名もないサーカス団
舞台の上で団長が帽子からハトをだした。その途端、観客から大きな拍手と声が響いた。観客の声はやけに頭に響く。
しかけがあるのを知っているのに知らないふりして手を叩いている。
何かを誤魔化すように大きな声をだしている。
「どう?うちのサーカス団に入る気でた?」
手品を見せ終えた団長が舞台の裏手で突っ立っている僕に言った。
「給料もあるよ。一ヶ月1000円。こら、少ないなんて言わない。住み込みだから。ご飯はあたしらが用
意する。どうせ行くところはないんだろ。それならうちにきなよ。」
淡々と話す団長に僕は黙った。
一ヶ月1000円なんて子供のお小遣いじゃないか。
まぁ、それは置いておこう。
泊まることが出来るなら話は違う。
行くところが無いのは否定出来ない。
それに団長に拾ってもらった身だ。恩を仇で返すことはしたくない。
昨日会ったばかりなのにやけに話が早いけど寝られて飯食えればいっか。
「あの…はい。サーカス団、入ります……。」
僕より身長の高い団長の目を見て言った。
「そうかそうか!よろしくな。ライア。」
団長は長い髪を揺らしながら大きく笑った。
そして僕の肩を2回ほど叩いた。
その叩いた手が妙に温かくてじんわり滲んだ。
僕の育ったところに比べて煩くて逃げ出したくなる場所だけど、嘘を吐かなくても生きていける場所だと思った。
また、同じ事を繰り返さないようにここで生きていこう。
逃げ出さないようにちゃんと息を吸って生きよう。
そして、僕は名前もないこのサーカス団に入った。




