- PreOpening2 -
やまだやまおは今日の成果を噛みしめるように言った。
やまだやまお:「大成功じゃん。やっぱ、花火大会選んでよかったっしょ?」
Lot:「だね。本当やったね。」
JK:「とりあえず、おめでとう。じゃ、俺はこの辺でお店に行ってきます。二人はどうすんの?けんぱいしようぜ、お店で。」
やまだやまお:「俺は・・・今日はいいや。Lotはどうすんの?」
Lot:「俺はとりあえず、飯食いたいわ。腹減った。」
やまだやまお:「じゃ、俺らは飯いくべ。」
JK:「わかった。じゃ、今夜は俺だけだね。ま、時間あったら、後で会おう。」
Lot:「わかった。」
やまだやまお:「俺も車とってくるから、一緒に行くよ。」
そういうと、やまだやまおとJKは暗闇に消えて行った。
Lotは一人、今夜の事を振り返っていた。
Lot:(マジで、今日売れるとは思わなかったな。リアル店舗ってのがデカいってのは本当だわ。オンラインだけってのも今は主流になりつつあるが、こういう信用ってのもあるんだよなぁ。それに、今後はオンラインにも力を入れて行けばいいと思うし、何だか、流れが来てるな。やれるとこまでやってみよう。)
そう決意した夜であった。
そんなことを考えている内に、やまだやまおが親父の車に乗って来た。
やまだやまお:「おまたせ。行こうぜ。」
Lot:「わかった。」
二人は、車に乗り込んだ。
[@Car]
やまだやまおの車の中はいつも同じMixTapeで今夜もKamiroが流れている。
やまだやまお:「何食いたい?」
Lot:「今日はファミレスでいんじゃね?なんか疲れたし、ラーメンって気分でもないし、ゲストでいいんじゃない?」
やまだやまお:「だなぁ・・・俺もなんかサラダとか食いたい。じゃ、ゲスト向かうね。」
やまだやまおはファミリーレストラン「ゲスト」に向かって車を走らせた。
やまだやまおが親父からだまって借りてきた車の中で、Lotは話を続けている。
Lot:「てか、フランク食い過ぎだよ。だからサラダ食いたいとか言い出すんだよ。」
やまだやまお:「いや、多分、マヨネーズつけすぎたかも。」
Lot:「まぁ、でも、売れてうれしいよね。」
やまだやまお:「やっぱり、うれしいよね。本当。」
Lot:「売れるとは思わなかったよ。それも3組だよ?流れが来てるって。マジで。」
やまだやまお:「だね。なんかうまくやっていけるんじゃね?」
Lot:「俺もそう思う。流れが来てる。」
やまだやまお:「あとは、どうやって集客するかだよね?」
Lot:「それについては、経営方針に関して、俺なりに戦略があるから多分いけると思う。そんなに心配してないんだよね。それより、毎回ちゃんと開けて、飽きずに営業できるかのほうが俺は心配なんだけど。」
やまだやまお:「それは俺が家近いし、主に先に開けておくよ。少し位なら仕事サボれるし。」
Lot:「マジで?じゃぁ、何とかなるかな。」
やまだやまお:「一丁、頑張るか。」
やまだやまおは上機嫌だった。
そんな話をしている内に、二人は「ゲスト」に到着した。店内は混んでいたがどうにか入れた。二人は店員に案内されるがままに席に着いた。
店員:「お決まりになりましたら、ブザーを押してくださいませ。」
やまだやまお:「あ、決まってるからお願いします。」
Lotとやまだやまおたちは、着席する前にオーダーが決まっていることが多い。これを彼女同伴や、もたもたしている女の子と出かけると、喧嘩になってしまうことが非常に多かったが、二人は何でもいい体質なので、迷っているのが面倒臭かった。学生時代はメニューを開けただけで、端から全部お願いしますとかいうオーダーをすることも多かったし、それが原因で、仲間の紅一点であるシマムラアメリカンという女の子にむちゃくちゃ怒られたこともあった。
話を戻すが、二人は即座に適当なメニューをオーダーした。
店員:「以上でございますね。」
二人とも既に店員の話は聞いていなかった。
そして、やまだやまおは上機嫌だ。
やまだやまおはニヤニヤしている!?
