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第83話

「陛下、昨夜ブルックナー伯爵夫人とご子息が火事で亡くなられました」


執務室に入ってすぐにエルンストから投げかけられた言葉にエドアルドは目を見開く。


「・・・何だと?」


「対外的には庶民の真似事をしようとした夫人が厨房の火の始末を怠りになり、そこを火元に別荘が全焼。逃げ遅れたお二人が事故死ということになっておりますが、おそらくは・・・」


「・・・自殺か?」


エルンストが小さく頷く。エドアルドはため息をつきながら、執務机の椅子に座った。


エディタの予想通り、エドアルドは二人は刺客に襲わせる気でいた。自ら手を下さずに済んだことにどこか安堵している自分にエドアルドは嫌気が指す。それと同時にそこまで追い込んだのは自分であるという思いにもとらわれ、エドアルドの胸中は複雑だった。


「・・・その対外的な話は周りに信用されているのか?」


「夫人はご実家にいらっしゃる頃、メイドの真似事をなさったことがお有りのようで、気まぐれに庶民の真似事をしてもおかしくはないといった見解であるようです。ご子息に関しては夫人が溺愛していたことは周知の事実ですから、婦人の気まぐれに付き合って巻き込まれたのだろうと思われているようです」


淀み無く答えるエルンストをエドアルドは只、見つめていた。


少し無理はあるが指摘するには至らない程度に抑えてあるように思う。この程度なら誤魔化せるだろうとエドアルドは思った。


「この件につきまして、ブルックナー伯爵からセシル様に逢って、直接伝えたいとの申し出がございますが、如何なさいますか?」


「事が事だからな、許可しよう。俺も同席する」


「畏まりました。準備いたします」


そう言ってエルンストは執務室を後にした。一人きりになった執務室で、エドアルドは片手で目元を覆い、天を仰いだ。



「王宮へ?一体どうしたというの?」


突然、王宮に呼び出され、セシルは困惑した表情を浮かべた。それを告げに来た女官長は言葉を濁す。


「・・・何でも、火急の用件だそうでございます」


女官長は既にブルックナー家に起こったことの報告を受けている。王宮からの呼び出しが、それに関するものであるということも分かっている。それゆえに言葉を濁すしか無かった。


「分かったわ。すぐに王宮に参ります。ニコラ、付いて来て」


「畏まりました」


ニコラを伴ってセシルが部屋を出るとコンラートが声をかけてきた。


「セシル様、どこかへお出かけですか?」


「えぇ、王宮へ。コンラート、付いて来てくれる?」


コンラートはにこりと笑ってそれに応じ、詰所に声をかける。


「エアハルト、アルトゥル。セシル様がお出かけになる」


コンラートの呼びかけに応じて、二人が詰所から出てくる。


「アルトゥルは残って警備を、エアハルトは俺と一緒に同行してくれ」


二人は頷いて、それぞれ配置についた。


「じゃあ、行ってくるわね」


扉の前で見送るアルトゥルにそう声をかけて、セシルは歩き出した。


王宮への道すがらセシルはずっと気になっていたことをコンラートに問いかけた。


「ねぇ、コンラート。後宮って男子禁制よね?どうして貴方たちは私の護衛に付けたの?」


セシルの問いかけにコンラートは苦笑いを浮かべる。


「我々は特例なのですよ。セシル様の護衛に付く者には色々と制約がございました」


「制約?」


「はい。既に妻帯している者、または婚約者がいる者」


コンラートの言葉にセシルは目を丸くする。


「それじゃあ、貴方たちは皆んな結婚しているの?」


「私とエアハルトは既婚者ですが、アルトゥルは婚約者がおります」


「へぇ、そうなの」


セシルはそう答えて、にこりと笑った。


「後宮の側室様方や女官、侍女に手を出せないっていう誓約書にもサインさせられましたよ。侍女や女官はまだ分かりますけど、側室様方に手を出すわけないじゃないですか。信用ないのかと落ち込みました」


エアハルトがうんざりしたように言う。セシルはそれに驚いた。まさかそんなことまでさせられているとは思っていなかったからだ。


「あれは側室様方の手前そうなっていただけ、あちらからの誘惑に乗るなという意味だ。分かっているだろう?」


コンラートが小声で諭す。エアハルトは面白くなさそうな顔で頷いた。


「苦労をかけているのね。ごめんなさい」


セシルが本当に申し訳なさそうな顔でそういうとコンラートたちは慌てた。


「セシル様。何も気になさる必要はございません。我々はセシル様の護衛を任されて良かった思っております。なぁ、エアハルト」


「もちろんです。セシル様、我々のことは気にしないでください。私は妻を愛してますから、あんな誓約書は守ろうと思わなくても守れます」


「お前、ついでに惚気るなよ」


「あれ?」


コンラートとエアハルトのやり取りにセシルは思わず、クスっと笑う。それを見て、二人はホッと胸を撫でおろした。



この楽しい時間が終を告げ、大きな悲しみに包まれることをセシルはまだ知らない。


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