で空気を読んだ行動をする、セズには似つかわしくない発言だったのだ。


 「エイナさんッ! 私もお話したいことがあるんですが、少しお時間頂いてもよろしいでしょうか?」


 つかつかとエイナの側に寄り、いつもより声を張ってエイナに話しかけるセズには、決意が宿っているように感じた。元々思いやりが強いセズは、友を得たことによりそれを遺憾なく発揮しているのだろう。

 その力強い目にエイナも邪険にせず、顔を向けなんだと答える。


 「ウェダ君とはあって間もない、私が言うのは変だと思うんですが、これで終わっていいんですか?! ウェダ君から聞くあなたはウェダ君と同じように楽しさや友情を感じていたはずです! なのに出生が、境遇がお二人の仲を裂くなんて、エイナさんも望んでなんかいないはずです!!」


 「何も分からない、知らない他人が俺たちに指図すんじゃねぇよ。俺が望んでようと望んでまいと、この世界はそれを許しちゃくれねぇんだよ。それはウェダルフが一番分かってるさ」


 「確かに! 私はこの街の事もウェダ君のことも、分からないことだらけです。だけど現状や境遇に負けるのは違います! 変えるのが難しいことでも、誰かと一緒ならそれが可能になることだってたくさんあるんですッ!」


 一息で話すセズにはその経験があるのだろう。それが俺たちの出会いであるとすれば、俺もその方法は知ってる。そうだ、俺たちはそれを一度経験しているのだ。


 「っとに、うっせえ奴等だなッ!! 誰が俺たちと一緒に変えてくれるってんだ! お前やお前かッ?! たかが旅人が、何を! どう!! 変えてくれるって言うんだ?!!」


 うーっ、と低いうなり声をあげるエイナに、すがさす他の獣人の子が駆け寄ってきた。前に見かけたより、動物らしい見た目で鷲のような頭をしている。恐らくこの子が最初飛んでいた獣人の子だろう。


 「エイナッ! お前が怒るのは分かるが、ここで暴れるのはよせっ!! お前が変身したら誰も止められないのは分かってるだろ?」


 「イール……ッ!! ッチ、それもそうだな。すまねぇ、ちいっと頭に血が上っちまった。……おい、そこの女。その口ぶりだとここで帰ってもウェダルフの二の舞になりそうだ。何とかする案があるってんなら、とことん聞いてやろうじゃねえか」


 エイナという男の子は、リーダーたる冷静さを兼ね備えているらしく、感情のコントロールが上手だ。あんなに怒りをあらわにしたのに、次の瞬間には話し合いを提案する頭になっていることには、俺も関心してしまう。ウェダルフも憧れるはずだ。


 「イール、アカネとエゼル、あとお前の弟も呼んで来い。首脳会議とやらをしようじゃないか」


 にやりと悪い笑顔を浮かべるエイナに、イールは黙ったまま頷いて独特の鳴き声をあげる。全体に響き渡るようなその声に、様々な種類の鳴き声が返ってくる。そうして一分もかからぬうちにメンバーは集まり、場所も庭園の奥にある食堂らしきところへと案内された。


 向かい合うように座った俺たちだが、不味い事になっていた。そりゃそうだ、この子達の言う案なんてものは俺はおろか、セズもウェダルフだって浮かんじゃいないのだから。

 二人が俺に助けを求めるように見つめてくるが、まてまて! 俺もどうしたらいいかなんて、わかんないぞッ?! まずウェダルフの出生の謎がある中で、どう話を展開するべきなんだ、コレ?!! それにこの子達の状況の打開だって何とかしたい気持ちはあっても、まだ情報が足りない。情報が足りなければ、浮かぶものがないのは当然だろう。

 であるなら俺がここで取るべき手は唯一つ、状況の先延ばしだろう!




 「まずはお互い自己紹介でもしようじゃないか。全くの他人でもいいが、呼ぶべき名を知らなければお互い不便だろう?」


 俺が提案するとエイナも頷き同意してくれた。こうして俺たちの長いようで短い話し合いが始まったのだ。


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