やまだやまお:「いや、うれしいね。ホント。」
Lot:「でさ、実際集客していくにあたって、一番ポイントになるのは広告というか宣伝なわけじゃない?それについてはSNSを使おうと思ってるんだよね。俺も登録だけしかしてないんだけど、ピコシーってあるじゃん?あれ。あれだけでいけるはず。というか他は全部無駄だと思う。」
やまだやまお:「知ってるけど、できるかな。」
Lot:「あれ、趣味とか全部のってるし、むしろ今、DJやDancerとかみんなあれで集客してるらしいよ。友達の友達は友達じゃんってことで。」
やまだやまお:「へぇ・・・どうやって使うの?」
Lot:「登録するだけ。それで、プロフ書いて、足跡つけていくだけ。興味あればメッセくるでしょ?もしくは気になったらメッセすればいいんじゃない?っていう俺も、登録しかしてないよ。後輩から来たから。」
やまだやまお:「ほっぉ。なるほどね。」
Lot:「簡単そうだろ?」
やまだやまお:「わからない。それでうまくいくか不安だな。」
Lot:「だけど、無料なんだぜ?他の手段も考えたけど、金がかかるじゃん?それは俺らには無理だよ。、大体にしてこれ、遊びだろ?それにそんなに金かけてもしかたないぜ。もっとも、俺らは他に金が出ていくじゃん。」
やまだやまお:「だな。とりあえず、それをやってっみるか。」
そんな話をしていると店員が飯を持ってきたので二人は食べながら話を続けた。
やまだやまお:「基本方針はどうすんの?」
Lot:「伝説のレコ屋をオマージュする。HipHopっぽく言えば、サンプリングさせてもらう。」
やまだやまお:「なんだよ、それ。」
Lot:「具体的に言えば、あそこで売ってる歌モノで90年代以降の盤は全部そろってる。というかそろえた。勿論、今後もっとすげー盤が出て来たかもしれないし、オンラインで出なかった盤もあると思うけど、俺が調べた定番メニューは全部揃えた。」
やまだやまお:「どうやったの?」
Lot:「全部品物プリントアウトして、一枚一枚チェックした。それで持ってない盤は買って、全部持っている状態にしておいた。」
そういうとLotはニヤリとわらった。
やまだやまお:「へぇ・・・よくそんなことしたね。」
Lot:「だってオタクだもん。」
Lotがそういうとやまだやまおは爆笑した。Lotは続けた。
Lot:「俺の予想だと、あそこを上回る個人商店は存在しないと思うんだよね、日本では。値段も質も営業方針もセンスも全てがトップだと思う。俺らはそんな店に入り浸って何度も何度も通ってたのだから、自然にそのやり方がわかってると思うし、そうすればきっと他のDJさんもわかってくれるんじゃないの?それに、プラスするのが、コミュイニティ化と会員制の導入をしたいと思ってる。」
やまだやまお:「会員制?それは無理だよ。来てくれなくなっちゃうよ。」
Lot:「そう思うじゃん?俺の予想だと絶対効率いいと思うよ。」
やまだやまお:「だって、HipHopってだけで、間口が超狭いじゃん。それに加えて、会員制なんかにしたら誰もこねーよ。」
Lot:「俺は、値段で勝負するお店になりたくないんだ。安さが一番なら1円で全部売れば売れると思うじゃん?でも、実際は、1円でも売れないのが現実だと思う。」
やまだやまお:「そうかなぁ・・・」
Lot:「終わってる店で、誰が買うの?そりゃ、マニアのマニアが見つけたら買って行くと思うよ。じゃ、クズ盤が残って、いい盤がくれたとしよう。利益は?0円ジャン。やってる意味ないじゃん。」
やまだやまお:「まぁ、そうだけど。」
Lot:「買ってもらうんだから、その盤の価値をわかってもらう必要があるんだと思うんだよね。」
やまだやまお:「というと?」
Lot:「たとえば、今日も少し話したけど、Joe/Stutterのように、正規盤の盤の多い人気盤は800円とする。それは、基本盤ではあるが、非常に使える。多分他店では1300円前後だろう。そんな相場だけど、うちだと、プレスが多いから比較的見つかりやすいという理由で800円。新譜1枚1000円だからいい盤はそれなりに上がるし、人気ない盤は下がるわけじゃない?そして、どのバージョンが流行ったとか、このバージョンがオススメだとか、いちいち、その都度、レコードの情報を上げるんだから、600円とかだと赤字でしょ?他店じゃ、何も書いてないのが主流だよ。それに、初心者の力になれるようなお店でありたいんだよね。」
