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第88話

「はい、お呼び出しに応じまして不肖の義弟めが馳せ参じて参りましたよ。義兄上」


「相変わらずだな、お前は。・・・義兄上と呼ぶな」


頗る上機嫌で執務室に現れたブライトクロイツ侯爵にエドアルドはうんざりしたようにそう言ったが、侯爵はそんなことは気にも留めずに上機嫌のまま語りだす。


「ですが、陛下は私の可愛い妻の兄上でらっしゃいますからね。私にとっても義兄上でしょう?」


さも当然のようにそう言う侯爵にエドアルドは大きなため息をついた。


「お前にそう呼ばれるのは違和感がありすぎる」


心底嫌そうなエドアルドを侯爵は可笑しそうに見つめている。


「まぁ、そうでしょうね。何せ私は陛下達のお父上と年齢がそう変わりませんから」


カミル・ブライトクロイツ侯爵はエドアルドの妹、アレクシアの夫である。ブロンドの髪は緩やかにカールし、翡翠色の瞳はいつも優しげに笑っている。鼻筋の通った整った顔立ちは著名な彫刻家の作品にたとえられるほど美しく、その顔に年相応のしわを刻んだ今も尚、女性の心を掴む。そんな彼だから、早くに妻を亡くし、その後新たな妻を娶ることもせずに、同じような境遇の未亡人と浮名を流してきた。アレクシアはどこをどう気に入ったのか彼に一目惚れし、年齢差を気にして流石の彼も親密になるのを躊躇するのもお構いなしに、攻めて攻めて終には彼と結婚に反対する周りの者達を陥落させてしまった。


「・・・アレクシアは息災か?」


エドアルドは侯爵にそう問いかけた。手紙のやり取りくらいはしているが、アレクシアは王宮を訪れることもほとんど無いし、エドアルドが侯爵家を訪ねる機会もあるはずも無く、気になっていたのだ。


「えぇ、元気ですよ。今は子供の世話でてんてこ舞いですけど、楽しそうにしてます。いやぁ、まさかこの歳で一から子育てをすることになるとは思いませんでしたよ」


侯爵はそう言って困ったように笑ったが、エドアルドは侯爵自身もそれを楽しんでいるように感じた。


「余もお前との間柄が義兄弟になるとは夢にも思っていなかった」


親子ほど年齢差のあるアレクシアの片思いが叶うなどエドアルドは考えていなかったのだ。


「私だって考えていませんでしたよ?アレクシアの手を取るつもりはありませんでしたからね。あの子の気持ちを子供の言ってることだ、恋に恋してるだけだと軽んじるつもりはありませんでしたけど、やっぱり年齢差は気になりましたからね。・・・でも、あの時、私はアレクシアを失いたくないと思いました。あの時に私は自分の気持ちを認めることが出来たのです」


熱弁を振るう侯爵を横目で見ながらエドアルドは侯爵の言うあの時とは何時だろうとぼんやりと考えていた。そして、一つの事件を思い出す。


「あの時ってあれか?アレクシアが城壁の上からお前に向かって結婚してくれないなら死ぬと叫んだ時か?」


求婚どころか交際さえ応じてくれない侯爵に業を煮やしたアレクシアが命懸けで求婚したことがある。世に言う『姫様 城壁より愛を叫ぶ事件』である。エドアルドの問いに侯爵は大きく頷いた。


「あの子はやると言ったら本当にやりますからね。あの時、私が素直にならなければ私は、いや、私達はあの子を失っていたでしょう」


まさか、そんなことは無いだろうと言えないのがアレクシアである。彼女は有言実行、猪突猛進を信条としている。


「・・・そうかもしれんな」


エドアルドがそう言うと侯爵も真剣な顔で頷いた。それきり、会話が途絶えてしまったのだが、侯爵は自分が呼ばれた理由をまだ告げられていないことを思い出した。


「陛下、そういえばどういったご用件で?まさか、私と妻の惚気話を聞きたかったわけではないでしょう?」


「当たり前だ。そんなもの聞きたくは無い。お前に頼みがあったのだ」


「頼みですか?」


エドアルドは侯爵にブルックナー伯爵家のことを話した。もちろん、ディレクの出生の秘密やエディタとディレクの死が実は自殺であることは伏せて話した。エドアルドは聡い彼のことだから、伏せたところで気づくかもしれないと思ったが、彼がそれを口外するような男ではないと信頼していた。

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