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第84話

「お待ちしておりました。セシル様」


セシルが後宮を出るとエルンストが待ち構えていた。


「どうぞ、こちらへ」


エルンストに誘われ、セシルは王宮の一室に赴いた。


「中でお父上がお待ちです。すぐに陛下もいらっしゃいます」


エルンストにそう告げられてセシルは火急の用件が自分の家族のことであると理解した。一体何が起こったというのだろうか。エドアルドも同席するということはよほどのことだろうと思うとセシルの胸に不安が渦巻いた。


「・・・わかったわ」


そう答えてセシルが部屋に入ろうとすると廊下の向こうからエドアルドがやってきた。


「・・・セシル」


セシルの姿を見てエドアルドが声をかける。セシルは不安げな視線をエドアルドに向ける。


「・・・さぁ、入ろう。お前たちはここで待機せよ」


そんなセシルを気遣うようにその背を撫でて、エドアルドが促す。セシルは小さく頷いてそれに従った。ニコラたちはエドアルドに待機を言い渡せれたのでそこに留まった。


「・・・お待ちしておりました」


二人が室内に入るとアロイスは席を立って頭を下げた。


「あぁ、待たせたな」


そう答えてエドアルドが席つく。それを待ってセシルがエドアルドの隣に座り、さらにそれを待ってアロイスが席に着く。


アロイスはエドアルドに視線を向ける。それにエドアルドが小さく頷いて答えるとアロイスが重い口を開いた。


「・・・セシル。エディタとディレクが亡くなった」


「・・・え?」


セシルは何を言われたのか解らなかった。言葉は聞こえたが頭が理解することを拒んでいるかのようにそれを認識することができなかった。


「今・・・何て?」


そう問いかけていた。もう一度聞いても告げられる言葉は変わらないことはどこかで分かっていたが、問いかけずにはいられなかった。


「エディタとディレクが亡くなったと言ったんだ。二人はもう、どこにもいない」


セシルは反射的に隣にいるエドアルドの手を求めた。それに気づいたエドアルドがしっかりとその手を掴む。握られた手の力強さにセシル何とか気力を振り絞った。


「・・・どうして?」


そう問いかけることがセシルに出来る精一杯のことだった。


「二人は異国の地に二人だけで赴くことになっていた。今まで使用人に囲まれた生活を送ってきた二人がいきなり全てのことを自分ですることなど無理だと思った。だから郊外の別荘でその訓練と称してあの二人を軟禁していた。・・・慣れぬことをさせた。その代償が今回の事故だ。火の不始末により火事が起きた。逃げ遅れた二人は亡くなってしまったんだ」


セシルは父の言葉を呆然と聞いていた。人間、衝撃が強すぎると泣くことも叫ぶこともできないのだとセシルは身をもって知った。


「・・・セシル」


エドアルドが呼びかけてもセシルは何の反応も示さなかった。その瞳は一転を見つめたまま微動だにしない。


「部屋に戻って休め。余も後で行くから」


そう言ってエドアルドがセシルを支えてソファから立ち上がらせる。セシルは促されるままに部屋を出た。外ではエルンストから事情を聞かされてた従者の面々悲痛な面持ちで待っていた。エドアルドはニコラを見つめてこう言った。


「セシルを頼む。後で必ず逢いに行く」


ニコラはそれに頷くことで答え、セシルを支え歩き出す。それを見送ったエドアルドは部屋に戻り、アロイスと向き合った。


「話さぬのだな」


エドアルドがそう問いかけるとアロイスは苦しげにこう答えた。


「真実はセシルに新たな傷を生みます。あの子はもう十分傷ついた。わけも分からず虐げられた日々は消えませんが、これ以上苦しめたくはございません」


アロイスの気持ちが分からないでもないエドアルドは大きなため息をついた。


「そうか。お前がそう決めたのならそれでいい」


エドアルドはそう言った後、表情を曇らせた。これから話すことは今話すことではないかもしれない。だが、あまり逢う機会も無いのも確かでエドアルドは仕方なく口を開く。


「しかし、こうなってしまってはエルナ親子をブルックナー家に迎える時期は慎重に見極めねばな。時期を誤ればお前に在らぬ疑いがかかる」


アロイスもそのことでエドアルドに話したいことがあった。今話すのもどうかと思い、躊躇していたがエドアルドの方から口火を切ってくれたのでアロイスはそれを話す決心を固めた。


「陛下、そのことでございますが、エルナは当家の後妻に入ることを望んではおりません。ですから、エルナの貴族との養子縁組の件は無かったことにして頂きたいのです」


アロイスが告げた言葉にエドアルドは意外そうな顔をした。


「後妻に入ることを望んでいないのか?身を引くつもりか?」


「・・・はい。アドルフォを送り出した後、自らは遠方へ赴くつもりでいるようです」


「・・・殊勝なことだな」


エドアルドはそれきり何も話そうとはしなかった。






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