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二節

「鶏が先か卵か先か」

約束の日,僕は影と三宮のベーカリーで待ち合わせをしていた


影と僕は丁度ベーカリーの前で鉢合わせをした


えっと、久しぶり?


「・・・一週間ぶりですよ」影は微笑んだ


「秋君は何で来たの?」


何って・・・あ、地下鉄


「私は山陽。阪神って言った方が分かりやすいかな?」


いや、分かるよ


「まあ、立ち話もなんだし中に入ろうよ。秋君の奢りで」


なんかやけに態度が・・・まあいいか、軍資金はたっぷりある

母さんがどこか勘違いしたみたいでくれたからな

”女の子には奢るのが基本よ”とか


影は席に座り、注文したメロンソーダを飲みながら僕に質問をした


「秋君、自分って何だと思う?」


僕は”何故に”と思いながらも一応答えた

自分とは社会的要因に影響された、核、のような物じゃないのかな


影は言った「違うよ」


まあ、そうだろうね。  

僕なんかが分かるわけがないし、そもそもさっき言った事だって本当はどういうことか分かっていないただの受け売りさ。


「そういうことじゃない。自分というのは言葉で説明できない物なんだよ」


どうしてそう言い切れるんだい?

僕はいつの間にかむきになっていた


「簡単だよ、言葉には限界があるんだから」


例えば?


「君は歓喜の歌を言葉で表す事が出来るの?」


無理だ


「君はモナ・リザを言葉で表す事が出来る?」


やっぱり無理だ。


「ほらね」影は微笑んだ


いや、それとこれとは違う。論理的におかしい


「うん。 でもやっぱり君は分かっていない」


何を?


君は「アキレスと亀」の話を知っているかな?


ああ


なら何故アキレスが亀に追いつけないか分かる?


うん


そして何故アキレスが亀に追いつけるのかも分かる?


ああ、一応説明くらいは出来るよ


なら「鶏が先か卵か先か」と言う話を知ってる?


うん


「説明できる?」影は微笑む


無理だよ

というかそんな事できない。当たり前だ。それは有名な解決できない命題なのだから


「出来ない、かあ」影はひどく可笑しそうに顔を歪めた


「ならきみはこういう話を知ってる?

アフリカに住んでいる先住民は”象を上から見たらどうなるか”という絵を描いた時、足を四本描くんだよ」


それが?


「まだ気付かない?私達はテレビやパソコンやゲームがなければ象を上から見たら足は0本ではなく四本見えると思ってたんだよ」


それは怖いね


「何が?」影は珍しく真剣な顔になった


勿論テレビやパソコンやゲームさ


「やっぱり何も分かっていない」



「怖いのはテレビやパソコンやゲームが無ければ象を上から見たら足は四本だとすっかり思い込んで何も疑わなかったであろう私達なんだよ!」


そうか、なら僕はアキレスが何故亀に追いつけるかを分からない可能性だってあったということか


「そう、そして知識が無ければアキレスは亀に追いつけなかったはずだったんだ」

そして影は尋ねる

「でもね?考えてみて?アキレスはいつ亀に追いつけるようになったの?」


!!!!



「そう。私達は大切な物を忘れている」


「もしかしたら”鶏が先か卵か先か”という命題だって簡単に解けてしまう物なのかもしれないよ」


「でも、それはひょっとしたら言葉で表す事ができる物ではないのかもしれない」


僕は彼女の言葉の先を予想して先手を打つ。

「それ以前にモナリザや歓喜の歌はいとも簡単に言葉で表す事が出来るのかもしれない」


影は微笑んだ。「それはそうかもしれない。でも間違いなく自分と言う物は言葉で表す事が出来ないんだ」


どうして?


影は答えた。「言ったでしょう。私達は・・・いや少なくとも秋君は大切な事を忘れている。そして私はそれを知っている。ただそれだけ」


どうしてそんな事が分かるんだ、いや僕と君は何処が違うんだ?


「君は人間、私は、そう。いわゆる吸血鬼」


ヒロインの電波化??

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