表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/103

第96話

「さて・・・」


一頻り、二人きりの時間を楽しんだエドアルドはサイドテーブルの呼び鈴に手を伸ばす。チリリと澄んだ音が鳴り響くと侍女室からニコラ達が恭しく現れた。


「御用でございますか?」


ニコラの問いかけにエドアルドは小さく頷くと隣に座るセシルをそっと見た。その視線を受けてセシルはしっかりと頷いてみせた。


「時期はまだ未定だが、近々セシルの居を王宮に移す。時期が決まった場合、準備にどれくらい必要だ?」


エドアルドの告げた言葉にニコラ達は内心、驚いた。同時にいよいよ時が来たのだと期待に震えてもいた。


「前回の引越しより、荷物も増えましたし、距離も遠くなりますから、四日か五日くらい頂ければ問題ないかと思います」


「そうか。では、引越しの際には手伝いの者をやろう。コンラート達だけでは男手が足りんだろう」


「お心遣い感謝いたします」


ニコラはそう言いながら深々と頭を下げた。イーナとモニカもそれに続いた。


「話はそれだけだ。下がってよい」


エドアルドはそう言ってセシルの肩を抱いた。セシルは恥ずかしそうにエドアルドに身を寄せる。


「畏まりました。失礼いたします」


主たちの仲睦まじさを見て見ぬ振りしてニコラはイーナ達を伴って侍女室の奥に消えた。


「王宮に居を移すということはセシル様の王妃内定は取り消されるどころか、益々磐石になったと思ってよいのでしょうか?」


侍女室に戻るとイーナがそう問いかけた。ニコラはその問いに真剣な表情でこう答えた。


「そう思ってもいいのでしょうね。これから私達も王妃付きの侍女として周りから見られるようになります。気を引き締めなくてはなりませんね」


ニコラの言葉にイーナとモニカの顔にも緊張が走る。


「喜んでばかりもいられないのですね。私達の失態はセシル様の顔に泥を塗ることになってしまいます」


モニカがそう言うとイーナも考え込むような顔をして黙り込んでしまった。


「気を引き締めなくてはならないとは言いましたが、気負いすぎてもいけませんよ。焦りは失敗を呼びますからね」


ニコラが諭すように語り掛ける。二人はそれに神妙な顔で頷いた。


「さぁ、今夜は私がここに残りますから、二人は自室にお戻りなさい」


侍女室には交代で誰かが泊ることになっていた。ニコラ一人だった頃はここはニコラの自室扱いだったがのだが、侍女が増えたことにより、ニコラには別の部屋が与えられ、ここを少しだけ模様替えしてそういう体制をとるようになった。


「はい。では、私達は失礼いたします」


イーナがモニカをそっと促す。


「では、失礼いたします」


モニカもそう告げて、イーナと共に侍女室を後にした。



一人きりになった部屋でニコラはエプロンのポケットから懐中時計を取り出し、それをそっと胸に抱きしめた。その懐中時計はニコラの夫の形見だ。お屋敷勤めの傍ら、ニコラも自分の家庭という物を持った。優しい夫と可愛い娘。幸せな日々だった。けれど、娘は幼くして病で亡くなり、夫にも数年前先立たれた。何もかもなくしたニコラにとってセシルは唯一の生き甲斐となったのだ。だから、こうして後宮にまで付いてきた。だからこそ、誰よりもセシルに幸せなって欲しいと願っているのだ。


「やっとここまで来たわ。あなた、エミーリア、どうかもう少し待っていてくださいね」


セシルが幸せになるまではそちらへはいけない。それがニコラの誓いだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