五節
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入学式が終わり、僕達はいったん解散となった
「夫婦」は言い過ぎとはいえ事情はたぶん言えないだろう。
そもそも影は僕から声をかけた女の子であるので文句は言えない。というか言えるわけがない。
ということで僕はそのまま反論もしないまま帰途に着いたのだ
入学式はほんの二時間にも満たないから部屋から見える景色は十分に明るい
そして僕はお気に入りの黒い椅子に腰掛け考える。
僕は先日彼女が本気で”吸血鬼だ”と言ってたということが分かっている。
理屈抜きで直感だが間違いないと思う
直感で断定するのは可笑しいと思うがそれはそういうものなのだ
しかしそれは即ち彼女が吸血鬼であるということではない
むしろ彼女がそう信じ込まされている可能性や彼女がそう思い込んでいるだけという可能性のほうが遥かに大きい
又、もう一つ引っかかるのは彼女が言った”僕が忘れている”という物
しかしこれは彼女が嘘を言っている可能性がある
同様に、もし仮に彼女が吸血鬼だったとしても僕が本当に契約者なのかという疑問や僕がもともと一般人では無かったのではないかという疑問は絶えない。
そして重要な事は「僕に影がベーカリーでした話」さらに「邂逅の時に感じた違和感」
更に「彼女が僕に彼女の事を影と呼ばせた」事まで含まれる
・・・・
それは考えすぎだとしてもはっきり言ってこの状況のなかで正確な物など現実しかないということだ
そして逆説的かもしれないがこの状況に正確な説明などつけ様が無いという事だけが正確なのだ
多分何を考えても無駄だろうということを確信した
そして流れに身をまかせるのも良いと思った。
これはもはや諦観なのだが・・・
つまり大事なのはもはや”流れに身を飲み込まれない”事で”流れがどういうものなのか”という事ではないということだ
そして僕はあたかも何も知らなかったように微笑む事を定められている
道は二つある。しかしどちらも同じ所に繋がっている。そして道を外れても最終的には同じ所に繋がっているのだ。ならば余計な事などしないのが得策だろう?
そして一番大事なのはこの状態を僕は嫌がってはいないということだ
むしろ楽しく思う。だってそうだろ?可愛い女の子。波乱万丈の兆しが見える人生。何一つ悪い事なんてないじゃないか。
しかし僕は考えるんだ。それは其の状態が嫌だからと言うことではないんだ。否応がなしに其の状態にさせられたからだ。
考える事そのものが手のひらの上なのかもしれないしそう思う事が策略かもしれないのだが・・・
僕はこういう言葉を知っている”楽観的な人間はいつだって悲観的な人間より生き残る”
根拠?そんな物知った事か!だってそう考えた方が人生が楽しかないか?それで長生きできるんなら尚更だろ?
「それは感心感心。なかなか素敵な心構えだ」
振り向くと影と見知らぬ男
男は名乗った「俺は悪魔。ヒイラギと呼んでくれ」
そしてさも悪そうににやっと笑った
「気を悪くしないでくれたまえ。君の表に出ている思考を読まして頂いた。なにしろ影のパートナーとなるのだからな」
「ボクはそんな風に思われてたんだ。でも可愛い女の子って思ってくれてたから嬉しい」
僕は黙って僕の真上に浮かぶ悪魔”ヒイラギ”とその後ろで座っている影を見上げた