やまだやまお:「なるほどね。それは差別化になるだろうね。それと会員制とどうつながるの?」
Lot:「値段で勝負したくないということは、今話したけど、それをするということは、買って行く気のない人にいい盤を出しても恨まれるだけだってのはわかるかな?」
やまだやまお:「価値がわからないから?それとも、教えたくないから?」
Lot:「そう。どっちも。それに、同じモノを100円で高いと思う人もいるし、1000円で安いと思う人もいるわけじゃん。俺は1000円で安いと思ってくれる人と取引したいわけ。一番の理由は儲かるって話より、納得して買って行ってもらいたいから。だから、悩んでるくらいなら、後々のために、買ってもらいたくないんだよ。仕事も遊びもそうだけど、プライドって大事だと思うんだけど。」
やまだやまお:「プライドかぁ。Lotっぽいなぁ。」
Lot:「プライドがあるから、一生懸命やれるんじゃん。それと、話続けるけど、ロトレコはレコ屋であって、レコ屋じゃない。黒人の文化では、HipHopではバーバー(床屋)がコミュニティセンターになっていて、皆が集まって、交流して、知り合いが増えていったり面白い話が出てきたり、そういういう場所になっているんだよ。だから、俺もそういう場の提供ということでも、ロトレコをレコ屋ではなく、レコードサロンとして営業していきたいんだよ。だから、無茶苦茶人に絡んでいくってわけ。」
やまだやまお:「なんだか、面倒臭いな。」
Lot:「でも、結局、人対人だよ。買ってくれるかどうかは。コイツから買ってやるかって思ってもらえない限り、何やっても売れないよ。1円でも買いたくない人からは買いたくないだろ?」
やまだやまお:「まぁなぁ・・・」
Lot:「それに、絡んで色んな人と仲良くなれたら、絶対面白いって。暇つぶしになると思うよ。」
やまだやまお:「面白そうだな。やってみるか。」
Lot:「だろ?それに会員制にするもう一つの理由は、会員特典があるからだよ。」
やまだやまお:「会員特典?」
Lot:「そう。例えば、会員になるとお菓子食べ放題なんですよ。とか、レコード、1枚100円引きです!とか、取り置きできますよとか。女の子ウケもよさそうじゃん?」
やまだやまお:「なんかウケるね。」
Lot:「まだ案だから、もっと細かく規定すれば、きっと会員になってくれそうじゃん?」
やまだやまお:「全てがジョークなら・・・」
Lot:「そう。全てが冗談だからウケるんだろ?」
二人がそうニヤリとした時、Lotの携帯に着信があった。JKからだった。
JK:「二人何してんの?」
Lot:「JKからだ。ちょっと外行ってくる。やまちゃん、払っといて。」
Lotはそういうと、やまだやまおに1000円渡して、外に出た。
Lot:「まだゲストにいるよ。そっちは?」
JK:「Lot、店に来いって。電話しろって言われて。」
Lot:「そんなこと言っての?今日は行かない。やまちゃんと店の事ですげー話してるし。まだ時間かかるもん。今日は無しって言っといて。」
JK:「つめたいなー。アコ、さみしいなまーん。」
Lot:「結構飲んでんの?」
JK:「飲んでる。ちょいちょい酔っぱらった。」
Lot:「そっか。まぁ、どうせ4時ごろっしょ?後で起きてたら会おう。」
JK:「わかった。じゃ、適当に伝えておくね。」
Lot:「うぃ。」
そうして電話を切った頃、やまだやまおが会計を終えて出て来た。
やまだやまお:「JKなんだって?」
Lot:「今から店来いって。行く?」
やまだやまお:「今日はいいや。やることあるじゃん。事務所行こうぜ。」
Lot:「事務所?」
やまだやまお:「誰もいねーし作業できるの、事務所位だよ。コピーもできるし、今日作り上げちゃおうぜ。」
Lot:「だな。来週から営業開始だしな、ちょっとした準備とか盤の整理とかあるし、忙しくなりそうだから、早めにやっとくか。」
やまだやまお:「そうだよ。俺も仕事あるしさ。」
Lot:「CMでだれか言ってたぜ、仕事は誰にでもあるんじゃいって。」
やまだやまお:「確かに。」
そう言って二人は車に乗り込み、やまだやまおの事務所に向かった。
Lot Recordから歩いて2、3分の場所にやまだやまおの親父さんのやっている会社があった。二人はそこに着いた。