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第97話

「おはようございます。陛下」


「あぁ」


エドアルドはセシルの部屋でゆっくりと過ごした翌朝、機嫌よく執務室に現れた。その様子からセシルが王宮に移ることを了承したのだと感じ取ったエルンストは内心、ホッとしていた。


「さっそくですが、セシル様の王妃教育に携わる方の候補を纏めてみました。まぁ、幾人かは既に決定と言っても良いかもしれませんが・・・」


執務机に着きながらエルンストの進言を聞いていたエドアルドはほんの少し、引っ掛かりを感じつつ、先を促した。


「まず、王族としての礼儀や作法についてですが、王太后様とアレクシア様が自分達がやるとそれはもう、張り切っておいででしたので、お願いすることにいたしました」


エルンストはわざと張り切っていたという部分を強調して伝えた。その意図に気付き、エドアルドはそっとこめかみを押さえた。恐らく、あの二人は何を言っても聞きはしないだろうと容易に想像できた。


「それから、この国の歴史や文化についてはビューロー伯爵夫人にお願いしようかと考えています」


「伯母上か・・・。あの方は生きる歴史書みたいなもんだからな。まぁ、適任だろうな」


ビューロー伯爵夫人とは王太后クラリッサの姉でエドアルドの伯母に当たる。名をテルマといい、聡明な女性として知られている。彼女は無類の読書家で歴史書から小説、図鑑に至るまで興味を持った本は何でも読みふける。本好きが高じて増えすぎた書籍をどうするか悩んだ挙句、ついには小規模の図書館まで開いてしまった強者である。


「ビューロー伯爵夫人は王都と領地に小規模の図書館を開館なさって、それを広く民にも公開なさっていますので、そう言った面でもセシル様にご教授いただけるかと思います」


エドアルドの進言に尤もだと頷きつつ、エドアルドは先を促す。


「あとは、国内外の情勢、外国の文化等、内政、外交の面ですが・・・」


「誰だ?はっきり言え」


言いよどむエルンストにエドアルドは不思議そうに問い掛ける。


「・・・ブライトクロイツ侯爵夫妻にお願いすることになりそうです。ご夫妻が是非ともやらせてほしいと強くご希望なさっております」


「・・・何?」


ブライトクロイツの名を聞いた途端に不機嫌になったエドアルドにエルンストは思わず、苦笑いを浮かべる。


「大変申し上げにくいのですが、侯爵殿より陛下にご伝言がございます」


まったく申し訳ないと思っていないような声にエドアルドの機嫌は益々悪くなる。


「・・・言ってみろ」


「この分野で私に勝てる者等居ないことは陛下も分かっておいででしょう?とのことです」


悔しいがその通りであるためエドアルドは何も言えずに忌々しそうに舌打ちをした。


「アレクシアは一度言い出したら聞かないし、侯爵もアレクシアには甘いからな。こちらが何を言おうと押し切られるのは目に見えている。無駄な労力は使わないほうが得策だな」


エドアルドの精一杯の負け惜しみを笑顔で受け止めて、エルンストは話を続ける。


「あとは王太后様のお茶会を通して、テオバルト殿下とギルベルト殿下から財政や軍備についてお話いただくことになるかと思います」


一通り、話を聞き終えたエドアルドの胸にある懸念が生まれた。


「身内ばかりで固めてしまったら反発が起こる可能性があるんじゃないか?」


エドアルドが懸念を口にするとエルンストはこう言った。


「ご心配されるのはご尤もですが、ここまで近しい身内だと逆に反発しづらいと思います。王族すべてを敵に回す勇気が必要ですし、ブライトクロイツが絡んでいるとなると動きづらいですからね。侯爵殿はそれも見越しておいでのようでしたよ?」


エルンストの言葉にエドアルドは納得しつつも、どこまでも自分の上手を行く侯爵に悔しい思いも抱いた。


「あの方は光も闇も見てきた方。そう簡単には勝てませんよ」


エドアルドの心情を読み取ってエルンストはそう言ってエドアルドを諭した。


「・・・分かっている」


少し沈んだ表情をしたエドアルドにエルンストは躊躇いがちに声をかける。


「・・・続けてもよろしいでしょうか?」


それにエドアルドは小さく頷くことで答えた。


「教養の面ではその筋の著名人にお願いしようと思っております。こちらが名簿です」


差し出された名簿には名だたる演奏家やダンスの教師、さらには王宮に仕える庭師の名前もあった。


「庭師?あぁ、あのためか」


エドアルドが言ったあのためとは王妃の執務の一つ、王妃の庭の管理である。王宮の庭園には王妃の庭と呼ばれる区切られた小規模な場所があり、その管理は庭師の手を借りつつ、王妃自ら行うことになっていた。土に触れ、草花に触れ、木に触れ、水に触れ、恵みに感謝する気持ちと民を思いやる気持ちを忘れぬようにと初代の王妃が始め、脈々と受け継がれてきた王家の伝統である。


「あぁ、そうでした」


エドアルドが王妃の庭を連想させる言葉を言ったことでエルンストは伝えることがもう一つあったことを思い出した。


「王太后様からもご伝言を賜っておりました」


「母上から?」


「はい。王妃の居室と王妃の庭は自分が王妃の頃にままになっているはずだから、セシル様の好きなように改装したり、模様替えをしたりして構わないと、自分に気を使う必要は無いとの仰せです」


エルンストから告げられた母の言葉にエドアルドはしばし、考え込むとエルンストにこう告げた。


「一度、セシルに部屋と庭を見せておいたほうがいいな」


「そうですね。ではその旨、女官長と庭師に伝えておきます」


「あぁ、頼む」


「畏まりました」


エドアルドはセシルはどんな反応をするだろうと考えると、緩みそうになる顔を手で覆って誤魔化していた。

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